一瞬も油断できない! 密林冒険サスペンス。
下村敦史『ロスト・スピーシーズ』
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下村敦史『ロスト・スピーシーズ』
弱肉強食のアマゾンで、生き残り目的を果たすのは誰か。
評者:加藤英明
ロスト・スピーシーズは、失われた種という意味だ。現在、地球上から消え行く生物は加速度的に増えており、その原因は私たち人間にある。野生生物や天然資源の乱獲とそれに伴う環境破壊、個人の欲を満たすための収集が、世界各地で繰り返されている。負の連鎖は広がり、人目に触れることなく消える生物もいることだろう。地球と生物、人類の未来が、大きく変わろうとしている。そんな負のホットスポットが、南米アマゾンだ。密林が広がる大地で、厳しい生存競争が繰り広げられている。
私は世界中のジャングルや砂漠、荒野を駆け巡ってきた。地雷が埋まる危険地帯を走り抜け、時には発砲音に肝を冷やしながら身を低くし森の中を走ることもあった。猛毒を持つ危険生物にも狙われた。私を駆り立てたのは、未知なる生物進化の世界を垣間見たいという、果てなき好奇心と探求心だ。
この地球上には、私たちの知らない世界が広がっている。熱帯のアマゾンもまたそのひとつだ。深い密林が広がり、多種多様な生物が存在する。そして、様々な境遇の人々が暮らす。私は、そんな南アメリカの密林に潜入したことがある。森の中は生物相が豊かで、足元には様々な生物が蠢き、尊い命の息吹を感じた。そして、なぜか薄暗くて不気味で、緑の壁が迫ってくるかのようで息が詰まった。きっと、未知なる世界に恐怖を感じたのだろう。けたたましい声で威嚇するサルや大地を踏み鳴らし群れで駆けるペッカリー、水辺にはワニも潜む。ピラニアやデンキウナギが潜む川を命がけで渡り、目の前に現れたオオアナコンダを捕獲した。森には危険が多い。ウイルスや細菌も私の命を狙っていただろう。そして、町に出れば、人々の暮らしの中に私を刺すような冷たい視線もあった。そんな喰うか喰われるかの弱肉強食の世界は、私に宿る野性の本能を刺激した。
アマゾンでは、誰もが酔いしれる。無限の可能性を秘めた場所であり、果てなき欲望を駆り立てる。天然資源の埋蔵量は未知数で、黄金のみならず、高価に取引される鉱物や希少野生動植物などが秘める。それらを探し当てられるかどうかは、運と鋭い直感なのだろう。今も昔も、富を求めて夢を抱いた人々が世界中から集まり、密林の奥深くに消えていく。一獲千金で夢をつかめた人もいれば、諦めて帰路につく人もいる。そして、志し半ばで命を落とす人も。生きるか死ぬか、アマゾンは人々が命を懸けた弱肉強食の世界だ。選択を間違えれば、底無しの欲望に呑み込まれ、命はない。己の欲と野望に支配されるか否かで、この世の楽園にも地獄にもなる。
遠く離れた日本に暮らす私たち日本人の欲もまた、アマゾンから輸入される品物から窺い知ることができるだろう。日本人との繋がりは意外と深い。きっと、私たちの豊かな生活は、多くの犠牲の上に成り立っている。そんな光と闇が交差するアマゾンを舞台に繰り広げられる、小説『ロスト・スピーシーズ』。過酷で恐ろしい密林と人々の果てない欲望が渦巻く。小説の世界と私が目にした世界が重なり、読み進むうちにまるで自分がアマゾンにいるかのような感覚に陥った。この作品を手に取った人は誰もが、"あなたの知らないアマゾンの世界"を知ることになるだろう。そして、決して遠い世界の話ではないことを感じて欲しい。
私は生物学者として、進化生物学や保全生物学を研究しているが、地球上から消え行くものを守るためには、人々の暮らしを支え豊かにすることが必要不可欠と感じている。人々の幸せが、野生生物と環境を守ることに繋がる。ロスト・スピーシーズは、きっとあなたに大切なことを教えてくれるだろう。
作品紹介・あらすじ
ロスト・スピーシーズ
著者 下村 敦史
定価: 2,035円(本体1,850円+税)
発売日:2022年08月26日
生き残り目的を果たすのは誰か――絶滅危惧種争奪戦!
がんの特効薬になる幻の植物「奇跡の百合」を見つけるため、大手製薬会社に所属するクリフォードは南米アマゾン奥地への探索チームを結成した。植物研究者としてメンバーに加わった三浦は、ボディガート役の金採掘人ロドリゲス、植物ハンターのデニス、環境問題に取り組む大学生・ジュリアと共にアマゾンに分け入ってゆく。一癖も二癖もある怪しい奴らと共に、緑の地獄ともいうべき過酷な自然と対峙する三浦。さらには正体不明の2人組の男から命を狙われることに――。手に汗握る密林サバイバル!
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