東京・南新宿に事務所を構える心霊探偵・濱地が助手のユリエとさまざまな怪奇現象の謎を解き明かす、有栖川有栖さんの「濱地健三郎シリーズ」。作家、脚本家、書評家など、物語世界に関わり活躍される方々は、どのように読み解くのか。最新作『濱地健三郎の呪える事件簿』の魅力について語っていただきました。
(本記事は「怪と幽vol.012」に掲載された内容を転載したものです。)
一穂ミチさんが語る! 心霊探偵・濱地健三郎の魅力
有栖川有栖×クラシカルな探偵紳士×心霊。
もはやわたしのための欲張りセットとしか思えない……と図々しく考えてしまうほどに、好きの三乗なのが「心霊探偵・濱地健三郎」シリーズです。とにかく「コワ面白い」! 三作目となる『呪える事件簿』は、コロナの渦中だからこそ起こりうる怪異も密に描かれ、新宿のどこかで今も濱地先生はガレのランプを磨いてらっしゃるのかも……と想像してしまいます。
怪異の魅力と恐怖の源泉は、その「わからなさ」にある一方、謎を解きほぐしていくのがミステリの醍醐味。濱地シリーズでは、逆方向に走ろうとする両輪のようなふたつの要素が見事に制御されていて、問題は解決されながらも、灰色の紗の向こうにある何か(あるいは何者か)は依然として「何か」のままで、それが絶妙な余韻を残してくれています。たとえば収録作「伝達」や「どこから」のラスト、高所から地上を見下ろした時のような、ひやりとした読後感はぜひ体感していただきたいもの。
そして、怪異と両輪をなすミステリ要素の満足度は、今さら語ることもなかろう(だって有栖川有栖だよ!?)という感じですが、心霊という題材であっても、ロジカルな推理と展開は揺らぎません。不条理の中にも理があり、物理法則からはぐれた迷子たちにも彼らの法がある。濱地健三郎が「霊能者」でなく「心霊探偵」を名乗る所以が、これ以上ない説得力で描かれています。
それにしても今作、前二作より「コワ」にターボがかかっている気がして、何度もぞくぞくさせられました。この鳥肌を収める手段としては、やはり読了した同志たちと「あそこ、怖かったよね~!」とわいわい語り合うのがいちばんなので、みんなで読んでみんなで盛り上がりたい! そして怪異は拡散され、増殖し、そこから生まれた新たな薄闇が心霊探偵を喚ぶのでしょう。
最後に、第一作『濱地健三郎の霊なる事件簿』から、個人的に大好きなくだりを。探偵が、少年の魂を送った場面。
「秋空には、ほとんど雲がない。実際に死者の魂が風船のように天に昇っていくわけではないが、濱地はさっきの少年のために今日が快晴であったことをうれしく思った。」
有栖川有栖作品の魅力は、謎解きやキャラクターももちろんですが、こんなふうにさりげなく差し挟まれる、栞のようなやさしい眼差しにもあるんだよなあ、としみじみしました。
読み切り形式で複数の事件が収録されていて、ここから読んでも楽しめる!
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書籍紹介
濱地健三郎の呪える事件簿
著者 有栖川 有栖
発売日:2022年09月30日
江神二郎、火村英生に続く、異才の探偵。大人気心霊探偵シリーズ最新刊!
探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。リモート飲み会で現れた、他の人には視えない「小さな手」の正体。廃屋で手招きする「頭と手首のない霊」に隠された真実。歴史家志望の美男子を襲った心霊は、古い邸宅のどこに巣食っていたのか。濱地と助手のコンビが、6つの驚くべき謎を解き明かしていく――。