【カドブンレビュー×カドフェス2017】
凝り固まった心を肉球で解きほぐしてもらいたいのなら、この物語がおすすめだ。その肉球の持ち主は、ラムセス2世。きりこが飼っている賢い猫である。
どうか驚かないでほしい。作中冒頭の太字2文字の単語に。きっと誰もが、目が釘付けになってしまうだろう。私も二度見をしてしまった。しかし止まってはいられない。そんな気持ちが湧いてくる。なぜなら目の前で可愛い肉球に手招きをされ追いかけたくなったのだ。
誰にでも、コンプレックスはあると思う。もしそれが他人の前で浮き彫りになるような事態に直面したら、どうだろうか? 私なら立っていられない。いや、かろうじて立っていられても心が折れてしまうだろう。
物語の主人公きりこは小学5年生の時、大好きな男の子に「ぶす」と言われ強いショックを受ける。その日からきりこは鏡で自分の顔を観察し、いったい自分のどこが「ぶす」なのか答えを探しはじめる。真剣なのだ。いつだって誰だって、緊急事態に直面したら真剣になるのだ、と小さな背中に書いてあるようだった。
何とか頑張っていたきりこも、疲れ、引きこもり、鏡を見ることをやめてしまう。そんな日々だが、苦しく暗いだけではない。きりことラムセス2世の交わす会話と猫たちとのやり取りによって、温かさも感じられる。その描写は、きりこだけでなく、誰もが癒され、笑わされ、心が温まるだろう。疲れた時は、二人の会話を思い出したいくらいだ。笑うことは、とてもエネルギーがいると聞いたことがある。それをきりこから引き出したラムセス2世はすごい。ラムセス2世の賢さと二人の信頼関係がそうさせたのだろう。
この物語には、個性豊かな悩めるキャラクターたちも登場する。その人物たちを通して、きりこの姿を見ることができるのも、この物語の魅力の一つだ。その人物たちの悩みを解決しながら、少しずつ答えに近づいていくきりこ。「自分のしたいことを、叶えてあげるんは、自分しかおらん。」この言葉は、真っ直ぐ私の胸に突き刺さった。あたり前のようで、意外と実行できないシンプルな言葉。成長する度に心に響く言葉を放つきりこの姿が、そして寄り添い続けたラムセス2世の姿が、愛おしくて愛おしくてたまらなかった。
素敵な言葉と沢山のユーモアと勇気をありがとう。そんな言葉が口からこぼれ、そして自分をもう一度見つめ直したくなった。そして何かに囚われすぎて動けなくなった時、私はこの本を開くだろう。そしてまた会いに行く、きりことラムセス2世に。
きりことラムセス2世が共有した宝物のような時間が、読者の心を温かい空気で包んでくれるだろう。是非ページを捲ってきりことラムセス2世に会ってほしい。きっと心がラムセス2世の肉球のように柔らかくなるはずだ。