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男たちよ、もっと感情的になれ! 当代一のコラムニストが読み解く『男をこじらせる前に』

 かつて『話を聞かない男、地図が読めない女』というタイトルのベストセラーがあったけれど、地図を読んで案内してくれる女性はいたし、私はその案内をじっくり聞いていた。「男は~」「女は~」という大きな区分を使って、こういう傾向があると宣言する働きかけを押し並べて信用してこなかった。なぜ信用しないの、と言われても、だってそんなの、いくらだって例外があるからだ。
 でも、実体験として一切の例外が無かったことがある。三年前、出版社を辞めてフリーのライターになったのだが、社内外の人にその旨を伝えると、女性は「どういうものを書こうと思っているの?」と、これからやろうとしていることの中身を問うてきた。一方で、男性は「やっていけんの?」「収入下がるんじゃない?」「奥さんは許してくれてるの?」とその判断を心配してきた。何十人にも話したわけではないとはいえ、完全に分かれたその反応を前にして、当然、「つまんねぇな、男」と思ったわけである。性別に依拠して人を判断しないように心掛けてきたものの、回答結果がここまでくっきりと分かれてしまったからには「男ってのは、どうしてこうもつまらないことを言うのか」と自分の口から漏らしてしまう。そんなことをサラリと言っちゃう自分に驚く。背中を押してくれた女性の先輩の一人に聞けば、「だってアイツら、最後までみんなと一緒じゃなきゃダメなんだもん。アンタが出てって、うまくいかれちゃ困るんだもん。だから頑張ってね。うまくいくといいね」と微笑みを浮かべるのであった。
 自分は今、三十代半ば。結婚して子どもがいる女性の友だちも増えてきたけれど、こちらとしては、その彼女が結婚していようがしていまいが関係ない。話をしたい時に話をしよう、という仲を持続しようと思うし、あちらもそう思ってくれているようなのだが、どうしてだか、あちらの旦那ってのがその機会をなかなか認めようとしないのである。「あわよくば」感を潜ませて、夜景の見えるレストランを予約しているわけではない。休日の昼下がり、純喫茶とは名ばかりの、店内じゅうのありとあらゆる場所がベタついた喫茶店で、さほど美味くないコーヒーをすすろうとしているだけなのに。自分たちのことをものすごく安全な棚に上げた状態で、知人から政治家まで全員をなぎ倒して心地よくなるという、いつものストレス解消に興じようとしているだけなのに。でも、ダメなんだという。普通、結婚したらそういうのナシじゃない、とか言うらしい。普通って何だよ、普通って誰だよ。
 彼女が「結婚したら妻は家にいて」系旦那に異議を申し立てると、とにかく冷静ぶるのだという。決して荒げない。万事に異議申し立てをせずに、そういうものでしょ、を繰り返してくる。そういうものでしょ、の主語は一向に見えない。本書で湯山は書く。「男性はというと、自分自身を『感情的』だと思っている人は皆無ではないかという現実がある」。そんなこと勝手に決めつけないでください、と感情的になるが、一方の女性は「自分の中に豊かな『感情』というものが存在し、『感情的』だということに、はっきりとした自覚があるのだ」との分析を読めば納得し、感情的になった気持ちがいくばくかおさまる。
 女性は流行に敏感。じゃなくて、感情に敏感なのだと思う。感情の敏感さが新しいものへの希求に繋がるならば、男の感情の鈍感さは流行への鈍感さにも繋がるのだろうか。男の保守思想、それは政治思想的なことではなく、ごく日常の部分での保守的な考えに辟易することが多い。人が会社を辞めて一人でやっていこうと伝えた時に、「何書くの?」ではなく「やっていけんの?」と冷静に畳み掛けてきた保守的な男たちへの恨みが募る。でも彼らは、その姿勢を保守的と指摘されるのを嫌がる。指摘を回避するために何をするかと言えば、とにかく群れる。群れて、防衛する。いや、だから、それが保守なのだけれど。かつて、ルポライターの竹中労が「人は、無力だから群れるのではない。あべこべに、群れるから無力なのだ」と言い残したが、群れることでの無力化って、今、男たちの多くが無自覚に行っている行為に違いない。
 本書にある「二十~三十代の気鋭の評論家やライターや学者が集まる名物ラジオ番組」でのエピソードが、その「群れる」行為の最たる実例。彼らとともに「夜遊び」をテーマに議論していた湯山が、「その中の代表的人物」から発せられた夜遊びの例証「カブトムシを捕りに行く会」について、「いやいや、それ夜遊びって言うんじゃなくて、定年退職オヤジからたまに、週末お誘いが来る、知り合いを連れて来て系の蕎麦打ちの会とどこが違うんですかい?」と返したところ、場の空気が最悪に転じ、リスナーも含めた平和な雰囲気をブチ壊してしまったという。で、そこには「あらかじめ『面倒なことを絶対持ち込まない』という男子たちの厳重審査を通ってきたタイプ」の女子が呼ばれるのが通常なのだ。あべこべに群れていると無力になる。みんな、うすうす気付いている。でも、だからこそ、それに対して「無力じゃないよね?」と心配気味に問いかけて、「うん、みんなは無力じゃないよ」と確かめさせてくれる女子を置く。その繊細なコミュニティに対して、定年退職オヤジの蕎麦打ちと一緒じゃんと一刀両断した湯山。文字通り、一つの刀で、群れを断っちゃったのだ。群れたちは「なにすんだ!」と怒るわけでもなく、「どうして、あの人は、ボクたちを傷つけるの?」的な対応。やっぱりここでも感情的にはならないのだ。
 湯山は本書のために男性たちへの取材を進めるなかで「『男たちは自分自身のことを生き方も含め考えていないし、その必要を感じたことがない』という重大事実」を発見し、「欲望のあり方がハイブリッドで多様性がある女性に対し、男のそれがとどのつまり、競争とプライドとモテ、の三つしかないという単純さ」に気付いたのだという。ここまで言われてもまだ、カブトムシを捕りに出かけるのだろうか。男として、なんて言い方を使うのは嫌いだし、男たち、と複数形にして自分をそこに入れ込むのなんて更に嫌いなのだが、この本を読んで、男たち、さすがに感情的になりませんか、と申し立てたくなる。「男はひとりの坂本龍一がいればいい」との理不尽な主張を前にしても、まだ感情的にならないのだろうか。
 かつて、女は地図が読めない、のかもしれなかった。でももう、そんなの、アプリで地図を見ればいい。地図の読める男に用はない。もう、群れて、慰め合ってる場合じゃない。みんなでカブトムシを捕りに行く前に、いよいよ感情的にならないとヤバいと思うのだが、続けて早速蕎麦打ちを始めそうな気配すらある男たちに、湯山の舌鋒(ぜっぽう)は届くのだろうか。


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