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森 絵都『リズム/ゴールドフィッシュ』
森 絵都『リズム/ゴールドフィッシュ』レビュー
評者:モモコグミカンパニー(アーティスト)
私の大好きな小説『カラフル』の作者である、森絵都さんのデビュー作を紹介したいと思います。こちらは児童文学書でもあってかなり読みやすいので、普段本に馴染みのない方にもおすすめです。主人公のさゆきは中学一年生で思春期真っ只中の女の子です。さゆきは中学に上がり、生まれてから当たり前のように変わらずにあった自分の周りの環境に少しずつ変化が訪れることに戸惑います。仲良しの幼馴染みと離れ離れになったり、そばにあったものがなくなってしまったり……。さゆきは自分のそばにあるものは永遠ではないと知り、それと同時にいつまでも自分は子供でいられるわけではないと悟り始め、不安も覚えていきます。
子供の頃、自分の一部であったものが急になくなってしまうと上手く言葉には表せない、切なく、悲しい気持ちになったのをさゆきと重ね合わせて懐かしく思い出しました。しかし、その切なさをどう乗り越えていったかは自分でもよく思い出せません。『リズム』ではそんな誰もが通ってきたであろう思春期の感情の移り変わりを描いています。読み始めは、本書を主人公と同じ中学生くらいの頃に読めたら良かったなと思いましたが、読んでいくうちに今の自分だってあの頃と変わってない部分が沢山あることに気づきました。今だって、春夏秋冬と季節が移り変わっていく中で数えきれないほど沢山の物事に出会い、そして別れ、目まぐるしい変化の中で流され、焦ったり、自分を見失いそうになることもあります。子供から大人に成長したあのときのように、私たちはいつだって過渡期を過ごしているのです。そう思うと、今しかない瞬間の美しさ、煌めき、たとえ暗く思えても今しか見えない景色をなるべく噛み締めていきたいと思います。
森絵都さんの小説は、なんでもないような風景がいきなりかけがえのないものとして光り出し、色のない景色が一気に色付き始める不思議な力を持っているように感じます。ゴールに向かっている人もそうでない人も毎日歩んでいることには変わりなく、むしろ「どこに歩いていくか」よりも「どうやって今を歩いていくか」が重要なはずです。過去よりも未来よりも、いつだって一番鮮明な今現在に自分だけの〝リズム″を大切に刻んで歩いていきたいものです。児童文学だと侮るなかれ。中学一年生の女の子に自分を重ね合わせて、忘れていたあの頃の感情に再会しながら、今の自分も大切に見つめ直せる一冊です。
プロフィール
モモコグミカンパニー
〝楽器を持たないパンクバンド″BiSHのメンバー。2015年3月に活動開始した同グループの結成時からのメンバーであり、最も多くの楽曲で作詞を手がける。2018年3月に初の著書『目を合わせるということ』(シンコーミュージック)、2020年12月に2冊目のエッセイ集『きみが夢にでてきたよ』(SW)を上梓。その独自の世界観は圧倒的な支持を得ている。2022年3月には初の小説『御伽の国のみくる』(河出書房新社)を発表予定。BiSHは、2021年8月に発売したメジャー4thアルバム『GOiNG TO DESTRUCTiON』が3作連続・通算3作目のオリコンチャート1位を獲得。昨年は第72回NHK紅白歌合戦に出場、また年末の解散発表が話題を呼んだ。
作品紹介
リズム/ゴールド・フィッシュ
著者 森 絵都
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2019年02月23日
さゆきの前に大人の世界が立ちはだかる。『みかづき』著者デビュー作!
中学1年生のさゆきは、いとこの真ちゃんが大好きだ。高校へ行かず金髪頭でロックバンドの活動に打ち込むようになっても、真ちゃんのかっこよさは変わらない。家族ぐるみでずっと一緒にいたいのに、真ちゃんの両親の離婚話を聞いてしまい……。
第31回講談社児童文学新人賞、第2回椋鳩十児童文学賞を受賞した著者デビュー作「リズム」と、その2年後を描いた「ゴールド・フィッシュ」を収録した不朽の名作集。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321807000215/
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