驚きをいくつも秘めている号泣教場小説!
『警視庁01教場』レビュー
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『警視庁01教場』
著者:吉川英梨
書評:池上冬樹(文芸評論家)
吉川英梨の「警視庁53教場」シリーズも熱かったが、新シリーズ第一弾『警視庁01教場』も熱い。
物語はまず、警視庁刑事部の見当たり捜査員・甘粕仁子が、公安部の刑事とお台場のホテルでデートしている場面から始まる。そこで偶然、半グレ組織「榛名連合」幹部の堀田光一を発見する。暴行・殺人を犯した集団のリーダーだったが、行方をくらましていたのだ。甘粕はレインボーブリッジの吊り橋まで追い詰めるが……。
一年後、警察学校の助教官である塩見圭介は寝坊して大慌てで学校に駆けつける。その日は一三三〇期の入校日だった。全部で八教場(クラス)あり、塩見は、甘粕仁子教官率いる甘粕教場の助教官だ。甘粕は犯人追跡中に大けがを負い、一週間死線をさまよい、入院は半年に及んだ。刑事をやるには肉体的・精神的に厳しく、警察学校の教官を希望したという。塩見はすでに二期つとめ、今期のあとに捜査一課の刑事に戻るつもりでいた。助教官として最後に学生たちを熱心に教えたいと思っていたが、甘粕は学生たちによそよそしかった。
個性の強い学生はいるもののトラブルはなかったが、やがて看過できない小事件が次々に起きるようになる。塩見はより一層、教官と助教官の密な連携が不可欠と感じるものの、甘粕は距離をおく態度を崩さなかった。そんな矢先、教場内で人の右脚が発見される事件が発生する。
と紹介すると、猟奇的な殺人事件を題材にしたミステリに見えてしまうかもしれないが、そうではない。そもそも「教場」というと、テレビ・ドラマ化された長岡弘樹の「教場」シリーズを思い出す人が多いだろうが、警察学校を舞台にしているとはいえ、まったく味わいが異なる。長岡作品はアイデアに富む巧緻なプロットで本格ミステリ的な仕掛けが面白く、重々しく深刻な雰囲気が支配的だが、吉川作品は逆にのびのびと明るい青春小説としての輝きに満ちていて、キャラクターもラノベ的な軽やかさをもつ。それでいてミステリ的な興趣もあり、伏線回収も見事で読ませるが、でももっとも熱いのは人物たちの思いだろう。人間ドラマが白熱化していくのである。
この場合の人間ドラマとはまず、まだ二十歳になっていない学生たちの苦悩との対峙である。隠された苦しみや自覚していない未熟さをあらわにし、尊敬される警察官になるという使命を育成の中で捉えていく。何が警察官になるうえで正しく、逆に何が悪いのかを様々な挿話を通してあぶりだし、それを教官たちが熱く激しく教えていくのである。
そして、最大のドラマは、主人公たちにある。クールな女性教官と熱き助教官のコンビがテーマのようにも見えるが、物語の中心にあるのはプロローグの事件であり、甘粕が抱えている秘密である。いったいそれは何なのか。それが明らかになる終盤からいっそう盛り上がり、帯にあるように「号泣必至」となるし、大いなるハンデを背負っての追跡と活劇も緊張感たっぷりで、それがよりいっそう人物たちの(そして読者の)感情をかきたてることになる。
冒頭でもふれたが、吉川英梨にはすでに「警視庁01教場」シリーズ五作(『警視庁53教場』『偽弾の墓 警視庁53教場』『聖母の共犯者 警視庁53教場』『正義の翼 警視庁53教場』『カラスの祈り 警視庁53教場』)がある。五味京介という教官が率いる教場を舞台にした作品で、本書に教官として出てくる高杉は五味の助教官をつとめていたし、塩見は二人にずいぶん助けられた。本書には高杉だけではなく、捜査一課に戻った五味も後半から加わるし、何よりも“彼らの娘”ともいうべき結衣が塩見の恋人として登場するから波瀾含み。なぜなら高杉も五味も結衣を溺愛しているからで、塩見と結衣の関係は秘密にせざるをえないという設定だが、もちろん本書は独立しているので、そのへんのことは詳しく説明されているから心配はない。「53教場」シリーズのファンは「53教場」のスピンオフまたはシリーズ2として愉しめばいいし、新たな読者は本書を契機に「53教場」に手を伸ばせば、ますます熱い教場小説の虜になるだろう。
作品紹介
警視庁01教場
著者 : 吉川英梨
発売日:2023年11月24日
多彩な人間ドラマ! 驚きをいくつも秘めている号泣教場小説!
甘粕仁子は見当たり捜査員だったが、犯人追跡中に大けがを負い戦線離脱。警察学校の教官になった。助教官の塩見とともに1330期の学生達を受け持つが、仁子の態度はどこかよそよそしい。やがて学生間のトラブルも頻発。塩見は、教官、助教官の密な連携が不可欠と感じる。そんな矢先、警察学校前で人の左脚が発見される。一体誰が何の目的で? 教場に暗雲が立ちこめる中、仁子が人知れず抱えていた秘密が明らかに――!
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