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レビュー

著者の人間心理に対する洞察力に感服――『探偵はぼっちじゃない』坪田侑也 文庫巻末解説【解説:瀧井朝世】

君が書いた小説が 誰かを救うんだ。新世代の青春ミステリ!
『探偵はぼっちじゃない』坪田侑也

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

探偵はぼっちじゃない』坪田侑也



『探偵はぼっちじゃない』坪田侑也 文庫巻末解説

解説 
たき あさ  

 デビュー作でこの完成度の高さ、しかも執筆したのは中学三年生の時だというから驚きだ。著者は本作で二〇一八年に史上最年少(当時十五歳)で第21回ボイルドエッグズ新人賞を受賞したのである。作品は大手出版社十社参加の競争入札の結果KADOKAWAが出版権を獲得し、二〇一九年三月に単行本が刊行された。本書はその文庫化である。
 絡まり合うのは三つのストーリー。それぞれに「ぼっち」、つまり一人ぼっちのキャラクターが登場する。
 一人目の主人公、中学三年生の緑川光毅はさまざまな屈託を抱えている。学校では明るく目立つグループの仲間に加わっているが、溶け込んでいるとはいえない。家では将来の方向性を押し付けてくる父親も、著名人や専門家の意見に流される母親も、彼ときちんと向き合ってくれない。つまりどちらでも「ぼっち」状態だ。そんなある夜、同じ学校の生徒だという星野温から、一緒に小説を書こうと誘われる。
 二人目の主人公は緑川が通う中学の新米教師、原口誠司だ。理事長の息子である彼は近い将来経営者になる予定で、他の教員たちと打ち解けられずにいる。自分は「どら息子」と思われているのだろうと劣等感を抱き、認められようと焦っている「ぼっち」だ。同じく「ぼっち」の同僚教師、石坂から心中仲間を募るサイトに同校の生徒が出入りしているようだと知らされ、誰かを突き止め、自殺を思いとどまらせようと考える。
 三人目の主人公は、作中作の学園ミステリの視点人物、三河。彼は優等生の人気者で、友人の蟬源五郎が偏屈な「ぼっち」の少年という設定だ。このコンビが、美術部の部室からモザイクアートが盗まれた事件に挑む。しかも広義の密室案件である。
 緑川や原口は「ぼっち」であることに苦しんでいる。一方、星野や石坂、蟬らは自ら一人でいることを選んでいる。特に、他人の評価を気にしないと断言する星野の存在は輝いている。では、そんな出会いが彼らにもたらすものは──。

 巧みな構成と場面転換のテンポの良さによる牽引力、それぞれの繊細な心の揺れの描写力は見事なもの。単行本刊行時に著者にインタビューした際、中学生が抱える独特な心情を書こうと思ったと語ってくれたが、やはりリアリティがある。陽キャラか陰キャラかでジャッジする/されがちな傾向、陽キャラに合わせる懸命さ、彼らから蔑ろにされた時の胸の奥のうずく感覚、「ぼっち」に対する恐怖感。さらには、進路を押し付けてくる大人への反発。本気で打ち込みたいことに対して「ただの趣味だろう」と一蹴されるやりきれなさ、将来への不安──。すでに充分大人の自分が読んでも若い頃の記憶が刺激される筆致である。特に、緑川の父親の「あんなのは一握りの才能ある人間だけで保ってる世界だろう。凡人がいくら努力してもどうにかなるものじゃない。そんなんで飯を食っていけると思ってるのか」という言葉には本気で腹を立ててしまった。なぜ夢は叶わないと決めつけるのか。なぜ本人の希望も聞かずに進路を押し付けるのか。ちなみに私は仕事柄よく作家にインタビューするのだが、十代の頃に親や教師から似たことを言われたという人は少なくない。もちろん誰しも頑張れば夢を叶えられるなどと言う気はさらさらないが、少なくとも、誰かが好きで打ち込んでいることを否定する発言は間違いなく失礼である。それよりも、そこまで夢中になれるものを見つけられた喜びを祝福すべきだろう。たとえ仕事や将来に繫がらなくても、好きなものというのは、時に心の支えになり、人生を豊かにするものだから。と、これを読む若い世代と彼らと接する大人世代に伝えておきたい。
 原口のパートに関しては、教師の日常の描写に実に現実味がある。授業の進め方やテスト問題の作成において、こうした試行錯誤があるとは、自分が学生だった頃は思いもしなかった。原口の自殺志願者探しについては、当初の動機は功績を残すためという人間臭いものだが、これについては先述のインタビュー時に「正義だけで動く人はなかなかいないんじゃないかと思い、何かしら打算のある人にしようと思った」と語ってくれ、著者の人間心理に対する洞察力に唸った。
 星野と出会った緑川、石坂と言葉を交わすようになった原口。「ぼっち」状態を肯定的に生きる相手との出会いがもたらすものは何か。ばらばらに進行する物語は、やがて思わぬところで絡まり合っていく。真実を小出しにする話運びも巧妙である。

