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特集

対談「歴史小説×プログレ=大河ドラマ?」伊東潤×『武田家滅亡』×金属恵比須 ロック好き作家と小説好きロックバンドが挑む“臨場感”型メディアミックスとは。

撮影:飯盛 大 取材・文:深見 ススム

単行本で4刷、文庫版で12刷を成し遂げた伊東潤のデビュー作『武田家滅亡』。このたび、それにまつわる「オリジナル・サウンドトラック」をロックバンド金属恵比須が発表する。歴史小説家とロックバンドという異色のコラボレーションが示すメディアミックスの新しいかたちとは何なのか、大いに語っていただいた。

小説も音楽も“臨場感”!

――デビュー作の『武田家滅亡』が続々重版されています。長い間評価をされ続ける歴史小説『武田家滅亡』とはどのような小説なのでしょうか。

伊東: 戦国大名の象徴的存在である武田家の滅亡を描いた壮大な群像劇です。1575年の「長篠の戦い」の翌年から1582年の滅亡までを、武田家内部の人々の視点から描いています。ちなみにベースとなっているのは、シェイクスピアの『オセロ』です。

高木: シェイクスピアとは意外でした!

伊東: ちょうど『オセロ』の人物配置と武田末期の状況が似ていたのです。オセロの勝頼、デズデモーナの桂姫(桂林院)、そしてイアーゴーに相当する長坂釣閑を軸にして、人物を配置していきました。ただそれだけでは、「滅亡」という一大事を多角的に描くことはできません。そこで私は、この作品を「多視点群像劇」にしようと思い立ったのです。これは視点人物を多く設けて、それぞれの視点から「滅亡」を描いていくという趣向で、いくつもの複線が走っていき、途中で死を迎えて途絶える線もありますが、残った線は結合していき、最後は一つの線になり、天目山麓田野の地で終幕を迎えるという構成です。

 *

――今回、小説と同名のCDアルバムの『武田家滅亡』を、プログレッシヴ・ロックバンド「金属恵比須」が発表すると聞きました。これは一種の「メディアミックス」ですね。

高木: KADOKAWAといえば「メディアミックス」ですから(笑)。初めて小説『武田家滅亡』を読んだときに、 音楽家として、そして金属恵比須のリーダーとして、 オリジナル・サウンドトラックをロックでつくりたいという衝動に駆られました。「多視点群像」を映画音楽のようにそれぞれにテーマをつけたいと思い、伊東先生に伝えたところ、快諾をいただきました。CDアルバムは2018年8月29日発売で、ディスクユニオンとHMVの一部店舗では小説とCDアルバムのセット販売も予定しています。

伊東: これからは、今まで以上に「メディアミックス」が大切な時代だと思っています。最近、VRや体験型アトラクションが流行っていますよね。同様に小説は、“臨場感”が今まで以上に重要になってきています。何が見え、何が聞こえ、何が匂うのかといった五感に訴えかけるものを、いかに文章で表現していくかが重要です。それらを重層的に描くことで、読者を「その場」に連れていけるのです。それに加えて今回のような「サウンドトラック」的なイメージアルバムが生まれれば、小説がさらに立体的になり“臨場感”が増すはずです。ぜひ、BGMで流しながら読んでほしいですね。

「プログレ好き」がカラオケボックスで作詞!?

――そもそもお二人の最初の出会いは、どんなことがきっかけだったのでしょうか。

高木: ロック音楽に幅広い知見のある伊東先生に、ある音楽雑誌で金属恵比須を取り上げていただいたことがきっかけです。

伊東: ある音楽雑誌でプログレ特集があり、寄稿を依頼されたのですが、ちょうど書いている頃、金属恵比須を聴く機会があり、自分の耳が欲している音は「これだ!」と感じたのです。そこでその記事の締めくくりにこう書きました。「現在進行形のプログレ・バンドとしては、スウェーデンのフラワー・キングス、イギリスのポーキュパイン・ツリー、そして国際派のトランスアトランティックが三大有力バンドだと思う。叙情派プログレとなると、あらゆる点でイタリアのラ・マスケーラ・ディ・チェラが抜きん出ている。これからのプログレ界を背負っていくのは、これらのバンドだなと思っていたところに、とんでもない奴らが現れた。金属恵比須である。世界は、もう手の届くところにあるのだ」(笑)

――今回の『武田家滅亡』のアルバムでは伊東先生が作詞を担当されていますが、どのように進められたのでしょうか?

