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レビュー

【『勿忘草の咲く町で ~安曇野診療記~』リレーレビュー②】森隆志「いま読むべき物語!」

 いま読むべき物語!
 本を手に取って、まず目に飛び込んで来るのは、爽やかなキャラクター小説を連想させるカバーイラスト。続いてオビの「感涙の連作短編集」という惹き文句。裏オビには一転して「地方における高齢者医療の現実」という重いテーマ。この小説は、どの要素に惹かれた人も満足させる傑作なのだ。



 主人公は二人。度胸はあるけど恋には臆病な美人看護師・美琴と、いつもくたびれた風貌だが花が大好きという風変わりな研修医・正太郎。物語の舞台は北アルプスのふもとに佇む小さな一般病院。ここで二人は、サンダーソニアを生けた花瓶を挟んで微笑ましい出会いをする。初々しい恋物語の始まりだ。
作者の夏川草介さんは大ヒット小説『神様のカルテ』でデビュー。その頃のインタビューで奥様のことを「満開の桜のような人」とのろけた愛妻家。そんな作者が描く不器用でもまっすぐな愛の形が、じれったくも少しずつ進んでいく。
 それと同時に、入院患者の大半が高齢者というこの病院の内実も次第に明らかになっていく。
“ぼろぼろとご飯をこぼしながら食べているおじいさん。…(中略)…身動きひとつしないお年寄り…(中略)…鳴りやまないナースコールと、どこからか聞こえてくるひどく痰のからんだ耳障りな咳……”痴ほうが進んだ人、普通の食事は困難な人も多い。いったん退院しても、すぐにまた病院に戻って来る。死は日常。ゆるやかに死を待つ人々の介護施設にも見えて来る。
 作者は現役の勤務医でもある。この小説に書かれている問題は現実だ。
 しかし、過酷な現実の中でも、いや、だからこそなのか、美しいもの、温かなものを決して見逃さないのがこの小説の凄み。病院の窓辺から見える四季の風景、藍色の丹前を粋に着こなしてにこにこ笑う認知症の老人、“一体いつまで生きてるつもりなんだか……”と憎まれ口をたたきながらも病気の母親につき添う息子。彼らを支える医師やスタッフたち。何より、生死に関わる正解のない問題に向き合って、その時その時のベストを選択をしようともがく美琴や正太郎の姿勢に心打たれる。そして、正太郎の花好きという設定は、女子受けを狙った取ってつけなのではと疑った私は、最終的にはこの設定で涙させられてしまった。少し悔しい。
 重いテーマと感動と最後まで失われない爽やかさ。すごい小説だ。


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