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レビュー

【『サハラの薔薇』カドブンレビュー③】森隆志「主人公と自分を重ねて『苦さ』を感じてしまう」

話題沸騰! 下村敦史さん『サハラの薔薇』が発売たちまち重版決定!
絶賛の声が止まらない本作の重版を記念して、カドブンでは「6人のカドブンレビュアーによる6日間連続レビュー」企画を行います。6人のカドブンレビュアーは本作をどのように読み解いたのか? ぜひ連続レビュー企画をお楽しみください。

――ある映画制作会社での一コマ。
プロデューサー1(以下P①)
「やりました! 我々の熱意が届きました!ついに『サハラの薔薇』の映画化権、獲得しました!」
プロデューサー2(以下P②)
「本当か! やったな! 広大な砂漠を舞台にしたスケール感、主人公に次々にふりかかる災難! 派手なアクション!大ヒット間違いなしだよ!」
P①「主人公の峰隆介がいいですよね! 最後と賭けたチャンスにも見放され、目標を見失った中年って設定は多くの共感を呼ぶと思うんですよ」
P②「確かに。この本、一気読みのエンターテインメントではあるんだけど、主人公と自分を重ねて『苦さ』を感じてしまう場面が多かったな。困難を前に場当たり的な判断を下す主人公にため息をついて…美女の前ではいらない恰好をつけてしまう主人公に苦笑いして…揺るぎない志を持った人間を前に卑屈になってしまう姿に胸が痛くなる…」
P①「元気出して下さい! P②さんも峰隆介のように、どんなピンチに陥っても、なんとか乗り切って来たじゃないですか」
P②「そうだな……ツキはなくてもしぶとく生き抜くぞ! ところでP①くん、今更の確認なんだけど、我が社に『サハラの薔薇』を映画化するだけの予算はあるの?」
P①「……そうでした。残念ですが、この話はお断りして来ます」
P②「いやいや、もったいないもったいない。舞台を日本に移してさ、予算を切り詰めれば、なんとかなるんじゃないかな」
P①「えっ⁉ それじゃあ、もはや『サハラの薔薇』とは呼べないのでは……」

――そして後日、P①とP②はなんとか映画化企画書を完成させた。

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映画化企画書
●タイトル
「南アルプスの白百合」
●原案
『サハラの薔薇』(KADOKAWA)
●ストーリー
 主人公の峰隆之介は電気メーカーの在庫管理係。入社以来、商品開発課で情熱を燃やして来たが、ひとつのヒット商品も生み出せず中年を迎え、昨年、配送センターの今の部署に異動になった。
 金に困ると在庫から商品をこっそりくすね、ネットオークションで売り捌くことにも、あまり罪の意識を感じなくなった。
 ある冬の夜、系列の電気店に商品を届けることを命じられ、一人トラックで長野の山村へと向かう。
 しかし、途中雪が降り始め、チェーンをつけようと立ち寄ったSAで何者かに襲われる。気づくとトラックの荷台に閉じ込められていた。傍らには、見知らぬ男女4人が拘束され、横たわっている。温泉芸者を自称する着物姿の美女。フレームの細い眼鏡が冷酷な印象を与えるエリートサラリーマン風の男。占い師の老婆。そして、胸にナイフが刺さり、明らかに死んでいる40がらみの男。
 右に左にとカーブしながら進むトラックは、どうやら急な山道を登っていく。いったい彼らはなんの目的で拘束されたのか? 車はどこへ向かっているのか⁉
 強い衝撃に峰は再び気を失い、翌朝、目を覚ますとトラックは横転していた。なんとか荷台から這い出た4人が目にした風景は、どこまでも深い森が続く一面の雪景色だった。
 携帯の電波は届かない。恐らく、誰も彼らがこんな山奥で遭難していることを知らない。ろくな防寒着も食料もない。
 究極の状況で、彼らは助けを待つのではなく、自力で下山することを決断する。
 自然の猛威が、テロリストが、巨大な陰謀が、次々に隆之介の身に降りかかる!
目の離せないノンストップエンターテインメント!
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P①「なんとか企画書できましたね」
P②「原作がしっかりしてると、ここまで設定を安く変えても、まだまだ面白そうなところが怖い」
P①「意外にヒットするんじゃないですか!? この映画」
P②「だよな!……いや待て。冷静になろう。原作のファンがこの映画を観たら、どう思うかな」
P①「スケール小さくなっちゃったなあって。いえ、そもそも観ないんじゃないですかね」
P②「……だよな。それでその……著者の下村先生にはP①くんから説明してくれるんだよな」
P①「滅相もない! ここはもちろん先輩であるP②さんが!」
P②「無理。世の中には絶対に無理なことってあるよね。それがこれ」
――後日、この映画制作会社ではなく、別の制作会社が莫大な予算をかけてこの本を映画化。大ヒットしたという。

おわり。


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