そうか、遼介はもう高校三年なのか。なんだかとても感慨深い。
この「サッカーボーイズ」シリーズは、第一期五巻(第一巻は遼介が小学六年だが、第二巻から中学生になるので、この第一期を中学生編としてもいい)に続いて、第二期が始まったが、その高校生編もついに本書で完結なのである。小学六年生だった遼介がもう高校三年になるとは、感慨深くもなろうというものだ。
中学生編でもいろいろなことがあったことを思い出す。たとえば忘れがたいのが、第一期の第三巻『蝉時雨のグラウンド』だ。中学二年の巻になるが、この巻の主役はオッサ。小学六年のときはゴールキーパーだった少年だが、中学入学と同時に野球部を選択したものの、中学二年になって野球部をやめ、サッカー部に入部してくる。野球部のメンバーには裏切り者扱いされ、サッカー部のチームメイトとは打ち解けられず、彼は悶々とした日々を過ごすことになるという巻だ。第一期の第四巻『約束のグラウンド』も強い印象を残している。ここでは新しい監督に馴染めず、チームが崩壊寸前になるというドラマが読ませる。
このように、さまざまなことがあった中学生編だが、いざ高校生編が始まってみると、それでも中学生のときは幸せだったと思うのである。というのは、高校生になると、遼介は試合にも出られなくなるからだ。
彼が入部したのは、関東の強豪サッカー部で、一年だけでも五十名。その一年生チームでも遼介はポジションを確保できない。遼介よりもサッカーがうまいやつはたくさんいるのだ。小学校、中学校まではそこそこやっていた遼介も、強豪サッカー部に入ってみると無名の高校生にすぎない。というわけで第二期で始まるのは、遼介の苦渋の日々である。この展開が素晴らしい。いろいろなことがあったにせよ、サッカーをすることがひたすら楽しい中学生の日々は終わり、彼は現実と向き合わなければならなくなるのだ。表と裏の両面を描いてこそ、物語は立体的になって奥行きを増していく。
本書はその第二期の最終編だが、とても感慨深いのは、彼らが将来という現実を考えなければならなくなるからだ。高校を卒業したあとどうするのか、という将来の進路を決めなければならない時期に、とうとう彼らもさしかかるのである。天才選手でないかぎり、そういう分岐点にいつかは立たなければならない。
たとえば、勁草学園に進んだ鮫島琢磨は、スポーツ推薦に合格して、関東二部に所属する大学に進学するようだが、大学サッカー部でも関東一部や二部のレベルだと簡単に入れるわけではなく、大学の練習会に参加するところから始めなければならないことを考えれば、これはまだ恵まれたほうだろう。関東二部を狙える大学を目指す者もいる。そういう現実的な選択を、彼らは迫られるのだ。
もちろん、サッカーをやめる者もいる。柏葉商業の市原和樹は来春から働くからサッカーはやめると宣言するし、伊吹遥翔は家業を手伝うことになるかどうかはわからないが、専門学校で調理師の資格を取ることを決める。
では、遼介はどうするのか。ラスト近くに彼の決意も表明されるが、それは書かぬが花。
ここでは琢磨が遼介に語りかける言葉に耳を傾けたい。中三のときに、三人で話したよな、と琢磨は言う。星川良と三人で海を見にいったとき、おれたちの中のひとりでももしプロの選手になれたらすげえって、遼介が言ったことを思い出して、こう言うのだ。
今、その三人がそろって、選手権の県大会ベスト4のチームにいる。間違いなくだれかが、決勝戦に進む
それだってすげえことじゃないか、と琢磨は言うのだ。
そうなのである。あの幼い子供たちがいま高校生になって県大会ベスト4にいるのだ。第一期と第二期の合計八巻を読んできた者として証言する。これだけでも十分にすげえことだよと。彼らを励ましたくなるのである。
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