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レビュー

【評者:千原ジュニア】一枚岩ではなかった一揆衆。率いた男の武器は“話術” 一揆行軍を描く歴史エンターテインメント『大一揆』

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(評者:千原 ジュニア / お笑い芸人)

 この本の主人公である三浦命助という歴史上の人物を知ったのは、ある番組がきっかけだった。
 その番組で「歴史学者300人に、日本を変えた偉人は誰か」を聞いたところ、298人はそれぞれの研究対象や立場から別々の人物を挙げたのだけれど、2名だけ、意見が一致した。それが三浦命助だった。
 はじめは「誰やそれ?」だった。しかし、何をした人物かを知るとにわかに興味が湧いた。一万六千人を超える農民一揆の先頭に立って、四十九箇条のほとんどの要求を、盛岡藩に呑ませたというのだ。しかも命助の武器は“話術”――、芸人としてさらに気になる男になった。
 坂本龍馬が倒幕に動いたのは、三浦命助が率いた一揆が成功したからともいわれている。「うちらもできるんじゃないか」と思ったのだ。
 そうだとしたら、確かに命助は偉人だ。日本の歴史を大きく変えるきっかけをつくった人といっていい。でもそんな人物ならなんで知られていないのか? 不思議に思ったが、この本に描かれているように、黒船が渡来したことで、歴史の大きな波にのまれてしまったようだ。タイミングがいいのか悪いのか……。そこも含んだ一揆行軍の様子が、この『大一揆』には描かれている。

 舞台は、嘉永六年。三浦命助は一揆初参戦にもかかわらず、巧みな話術で武士を翻弄していく。
 番組で知って以来、三浦命助についての本を読んだり、命助の子孫にあたる人にプライベートで話を聞きに行ったりはしていたが、一揆に対して深い知識があるわけではなかった。だから、行軍中の一揆衆の様子はなるほどと思わされた。
 一揆をする人たちは、みんなで一致団結して目的をひとつに頑張っていると思っていたけれど、全然一枚岩ではないのだ。確かに考えれば当たり前ではあるが、そこのリアリティが面白かった。逆に、一揆を起こされる側のほうが、何とか抑え込もうと一致団結するのかもしれない。
 うちの会社も、去年ちょっといろいろありましたが、そういう視点でみると、一揆は面白い。たとえば芸人側と会社側に分けてみるとどうだろう。どちらが一枚岩だったかはわからないが……。
 別に芸人でなくても、いろんな立場の人に置き換えられる話であると思うので、それを想像してみるのもいいかもしれない。

 話術に長けた命助は、身内も巧みにまとめていく。長い行軍で離脱しようかどうしようか迷っている者に向けて「帰りたい奴は帰ってええぞ」と言うのだ。帰ることが悪でもないし、残ることが正義でもない。それを、笑いを交えて呼びかけるシーンは非常に印象的だった。
 実際問題、一万六千人が越境するのは現実的ではない。去る者の心が痛まないような言い方で、うまく一揆衆をコントロールし、誰にも血を流させずに要求貫徹を遂行していくのだ。

 史実であり、この一揆の結末は歴史として残っている。言い方を変えれば、小説の結末も予想はつく。それがこういう歴史小説をエンターテインメントとして成立させる難しさだと思うけれど、この本はとても面白かった。
 さらにいえば、三浦命助を知っている状態で読んでそう思うのだから、命助のことを知らない人は、より楽しめるのではないだろうか。
 ちなみに、命助を知ったちょうどその頃、創作落語をつくっていた。命助を題材にして演目がつくれるかも、と思ったがその時は完成には至らなかった。この本を読んで、もう少し考えてみたいと思う。



平谷美樹大一揆』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000361/


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