『氷獄』の続きが早く読みたいです
田中:小説や映画で、犯人が見つかれば決着がついて物語が終わりますよね。でも、氷室がずっと存在していたように、先生の中では、それぞれのお話は終わっていないんですね。
海堂:僕は、桜宮サーガと呼ばれている作品群をつくっていて、『チーム・バチスタの栄光』の後に起きたこともいろいろ書いているので、たとえば氷室であれば、いまごろ彼は拘置所にいるんだろうなあ、くらいのことは田口と白鳥の間で話題にのぼったりしているんですよ。だから、これはいつかは書かないとなあ、とずっと思っていました。
田中:『氷獄』に収められた4つの物語はいずれもそういう作品なんですね。
海堂:そうです。いいかげんこぼれたものを書きやがれ、という指令がどこからか来るんですね。編集者からかもしれませんが(笑)。
――『氷獄』は桜宮サーガの様々な登場人物たちが登場し、サーガが閉じてしまって寂しいと思っている読者たちには嬉しいですね。
海堂:そう言っていただけるとすごく励みになります。完結したと言っても隙間がたくさんあるので、こぼれ落ちた話はたくさんあるんです。ただ、メインストリームが終わると、書く推進力がなくなるんですよね。ですから、こうして「小説 野性時代」で年に1作ずつ書ける機会をいただいたのはよかった。継続は力なりです。
田中:先生はたくさんの登場人物をお書きになっていますが、思い入れのある人物はいるんですか。氷室なんかどうでしょう。
海堂:正直に言うと、僕にとって登場人物はぜんぶ平等なんですよ。中学校にたとえると、担任じゃなくて校長先生みたいな気持ちです。担任のように直接はつきあわない。距離はあるけど、みんな僕の生徒。氷室君もその1人です。ただし白鳥だけは、ちょっと異質ですね。ほかの登場人物と違って僕の言うことを聞かないんです。
田中:そうなんですか。
海堂:ほかの登場人物も好き勝手にしゃべっているんですが、「それはしゃべりすぎだ」と僕が言えば引っ込むんです。でも白鳥は引っ込まない。物語世界では僕は神なんですが、白鳥だけは逆らう。最近、出番が少ないのでラクになりましたけど。ヘンなやつです。
田中:面白いですね、自分で書いていてコントロールできないって。
海堂:普通は物語に登場人物を合わせるんですけど、白鳥の場合は物語を白鳥に合わせるしかない。だけど、しゃべってることは論理的だから物語が破綻することはないんです。やつは論理だけで生きている。だからセーブが効かないのかもしれないですね。いまさらですけど、白鳥につけた「ロジカル・モンスター」ってあだ名は、われながらピッタリだったな、と思います(笑)。
――『氷獄』では、久々に白鳥の弁説も聞けますね。最後に一言ずつお願いします。
田中:氷室を演じて11年経って、氷室のその後を読めたことが嬉しいですね。読んでいて背筋がゾクゾクしました。読み終えたばかりでなんですけど、早く続きが読みたいです。最後に僕にだけ教えてほしいんですけど、この先どうなるのかもうお考えなんですか。
海堂:さあ、どうなるんでしょう(笑)。何も考えてないんですよ、本当に。いずれ機が熟したときに、わかると思います、きっと。それまで楽しみに待っていてください。
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レビュー
▷「桜宮サーガ」再始動!(評者:東えりか)