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連載

河﨑秋子の羊飼い日記 vol.11

【連載第11回】河﨑秋子の羊飼い日記「警察から振り込め詐欺みたいな電話がきた話」

河﨑秋子の羊飼い日記

北海道の東、海辺の町で羊を飼いながら小説を書く河﨑秋子さん。そのワイルドでラブリーな日々をご自身で撮られた写真と共にお届けします!
>>【連載第10回】河﨑秋子の羊飼い日記「繁忙期・怒濤の草刈り篇」

 のっけから非常に個人的なネタで恐縮ですが、今夏、自動車のスピード違反で警察に捕まりました。
 町に出たあの日、農繁期のため気が急いていたのがいけなかったのか、北海道名物・見通しのいい道路がスピード感覚を狂わせたのか。ともかくも、お巡りさんに止められ、手続きののち罰金の振込用紙を渡された。
 ええ、完全に私の過失です。申し開きのしようもございません。深く反省し、違反金を振り込んで帰ってきた。
 しかし話は私の反省で終わらない。
 帰宅して数時間後。固定電話が鳴り、『もしもし、○○警察署ですが、先ほどの違反の件で~』と男の声。
「違反の件でしたら、頂戴した振込用紙ですでに手続きを終えましたが」
『その振込用紙なんですが、どうも担当の者が金額を間違えて書き込んでいたようで。三千円、足りないんです』
「は!?」
『本当に申し訳ありません~。ですが、あと三千円、お振り込み頂かないといけないんです』
「いやいやいやいや、署名と拇印押さされて、“これで間違いありませんね?”って重々確認させられたのに、その書類自体が間違っていたと?」
『間違えた、らしいんですよね~、担当者が』
「担当者がって言ってもそちら、警察、ですよね? そんな手違いなんて、ありえるんですか?」
『ありえてしまった…んです~。すみません~。担当の者が追加分の振込用紙をお持ちしてそちらに伺いますので、手続きのほどよろしくお願いします~』
「……はあ……」
 なんだそりゃ。話を聞きながら、私は妙な気分になった。拇印まで押した書類それ自体が間違っていたとか、そもそも許されるものなのか? 当惑しているうちに玄関がピンポンと鳴り、警察官姿の男が来訪。非常に申し訳なさそうに、しかし確実に三千円分の振込用紙を渡して帰っていった。
 混乱しながらも振り返ってみる。 “警察と名乗る電話”“お金を振り込んでもらわないといけない”“一応下手に出てはいるが絶対に譲る気配はない”トドメは“振込用紙を持って家にまで来る”。
 ………コレはもしかして、振り込め詐欺とかいうやつなんじゃないだろうか? 狭い町だから、違反したところを見た悪い人が私を詐欺にかけようとかそういう。警察官の格好だって、今の時代は精巧なコスプレとかあるし。振込用紙だって偽造もしくは他人宛のものを流用された可能性だってあるし。
 怪しい要素はアリアリなのだが、額面が少ないというのと、本当に警察だった場合、シカトに徹した結果ろくでもないことになりそうなので、ひとまず大人しく振り込んではおいた。仮にこれが詐欺だった場合、更に難癖をつけて金を引き出そうとするだろうから、その時は毅然として対応したうえ当欄でご報告させて頂くとしよう。
 ……それにしても今回の件。詐欺でないならそれにこしたことはないのだが、よりによって警察が、振り込め詐欺とまったく同じ手順を踏んでいることになり…それはそれで、まずい気がする。とても。
 自分の中で、国家権力、特にその事務処理能力に対する信頼が根底から揺さぶられたと同時に、「まあそもそもスピード出しすぎなければゴタゴタもなかったはずだよね」と、安全運転を固く誓った一件だった。

とりあえず反省の意を猫に示す著者。

 
 
河﨑秋子(かわさき・あきこ)
羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊(めんよう)を飼育・出荷。
2012年『北夷風人』北海道新聞文学賞(創作・評論部門)受賞。『颶風(ぐふう)の王』では三浦綾子文学賞、2015年度JRA賞馬事文化賞を受賞。


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