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特集

伝説の「彗星回」が生まれた理由とは? 「暴れん坊将軍」の舞台裏が今明かされる! 小説『暴れん坊将軍』刊行記念対談 松平健(俳優)×井川香四郎(脚本家)

今年40周年を迎えた国民的時代劇『暴れん坊将軍』が小説となって復活!第1巻は8月24日、2巻は9月22日、3巻は10月24日と怒涛の3ヶ月連続刊行。
オリジナルストーリーの小説を執筆したのは、あの伝説の「彗星回」や最終回スペシャルなど、数多くの脚本を手がけた井川香四郎氏。
小説版刊行の経緯やドラマ撮影現場の意外な裏話について、八代将軍徳川吉宗役の松平健さんと作家・脚本家の井川香四郎さんにたっぷり語っていただきました。

40年愛され続ける「暴れん坊将軍」の魅力

――『吉宗評判記 暴れん坊将軍』のスタートが一九七八年ですので、今年は四十周年となります。まずは、四十年という節目を迎えた感想をお聞かせください。

井川: 僕が脚本に参加したのは、パート7からでした。その頃は、スタートしてから十数年が経っていましたから、視聴者としてドラマは観ていても、脚本家としては前半のことは知らないんです。ただ大看板の番組に参加できた時の喜びは、今も覚えています。

松平: 私が初めて吉宗を演じたのは、二十四歳の時です。その頃は四十年後のことなど想像できませんでしたが、振り返ってみると「早かった」という印象です。

――『暴れん坊将軍』は、CSの時代劇専門チャンネルで常に放送され、現在は、地上波でも再放送がされています。なぜ長期間、愛されるシリーズになったとお考えですか。

井川: 主演の魅力が大きいと思います。八代将軍の吉宗は、聡明な人物とされていますが、松平さんの風貌、体格、アクションはそれにぴったりでした。パート1は僕の師匠の小川英を始め、迫間健さん、飛鳥ひろしさん、結束信二さんなど優れた脚本家が参加していて、いま観ても一話一話がバラエティに富んでいます。小説を書くために改めて観直したのですが、将軍になったばかりの吉宗は戸惑うことも多いんです。例えば、忍者一人にも情けをかけて、自分の判断が事件を生んだのではないかという葛藤を抱えていました。それだけ物語に、時代を超えるパワーがあるのだと思います。

松平: 吉宗が将軍になるところからスタートしたので、目安箱を設置した将軍が、投書の内容を確かめるため、貧乏旗本の三男坊・徳田新之助に変装して市中に出るという設定になっていました。それは将軍と新之助の二役をやっていたようなものですから、武士の暮らしも、町人の人情も分かるので、色々な物語がありました。悪がはっきりし、最後には正義が勝つので、大人から子供まで楽しめたことが大きいのではないでしょうか。

井川: 「余の顔を見忘れたか」の決めゼリフが出てきたのは、いつ頃でしょうか。

松平: 最初の頃は、悪人を城中に呼んで、御簾を上げると上様がいて驚くという形が多かったです。自分から正体をばらすので、『遠山の金さん』の逆パターンでした(笑)。

井川: 上様に知られて、切腹するような悪人もいました。だから初期は、解決のパターンも決まっていなくて、色々な形を試していたから視聴者も楽しめたのだと思います。

――松平さんは、大抜擢で『暴れん坊将軍』の主演に決まりましたが、その時はどんな気持ちでしたか。

松平: ほかのオーディションを落ちたばかりだったので、嬉しかったですね。時代劇はいつかやりたいと思っていたので、本当に感激、感動でした。

――プレッシャーも大きかったのではないですか。

松平: それは共演者を聞いてからですね。

井川: 最初の頃は、美空ひばりさんも出ていましたよね。

松平: ドラマが始まった頃は、私が一番の若手でしたから、共演は大物スターばかりでした。美空ひばりさんは、お母さんが『暴れん坊将軍』を観ていて、「お嬢、あなた出なさい」と言ってくれたそうです(笑)。ゲストで一回出たら気に入ってもらえたようで、三回も共演させていただきました。それを観ていた江利チエミさんが、「お嬢が出るなら私も」と言って出ていただいたこともありました。

井川: 当初は、1クールか2クールで終わる予定だったというのは、本当ですか。

松平: そう聞いていました。

井川: それが人気が出てきて、二十五年ですからね。

二分半の殺陣のシーンに半日かかった

――井川さんは、どんな経緯で『暴れん坊将軍』の脚本を書くようになったのですか。

井川: テレビ朝日の時代劇は、『三匹が斬る!』などを書いていたのですが、『暴れん坊将軍』は師匠が推薦してくれませんでした。『将軍の隠密!影十八』の脚本を書いていた時に、『暴れん坊将軍』の名物プロデューサーに声をかけていただき、パート8から『トラック野郎』などを監督された鈴木則文さん、『喧嘩屋右近』などの脚本を担当されていた渡辺善則さんを含めた三人で、中心の話を作ることになりました。それで、中村あずささん演じる鶴姫を作って、新之助を将軍とは知らないで恋に落ちるラブロマンスを物語の縦軸にしました。