高木: 渋谷のカラオケボックスでつくりました(笑)。デモテープを流しながら、「この曲は『小宮山内膳』をテーマにしているので適当に語ってみてください」って(笑)。1時間半で2曲作りましたよね。失礼ながら「さすが、言葉のプロだな」と思いました。

伊東: 言葉を紡いでいくのはお手の物ですからね。基本的なかたちは30分でできて、そこから歌いやすい文字数に当てはめていく作業をしました。

高木: 私が歌に合わせた文字数を指定して、曲に合う言葉なのか、歌いやすい言葉なのか、などを考えながら作りましたね。「ここはやわらかいメロディだから漢語ではなく和語の方がいいかな」みたいに。「武田家滅亡」という曲が講談調になったのは、伊東先生にストーリーを最初からなぞってもらったら先生の口調がまるで講談だったので(笑)、その方向性にしました。とにかく言葉があふれ出てきてすごかった。

伊東: 音楽にも小説にも共通する重要な要素は絶対音感です。私は音痴なので歌も楽器演奏も下手ですが、文章の音感だけは天性のものがあります。手数(漢字)が多いのに滑らかなので、自分では文壇のジャコ・パストリアスかスタンリー・クラークだと思っているのですが(笑)、講談とラップを融合させたような歌詞も、文章の絶対音感のよさから生み出されていると思います。

 *

伊東作品を大河ドラマに!?

――今回の曲の中には大河ドラマを意識した曲があると聞きましたが。

高木: 「勝頼」という曲です。歴代の大河ドラマのテーマ音楽を分析してできあがりました。曲が展開する秒数の平均値を出したりして(笑)。『武田家滅亡』が大河ドラマの原作になったらすぐにオープニングに使えますよ(笑)。

伊東: このアルバムは全曲気に入っているのですが、とくに好きなのは「勝頼」です。繊細さとダイナミックさが共存しており、ストーリー的な展開もあって、大河ドラマのテーマ曲として、これほどしっくりくるものはありません。

高木: 金属恵比須は20年でも30年でも待っていますので、よろしくお願いします!

伊東: 百歳まで生きられるなら何とかなるかもしれないけれど、こちらはそんな長く待てないよ(笑)。

小説をロックで表現、ロックを小説で表現

――CDのキャッチコピー「読んでから聴くか、聴いてから読むか」も良いですね。

高木: 角川文庫と角川映画が大好きで「読んでから見るか、見てから読むか」(1977年公開『人間の証明』)というキャッチコピーのオマージュです(笑)。そもそも私が音楽を最初に好きになったのは映画音楽でした。要するに物語に合った曲というものがそもそも好きだったんですね。しかし映画にはサントラがすでにできあがっているので自分が入り込む余地はありません。しかし小説には音楽がない、ということで小説の物語に合った音楽を作りたいという思いがありました。

伊東: 今までどんな作家の作品がありましたか。

高木: 横溝正史、三島由紀夫、京極夏彦、坂口安吾、太宰治などですね。

伊東: これらの小説作品に触発された楽曲は、ロックの名作と呼ぶに値するものばかりです。やはり小説が金属恵比須の音楽を触発するのでしょうね。

高木: 伊東先生は音楽を聴きながら小説を書くのですか?

伊東: 音楽を聴きながら執筆することはありませんが、音楽にインスパイア―されて作品を思い立つことはありますね。例えばキング・クリムゾンの『スターレス(暗黒)』を聴いていて、この悲哀感を小説にできないかと思い、『戦国鬼譚 惨』のアイデアがわき出てきました。また『天地雷動』の長篠のシーンでは、レッド・ツェッペリンの『アキレス最後の戦い』を頭の中で鳴らしながら「もっと叫べ、もっと熱くなれ!」なんて自分を駆り立てながら書きましたね。最新作の『ライト マイ ファイア』は現代物ミステリーなので、ロックの名曲の寓意が炸裂しています。とくに謎を解く鍵がイタリアンロックとクラブチッタ(小説ではクラブパーチェ)というのが泣けるでしょう。それだけ私の創作活動にとって、ロックはなくてはならないものなのです。

高木: 我々と逆ですね! 僕は小説をロックで表現する音楽家。

伊東: 私はその逆ですね。まさに、われわれの邂逅は必然だったのかもしれません。

――出会いは必然だったのかもしれませんね。最後にお二人にとってロックの中の「プログレ」というジャンルは何なのでしょう。

高木: 難しいですね。この問いに答えるだけで1時間はかかりそうですが、一言でいうなら、「最も映像が喚起できる、最も物語性の高いロック」だと思います。

伊東: 「プログレッシヴ」という言葉に表されているように、最も重要なのは“前進する姿勢”だと思います。それが他の音楽とは違うところだと思いますし、プログレを演奏する人たちの使命だと思っています。金属恵比須もそういった使命を背負っていると思いますので、前進をやめないでください。

高木: 今回のコラボで前進できたと思います。

伊東: 紅白、武道館、大河ドラマまで前進だ!!


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