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【解説:島根県大田市長・楫野弘和】『いも殿さま』に寄せて――『いも殿さま』土橋章宏 著 文庫巻末解説

『いも殿さま』解説者 島根県大田市長・楫野弘和さんのメッセージ

いも殿さま」の文庫本化、本当に嬉しく、感謝します。
困難な現代社会だからこそ、井戸公の生き方に学びたいと思います。
そして、映画化され、さらに多くの人々に井戸公の生き方を知って頂きたいと願っています。

島根県大田市長 楫野弘和

『いも殿さま』に寄せて――『いも殿さま』 土橋章宏著 文庫巻末解説

解説 
かじ ひろかず(島根県おお市長)  

 私と『いも殿さま』とのご縁は、二年前に単行本が発刊され、KADOKAWA様から贈呈していただいたところから始まります。すぐに読ませていただきましたが、へいもんまさあきら公(井戸公)のお人柄が明るくさわやかに描かれ、作者のばしあきひろ先生のテンポの良い文章のおかげで、一気に読むことができました。
 何よりも、井戸公が真面目で、勤勉であることは当然ですが、甘いものが大好きという設定や、井戸家用人のとうじゆうろうとの関係が絶妙で、ついつい笑顔になってしまいます。
 読み終わった時、井戸公の生き様に改めて感動し、ようこそ描いていただいたとの感謝の念もあり、涙が止まりませんでした。
 その後、この本を多くの人に読んでいただきたいと思い、購入してプレゼントしたり、宣伝させてもいただきました。
 伝え聞いたところでは、『いも殿さま』を最も売り上げたのは、大田市内の書店だったとか。とても、うれしく、誇らしく思います。

井戸公と大田市

 井戸公は、徳川幕府の直轄地(天領)であるいわ銀山領の第十九代代官として一七三一年(きようほう十六年)九月に任命されました。それからわずか一年半余りという短い在任期間でしたが、当時の享保の大きんにあたり、領民を守るため、年貢の免除、自らの財産や裕福な領民から募ったお金で米を購入、幕府の許可を待たずに代官所の米蔵を開いて配布などを行ったと伝えられています。さらに、さつからサツマイモを苦労して取り寄せて、栽培を奨励され、領民を飢饉から救われました。
 今に残されている歴史的史料からも、宿泊先の奉行からの贈り物を返却したり、料理のもてなしを断ったりするなど、井戸公の誠実で実直な人柄が分かります。何よりも、在任一年半余りの間に、石見、びんびつちゆうの直轄地を自ら東奔西走して、の大飢饉の実態把握に努め、矢継ぎ早に手を打ったことも分かっています。井戸公は、正に、今に生きる私たちも手本とすべき現場主義の人だったのです。
 こうしたことから、大田市を含む島根県石見地方では、「いも代官」として心から慕われており、その功績をたたえるしようとくは、石見だけでなく中国地方にも広がり、その総数は五百基以上にものぼります。いくら優れた功績のある方でも、これほどの頌徳碑がある人はいないのではないでしょうか。
 また、頌徳碑の多くには、「とうそんちゆう」などの文字が彫られており、必ずしも豊かとはいえない地域の人々が、「村中のみんなの力を合わせて」建てたことが分かります。それほど、井戸公への感謝の思いが強かったのでしょう。



いも殿さま
著者 土橋 章宏
定価: 704円(本体640円+税)


神様となった井戸公

 二○○七年(平成十九年)に世界遺産となった石見銀山のまち大田市おおもり町には、井戸公をおまつりする井戸神社があります。一八七九年(明治十二年)に創建され、一九一六年(大正五年)に現在の地に再建されました。鳥居のへんがくかつかいしゆうが自筆したものです。
 再建にあたっては、地元はもとよりかつらろう総理大臣をはじめ、各国務大臣、財界からはしぶさわえいいち氏などの有力者からの寄付が寄せられました。いかに、井戸公の功績が全国に知れ渡っていたのかを知ることができます。
 少し手前みそで恐縮ですが、この再建にあたって尽力した地元の世話人の一人は、当時衆議院議員であったつねまつたかよしであり、私のそうの弟でした。ここにも、ご縁を感じます。

井戸公がつなぐ友好のきずな

 井戸公は、同じ天領である岡山県かさおか市で亡くなっています。死亡の原因については、病死説と切腹説があり、定かではありませんが、お墓は、笠岡市のとくにあります。
 そのような井戸公のご縁があり、大田市と笠岡市は、平成二年四月に友好都市の締結をしました。
 また、両市の子供たちは皆、井戸公の功績を学習しており、井戸公を通じた交流を続けています。
 平成三十年四月、大田市で震度五強を記録した島根県西部地震の際には、笠岡市民の皆さんからの募金や、市職員の派遣など、心強いご支援をいただきました。
 令和二年十一月には、笠岡市で友好都市締結三十周年記念式典が行われ、今後も末永く交流していくことを確認しています。

これからも井戸公と共に

 井戸公は、実直な人柄と勤勉な仕事ぶりを認められ、六十歳という年齢にもかかわらず、石見代官に任命されました。そして、享保の大飢饉という大災害にあたって、何よりも領民の命を守るという強い信念とぶれない行動力をもって、領民から一人の死者も出さないという奇跡を起こしました。今でも、多くの人々が慕うのも当然というべきでしょう。
 大田市の子どもたちは、小・中学校において「石見銀山学習」を行っており、「石見銀山ことはじめ」という副読本を使って石見銀山のことや、井戸公の功績を学んでいます。また、笠岡市との中学生の交流では、「石見銀山~いも代官井戸平左衛門のせき~」というふるさと学習誌を使って、井戸公の功績を伝えています。
 今後とも、ふるさとを愛する教育を進めることで、大田市の市民ならば誰でも、井戸公の功績とすばらしい人となりを知っているようにしたいと思います。
 私は、現在の大田市の代官ともいうべき、市長という職にあります。
 四年前の二○一七年(平成二十九年)十月に市長に就任した時の年齢は、六十二歳であり、江戸時代の井戸公の六十歳と単純に比較はできませんが、何となく、ご縁と親しみを感じます。
 私の市長としての基本姿勢は、「共創のまちづくり」です。市民の方々、市役所の職員と共に、明るく元気な良いまちを創りたいという私の思いを込めています。
『いも殿さま』を読ませていただいて、井戸公のように、常に市民の幸せを第一に考えて市政運営を行わねばならないと、決意を新たにしているところです。

私の願い

 このたび、『いも殿さま』の文庫本が発刊されることになりました。より多くの方々に読んでいただき、井戸公の生き方を知っていただく機会を得たと喜んでいます。井戸公のような生き方を誰もができる訳ではありませんが、この難しい時代をどう生きるのか、何のために仕事をするのかを、自らに問う機会になるのは間違いないと思います。
 そして、いつの日か、KADOKAWA様により『いも殿さま』の映画化が実現し、さらに多くの人々に井戸公の生き方を知っていただきたいと願っています。

作品紹介



いも殿さま
著者 土橋 章宏
定価: 704円(本体640円+税)

島根を飢饉から救った名代官「いも殿さま」の感動物語!
幕府勘定方に勤める旗本、井戸平左衛門は引退を迎え、隠居生活を楽しみにしていた。だが、隠居届けを出そうとしたその日、異動を命じられることに。向かった先は、飢饉にあえぐ悲惨な土地だった──。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000332/
amazonページはこちら


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