――脚本はどのように執筆されていたのでしょうか。

井川: プロデューサーと何人かの脚本家が会議をして、「この前はラブストーリーをやったので、次はハードなアクションにしよう」という方針を決めます。それからプロットを出し、修正して準備稿にして、それから何度か直して決定稿になるという流れです。

――それから撮影に入るわけですか、どんな感じだったのでしょうか。

松平: 二話分の脚本を、十一日で撮影していました。

井川: だからハードスケジュールですよね。

松平: ただ、今のように同じ芝居を繰り返し多方向から何度も撮ることはなかったので、芝居をしていて楽しかったですね。

井川: 一度、最後の立ち回りを見学させていただいたことがあります。実際の撮影ではカットを割りながら撮るのに、リハーサルでは、舞台のように一度すべての動きを通しでやるので見応えがありました。立ち回りの撮影だけで、半日くらいかかりましたか。

松平: そうですね。

井川: 二分半くらいの殺陣のシーンだけでそれだけの時間がかかり、それが毎週のことですから、現場は大変だったと思います。

崖のシーンの撮影は命がけ!?

――ドラマで、印象に残っているエピソードはありますか。

井川: 僕の脚本でいうと、石野真子さんが新之助を好きになって、ずっと付きまとうという話を書きました。そのファーストシーンは、石野さんが川に飛び込もうとしているところを新之助が止めるのですが、もみ合っているうちに一緒に川に落ちて、そこからが新之助の女難が始まるというコメディタッチにしました。別の話では、新さんが崖から落ちかけて、ずっと岩場に掴まっているというシーンを書きました(笑)。将軍が、こんなカッコ悪い姿ではダメだろうと思いながら書いたのですが、松平さんにあっさりやっていただけたので驚きました。

松平: 崖のシーンはよく覚えています。命綱だけで、岩に掴まっていましたよ。

井川: 松平さんは、スタントマンを使っていませんでしたからね。僕は将軍が偉くなってから脚本に加わったので、プロデューサーとはよく「将軍が困る話がいいね」と話をしていました。それで八百回記念新春スペシャルで考えたのが、町を歩いている間に、テロリストに江戸城を乗っ取られた吉宗が、城に戻って『ダイ・ハード』みたいに敵と戦うという話でした。あとは江戸に隕石が落ちる話です。吉宗は天体観測が好きなので、空を見ていて隕石を発見する。それがどうも江戸に落ちそうだということになれば、あたふたするのではないかと考えたんです。

松平: この話も、よく覚えています(笑)。かなり話題にもなりましたよね。

井川: 再放送がネットで話題になり、ファンの間では“神回”と呼ばれているようです。

松平: 阿蘇にロケに行った時、温泉で刺客に襲われるシーンがあったので、ふんどし一つで立ち回りをしたことがありました(笑)。海から、ずぶぬれになって上がってくるシーンもありました。撮影は真冬に夏のシーンを、真夏に冬のシーンを撮ることが多かったので、よく真冬に水の中に飛び込んでいました。乗馬のシーンは、京都の下鴨神社で撮影する事が多いのですが、突き当たりが道路になっています。撮影で使うのは元競馬の馬もあり、撮影用のトラックが並走すると、それを抜こうとスピードを上げるので、道路際で馬を止めるのが大変でした。それと一度、撮影を中断してもらったことがあります。将軍の前に、悪人が何人か並んでいるのですが、みな当時の政治家を真似た鬘とメイクをしているんです(笑)。それはさすがにまずいと思って、変えてもらいました。

井川: 撮影所には、そうした遊び心がありましたよね。

松平: 「め組」の人たちとは、よくアドリブでふくらませて芝居をしていました(笑)。

井川: 吉宗は、財政再建と福祉政策を重視し、法の支配を徹底させた将軍ですが、ドラマの初期はこうした史実を入れていたので、物語に深みと厚みがありました。ただ悪人にひどい目にあっている人を助けるだけでなく、将軍として何が正義なのかを描いていた気がします。だから吉宗は、自分の政策で不幸になった人がいるのではと悩んでいました。

松平: 確かに、最初の頃はよく悩んでいましたね。吉宗は江戸城では毒味の終わった冷めた食事しか食べていなかったので、町を歩いて市井の人情に触れ、初めて温かいご飯を食べて驚きます。将軍が新しい常識を一つ一つ身につけていったように、若かった私も京都の撮影所のしきたりなどを一つ一つ覚えていったので、吉宗には親近感を持っていました。