 緑川が小説家志望のため、著者自身が投影されていると思われそうだがそうではない。中学生たちが「陽キャラ」「陰キャラ」で人を二分して見る傾向があると感じて作られたキャラクターだったというから、冷静な観察によって作られた印象だ。また、両親のキャラクターも完全にフィクションで、学校でも家でも孤独である様子を書くために彼らの性格を作ったそうだ。
 著者と緑川に共通する点があるとすれば、小学生の頃に児童向けミステリを読んで影響を受けた点だろう。著者が小説を書こうと思ったのは小学二年生の頃で、はやみねかおる氏の〈名探偵夢水清志郎事件ノート〉シリーズの第五作『踊る夜光怪人』を読み「なんでこんな面白い物語が書けるんだろう」「僕も書いてみたい」と思ったという(緑川が影響を受けた児童文学作家の名前を真似てペンネームを「はやかわひかる」にしたというエピソードは、はやみね氏をイメージしたと思われる)。当時ははやみね氏をはじめ、楠木誠一郎氏、松原秀行氏らの児童向けミステリシリーズをよく読み、自身で短い話を書くこともあった。中学生になると毎年夏休み明けに自由課題を発表する行事があり、毎年小説を書いて発表した。一年生の時はミステリ短篇集、二年生の時は廃校を舞台にしたミステリ、そして三年生の時に「高校生になると忙しくなる」からと、集大成的な思いで書いたのが本作だ。最初に中学生が小説を書くという題材を思いつき、それだけでは内容が薄くなるからと教師の視点を入れた。発表後、友人に「貸してほしい」と言われ渡したところ友人の家族も読み、彼の母親から「ボイルドエッグズ新人賞に応募してはどうか」と提案された。それまでこの賞の存在は知らなかったが、その年の秋に応募し、受賞を果たした。
 受賞してから入札が行われるまでの間に改稿として、作中作を入れた。授業の合間にストーリーを考えるなど大変だったようだが、「楽しかった」とはご本人の弁。こちらはストーリーはもちろん、緑川がどんな思いを投影して執筆したかが伝わってきて読ませる。
 高校生になってからもミステリはよく読んでいたようで、インタビュー時に好きな作家を訊くと先述の作家陣だけでなく、伊坂幸太郎、米澤穂信、初野晴、恩田陸、宮部みゆき各氏の名前を挙げてくれた。他にも、作中にハリイ・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』や有栖川有栖『46番目の密室』、江戸川乱歩『類別トリック集成』、クリスティー『ナイルに死す』といった有名作も登場するのだから、古今東西の作品をあたっている様子。大学生となった現在、読書の幅はさらに広がっているかもしれない。ご本人の予想通り、学校生活が忙しいのか第二作はまだではあるが、本書のあとがきの最後の言葉を信じて、しばらく待ちたい。

作品紹介・あらすじ



探偵はぼっちじゃない
著者 坪田 侑也
定価: 814円(本体740円+税)
発売日:2022年07月21日

君が書いた小説が 誰かを救うんだ。新世代の青春ミステリ!
緑川光毅は中学3年生。受験のストレスから逃れようと家の周りをぶらついていると突然、同級生と名乗る不思議な少年に、一緒に推理小説を書こうと誘われる。一方、緑川が通う中学の新任教師・原口は、自殺サイトに自校の生徒と思わしき人物が出入りしていることを知る……。生徒と教師、それぞれの屈託多き日々が交わったときに明かされる真実とは。執筆当時15歳、新たなる才能が描く、瑞々しくも企みに満ちた青春ミステリ!
第21回ボイルドエッグズ新人賞受賞作。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001807/
amazonページはこちら


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