文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
(解説:東 雅夫 / アンソロジスト)
川奈まり子の著書に文章を寄せるのは、今回が二度目となる。
一度目は、二〇一七年に晶文社から刊行された単行本『迷家奇譚』の推薦帯文だった。そこに私は、次のように記した――。
〈巻頭の遠野紀行で早くも快哉を叫んだ。そこには本書のルーツと著者の意気込みが、時に切々と時に力強く黙示されていたからだ。古代中国の志怪書から『遠野物語』を経て現代へ至る奇譚探究 の幽暗な伝統を、骨がらみで我が身に引き受ける覚悟――群雄割拠の怪談実話界にまたひとり、凄い書き手が加わった〉
いきなり古代中国の志怪書を持ち出しているのは、著者の御尊父が志怪書研究の
まあ、たんにそれだけなら、さほど珍しくもなかろうが、著者の場合、幼い頃から
要するに著者の場合、いわゆる〈怪談実話〉ジャンルを手がけるようになってから文筆業に携わったのではなく、ルポライティングや小説書き修行の延長線上に、現在の怪談仕事があったわけだ。
この違いは実は大きい。工藤美代子にせよ加門七海にせよ岩井志麻子にせよ平山夢明にせよ福澤徹三にせよ……この分野で息長く活躍している有為の人々は、いずれも作家業の一環としてこの分野に関わり、大輪の妖花を開花させてきたのだから。
川奈まり子もまた紛れもなく、この系譜に連なる〈怪〉の調べ手・
(念のために補足しておくと、この分野の俗称として広まっている〈実話怪談〉は、ジャンルの呼び名としては
さて、このたび最新刊として書き下ろされた本書『東京をんな語り』で、著者はまたしても、新たな境地を開拓、追求しようとしているように感じられる。
初期の『迷家奇譚』や『出没地帯』以来、驚くべきハイペースで、ルポルタージュのテクニックを活かした怪談実話作品を発表し、活字媒体とウェブ媒体を席巻。最近では、ネットラジオのMCや、流行中の〈語る〉怪談イベントのプロデュース役も務めるなど、
何より特徴的なのは、本書の主人公が、著者自身とほぼイコールで結ばれる存在であること。
つまり本書は、一種の自伝小説もしくはルポルタージュ作品として読むことができるのだ(まあ、作家という種族は、いかにもそれが唯一無二の真実という顔をして、平気で噓をつくような虚実さだかならぬ生きものだから、すべてを真に受けるのは危険かも知れないが)。著者のツイッター・アカウントをご覧の向きならば、「ああ、それはあのときの……」と、すぐさま思い当たるような新旧のエピソードが、本書には色々と登場する。
おっと、そうそう、この点で是非、本書と併読していただきたい参考図書として、二〇一五年に双葉社から
何だか怪しげなタイトルが付けられているが、内容は非常にマトモ。近来まれにみるオシドリ夫婦といっても過言ではない著者と、夫君であるAV監督(美熟女ブームの立役者となった、才能あふれる人物)溜池ゴロー氏の生き方が、それぞれ率直に綴られていて、思わず引きこまれる。特に『東京をんな語り』の第二章「やみゆく女」とは表裏一体の感もあって、こちらと併せ読むことで、色々と新たに見えてくる部分もあるだろう。
もうひとつ、本書には構成上の新機軸もある。
本書は、主人公が現在住まいする青山霊園近くのマンションに始まり(冒頭に登場するエピソードは、著者が先日ツイッターで報告していた、
そればかりではない。
著者みずから〈青山霊園で不思議な白い彼岸花を見たところから、私の中で記憶の
とりわけ、世に名高い明治の三大毒婦——〈夜嵐おきぬ〉〈高橋お伝〉〈花井お梅〉さらには講談物などでも著名な〈妲己のお百〉(海坊主の怪談としても知られる)といった、猟奇な殺人劇の
ちなみに、怪談ホラー方面におけるデビュー作となった『赤い地獄』(廣済堂出版/二〇一四)からして、〈作者の実体験を下敷きにしたフィクション〉と銘打たれていたではないか。しかもそこには、著者の故地のひとつである
虚実ないまぜの怪談技法に、ますます磨きがかかった趣の新作、川奈まり子の新境地を、とくとお
二〇二一年の年明けに