――井川さんは、撮影所に見学に行ったことはあるのですか。

井川: 何度か行きましたが、大抵は打ち上げがある日でした。ある日、撮影所に行ったら何度もNGが出たようで、ピリピリしていたんです。僕も慣れていないのでぼさっとしていたら、スタッフに「邪魔だ!」と怒られたんです。そしたら松平さんが気を遣ってくれて、「井川さん、来てたの」と声を掛けてくれました。それでスタッフも僕が脚本家だと気づいたようで、すぐに椅子を持ってきてくれました(笑)。松平さんは、次の出番を待つ間はいつも瞑想されていましたよね。

松平: そうですね。現場ではあまりしゃべらないですね。田之倉孫兵衛を演じた船越英二さんが「僕は現場では寡黙なのが好きなんだ。だから松平さんが好きなんだ」とおっしゃっていて、よく飲みに連れていってもらいました。

小説版『暴れん坊将軍』はどのように生まれた?

――今回『暴れん坊将軍』が小説として復活することになりました。この作品は、どのようにして生まれたのでしょうか。

井川: 僕は文庫書き下ろしのシリーズを二、三十は手掛けてきましたが、『くらがり同心裁許帳』や『もんなか紋三捕物帳』など吉宗の時代を舞台にした作品が多かったんです。これらは将軍が接していない同心や岡っ引きが活躍する物語なのですが、その背後には常に吉宗を感じていて、変則的な時代劇を書いているとの考えが拭えませんでした。今は時代小説作家が増え、将軍が隠密をやるという話も出てきたので、将軍が身をやつして悪と戦うなら『暴れん坊将軍』だろうという想いが強くなっていました。ただ『暴れん坊将軍』は、多くの脚本家、スタッフ、役者が関わって作り上げた作品ですから、僕のものにしてもいいのかと悩みながらも、編集者に、『暴れん坊将軍』というタイトルで、読者が松平さんをイメージし、菊池俊輔さんのテーマ曲が聴こえてくるような作品が書けないかと相談しました。それで難しい問題をクリアしていただき、今回の刊行となりました。『暴れん坊将軍』という有名な時代劇を、ノベライズではなく小説という形で復活できたことは、現在の時代小説の世界に一石を投じられたのではないかと考えています。

――小説版の第一弾は、どんな内容なのか教えてください。

井川: 物語は、吉宗が新之助として市中にいる間に、テロリストが江戸城を乗っ取る八百回記念新春スペシャルをベースにしました。ただ小説は、映像のようにダイレクトに伝えるのが難しく、いくらチャンバラを書いても、松平さんの殺陣にはかないません。それで『暴れん坊将軍』のイメージを傷つけない風格とテイストを出すために、初期作品を参考に、吉宗が実際に行った政策を史実として描く歴史小説的な側面や、若くして将軍になったことから生まれる迷いや悩みなどの人間ドラマなども盛り込みました。

――ドラマのファンも楽しめそうですね。

井川: 『暴れん坊将軍』は、リアルタイムで観ていた人にも、再放送で興味を持った若い世代にも支持されています。そんなファンの方々が読んでも、「面白かった」と言ってもらえる作品に仕上げられたと考えています。

吉宗が江戸版『アベンジャーズ』を結成して悪の組織と戦う!?

――小説が切っ掛けになって、ドラマの新作が製作されるかもしれませんね。

井川: 小説と連動しなくても構わないんです。吉宗は長生きしているので、隠居した後に世直しのために全国をまわる『吉宗隠居旅』が作られてもいいはずです。アメリカのヒーローが集結する『アベンジャーズ』を観ていたら、江戸市中に出た吉宗が、怪力や妖術遣いをスカウトして、地球侵略を狙う悪の組織と戦う話もいけると考えました(笑)。吉宗は、『劇場版 仮面ライダーオーズ WONDERFUL 将軍と21のコアメダル』で仮面ライダーとも共演していますからね。松平さん、いかがですか。

松平: (笑)吉宗の新作ドラマが製作されるなら、演じてみたいですね。

――小説『暴れん坊将軍』は、今後、どのような展開になるか教えてください。

井川: 第一弾は天下国家を揺るがす巨大な陰謀を描いたので、ドラマでいえばスペシャルです。第二弾は一冊に四話を収録する予定なのでレギュラーに戻った感じで、吉宗が哀れな女たちを救うという人情味の強いテーマでまとめようと考えています。

松平: 『暴れん坊将軍』というシリーズが、小説として新たなスタートを切ることは嬉しい限りです。ぜひ続けていただきたいと思います。

井川: 上様のお墨付きをいただきました(笑)。ありがとうございました。

 Ⓒ東映  


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