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レビュー

大島真寿美が紡ぐ人生の応援歌。就活失敗を機に出た旅で、モモコは自分と世界を変えていく『モモコとうさぎ』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(解説:ペヤンヌマキ / 脚本家・演出家)

 あれは忘れもしない、2019年の4月1日。新元号が「れい」と発表されたその日、私は寿にあるぎんという名の昭和の香り漂う喫茶店で、ある人と待ち合わせをしていました。タバコをくゆらしクランベリージュースを飲みながら私を待っていた相手はいずみ今日きようさん。これは現実なのだろうか? もしやエイプリルフールの噓? とクラクラ夢見心地の私に小泉さんが差し出した一冊の本、『ピエタ』。それが私とおおしま寿作品との出会いでした。

 小泉さんは大島真寿美さんの小説『ピエタ』をずっと舞台化したくて脚本家を探していたところ、私が主宰する演劇ユニットの公演を観てピンと来たそうで、なんと私に脚本を書いて欲しいと依頼してくださったのです。

 それからしばらくして、大島真寿美さんご本人と私は原作者と劇作家という立場でお会いすることになります。初対面のなお賞作家の大先生に粗相があってはならない……と私はガチガチに緊張していました。何でも質問してくださいという大島さんに「大島先生は……」と恐る恐る質問をしていく私。すると大島さんは「先生だなんて呼ばないでください」ときっぱり、そしてさつのような笑みをたたえながら「私に気を遣わず、自由に悔いのないように書いてくださいね」とおつしやいました。その時、この人はやっぱり『ピエタ』を書いた人なのだと私は思いました。

『ピエタ』は孤児、貴族、しようといった育った環境や立場がまるで違う女性たちがきずなはぐくむ物語です。特筆すべきは、どんな立場の人にも優しくフラットな視点で描かれているところです。あんな小説、真に優しい心根を持った人にしか書けるはずがない、と大島さんご本人を前にいたく納得したのでした。ただし自由に書いてくださいと言われるとかえって難しいもので、その後の脚本作業はかなり難航したのでした。その話はまたの機会に。

 そんなご縁で、今回文庫の解説にご指名いただきました。自由に書いてくださいね、とたぶん菩薩のような笑みを湛えた大島さんからメールをいただき、うれしい気持ちと共に、人様の作品の解説だなんて私に書けるのだろうか、一体何を書いたらいいのだろうと悩みまくっている今なのです。

 ところで、もし過去に戻れるとしたらいつに戻りたいですか? という質問をされることがたまにありますが、皆さんは何と答えますか? 私は戻りたい時ってないよな、という結論に毎回至ります。逆に、絶対に戻りたくない時は、はっきりとしていて、暗黒だった中二の時と大学卒業したての頃です。暗黒の中二はさておき、大学を卒業して就職もせず、自分は社会から必要とされていないという絶望感と、これから自分はどうすればいいのだろうという不安にさいなまれていたあの頃。そう、主人公モモコとちょうど同じくらいの年頃。今振り返るとあの頃が人生で一番と言っていいほどつらかった。

 そこで本作『モモコとうさぎ』です。就職活動に失敗して引きこもり生活を送っていたモモコは、家出をし、放浪の旅をします。行く先々で理不尽な目に遭いながらも、モモコなりに、のらりくらりと順応していく。しかしモモコはひとつの場所にとどまらない。次はどんな場所でどんな人たちと出会うんだろう。自分もモモコと一緒に旅をしているみたいにワクワクし、そして同じ頃の自分を重ねながら読みました。

 演劇がやりたくて東京の大学へ進学した私でしたが、役者には向いていないことが四年間でわかったし、当時付き合っていた劇団主宰の彼みたいに面白い脚本が書ける気もしなかったし、そもそも演劇で食べていける人なんてほとんどいないしで、やはり就職するしかないかと思いはしたものの、在学中演劇しかやっていなかった私は、就職活動の準備など全くしておらず、申し訳程度に受けた会社はもちろん全滅。どうせい中の彼氏は働く気配が全くなく家賃も払ってくれない。彼の夢を支える女になってみるかとアルバイトにいそしむも、結婚する気配は全くなく、おまけに彼とはセックスレス。そんな折に彼が、私のなけなしのバイト代から食費として毎日渡していた千円を貯めて激安風俗へ通っていたことが発覚。それが辛すぎて、彼氏が風俗へ行っても平気な女になるために、私はアダルトビデオの制作会社で働くことにしたのです……と、思わず私の物語を語りたくなってしまいました。すみません。


書影

大島真寿美『モモコとうさぎ』
定価: 836円(本体760円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


『モモコとうさぎ』で大好きなシーンに、モモコが「仕事って自分で作ったりもするのか」と発見したり、「あ、そうか、わたし、これが好きだったんだ」と気づいたりするシーンがあります。ぼんやりと主体性なく生きてきたように見えるモモコが、他者と出会うことによって気づきがもたらされる。すごく素敵なシーンです。

 しかしだからと言って、「好きを仕事に」というキャッチコピーが付くような、好きなことを見つけてそれを仕事にして成功する、主人公が何者かになるようなお話を、大島さんは用意していません。話としては成功たんの方が分かりやくそうかいでしょうが、現実はそうそう上手うまくいくものではありません。好きなことが得意なことであるとは限らないし、好きで得意なことが仕事になるとも限らない。そもそも好きなことが見つからないという人もいる。好きなことを仕事にするのが一番! と言われて、それができていない自分はダメだと劣等感を抱いたり、好きなことを見つけなければならないという抑圧に苦しんだりする人もいる。それができている人と自分を比べることで、憎しみが生まれる。あの人と私は違うという分断が生まれる。そう、分断こそが諸悪の根元だと私は思うのです。

 大島さんは「人生、いずれどこかには流れ着く」のだとつづります。

 それは、全ての人の人生を肯定する、全ての人の生を祝福する言葉だと思います。

 その言葉に、かつて人生に迷った人も、今迷いの最中さなかにいる人も、救われることでしょう。

 大島さんの作品は、全ての人に優しい。どんな人も傷つけない。そんな作品が私は好きだし、私もそんな作品が作りたい。

 大島さんのその優しさはどこからくるのでしょう。大島さんのルーツが知りたいです。

 私の話に戻りますと、ひょんなきっかけから入ったアダルトビデオの世界でいろんな人と出会い、様々な性癖、価値観に触れたことが創作の糧となりました。

 そして私の人生も流れ流れて、小泉今日子さんと出会ったり、小泉さんのおかげで大島さんの作品や大島さんご本人と出会ったり、そして今このような文章を書かせていただいたりしています。まだ流れている途中、これからどんなところに流れ、どんな人と出会うのでしょう。楽しみで仕方ないのです。

 モモコはこれからどんなところに流れ、どんな人と出会うのでしょう。

 モモコと私と全ての人の人生に幸あれ。

大島真寿美『モモコとうさぎ』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000320/


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