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レビュー

中国嫁・月サンの「わかりみ」に導かれてお金の現在と未来を知る 『キミのお金はどこに消えるのか』

 ある日、中国の工場と取引のある夫が「円安で高くついた」と嘆くと、幼子を抱えた妻が「減た分のワタシたちお金、誰が取りマシタか?」と尋ねる。ここで「中国?」と考えるのは大間違いで、本当は……?
中国嫁日記』の著者・井上純一いのうえじゅんいちが、妻のゆえサンと一緒にお金と経済の疑問を掘り進める本書は、こんなふうに始まる。 あるときは日本銀行と日本政府を一世帯の夫婦に見立て、あるときは「お金の流れを河に例える」ことで「国が下々の民から税を徴収する」図絵のミスリードを正す。国債と物価、電子マネーと信用創造、選挙と損得、貯蓄のパラドックス、インフレ・デフレと消費税増税などなど、厳密な説明は専門家でも難しいとされる諸テーマを、わかりやすく解説するコミックエッセイだ。
 読み進めながら私は、高校時代に社会科の授業で経済について習ってから、20年以上が経過していることに想いを馳せていた。その間に就職氷河期があり、リーマンショックもあった。「お金の本質」は何千年経っても変わらないが、使わない筋肉は日に日になまっていく。だから米国に暮らす今、仕事の報酬を小切手で受け取ると、一瞬ウッと狼狽したりもするわけだ。札束で受け取ろうが口座に振り込まれようが同じだと頭ではわかっているはずなのに、銀行のATMにペラ一枚の紙片を預け入れるときの、あの心細さたるや。
 錆びついた頭で久しぶりに受ける「授業」は、耳が痛い内容である。先生役の著者は博識で、お金に疎く甘言に騙されやすい我々読者に強い口調で警告を発する。それだけだとぐったり疲れてしまうが、本書にはやたらと勘の鋭い生徒役の妻・月サンが居るのがよい。マルクスを習わず、ピケティも読まず、ゲーム理論も知らずに、時折ズバリと結論を導き出して、先生役の夫の出鼻をくじいたりもする。
 たとえば著者がコマを重ねて「豊かさはお金の形で貯め込めると思ってる病」(緊縮財政病)に罹患りかんした日本人たちの過ちを情け容赦なく批判する傍らで、月サンは、あっさり一言「わかりマス」。若くして壮絶な貧困や苦労を経験してきた一方、まっとうに経済成長して内需拡大へシフトしつつある祖国の躍動を我が身に感じて育ち、今は便利な電子マネー決済を使いこなす彼女にとっての「わかりみ」を、私たちはいつ見失ったのか。
 急成長中の隣国に追い抜かれ、ドン詰まりの閉塞感が漂う現代日本。かつて夢と描いた未来とはあまりにも違う現実。消えたお金の行方を追いながら、「使えばよかったんだよ。そうすれば違う未来があった」と総括するのに、ぴったりのコンビだと思う。そうして、立役者がもう一人。
 連載開始当初、息子のバオバオはまだ小さく、キャッキャッとご機嫌な声を立てる。回を増すごとに「あーっ、あーっ」「ゔーっ、ゔーっ」とぐずってコマの中で自己主張を始め、後半ともなれば「じゅちじゅち」と相槌めいたものを発して会話に参加するそぶりを見せる。ずっと聞き役の母が抱き続けていた我が子を、語り手の父がとあるタイミングで取り上げて高々と掲げる場面がよい。
「この世の負債をすべて借金と呼ぶなら 借金をなくすということは この世界から豊かさを消すのと同じです」「我々が子供に残すべきは─借金とそれを返せる力です」
 シリーズ化が予定される本書の続刊が出るまでに、バオバオはまた一回り大きくなるだろう。ゆるやかに滅びゆく国で貧しくつつましく先細りで生きればいいじゃないか、とうそぶく高齢者たちに「孫の顔」とともに突きつけたい漫画だ。そして、海の向こうに暮らしつつ日本円での預金口座を持ち続ける私にとっても、今のうちに再履修しておいてよかった、と思える授業である。


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