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特集

『四畳半タイムマシンブルース』発売記念リレーエッセイ「タイムマシンがあったら」――第4回 深緑野分

四畳半タイムマシンブルース』の発売を記念して、著者である森見登美彦さんを皮切りに、いま注目の作家たちにエッセイを寄稿していただきました。タイムマシンは99年までの過去・未来に行けるという設定。さて、あなたならいつの時代に行きますか?



 タイムマシンを使えたらいつに行きたい? ……って、実際聞かれてみるとなかなか悩む。小津君と一緒に妖怪みたいな笑顔で「ジュラ紀がいいなあ」とのたまいたいものだけれど、一回につき前後最大九十九年となると確かに無理だ。とはいえ未来を見たくないのは私も同意である。だって、ねえ、怖いもの。
 戦争小説を二回も書いた手前、深緑野分的には「戦時中」と答えるのが正しい答えな気もする。しかし十中八九死ぬ。一九四五年のベルリンとか絶対飢えて干からびてしまうし、そもそも当時は日本からじゃ欧州へたどり着けない。しかも過去に戻って何かしでかしてしまったら、未来が変わって宇宙が壊れる……つまり、後悔した選択をやり直したり死んだ人を助けたりはできず、まあそうなると、わざわざ過去だの未来だのに行く意味ってなんだ、と夢のないことを考えてしまう。
 ただ、もしタイムマシンを何度も使えるならば、こういうことはしてみたい。子どもの頃に戻って本棚の前に立ち、捨てた上にタイトルも作者も覚えてなくてもう二度と読めなくなってしまった漫画をもう一度読む。それから和室に置いていたピアノを弾く。引っ越しの際にいったん親戚に預けたものの、結局邪魔になって捨てられ、二度と触ることのないままさよならしてしまった。生まれてからずっとそばにあったのだけど。
 他には、もう会えなくなった人の姿を見る、今では売っていない駄菓子を買いに行く。なんだか郷愁じみたことばかり考えてしまうのは年を重ねたせいだろうか。
 しかし本当にタイムマシンがあればいいのにと心から痛感するのは、たぶん、いつか来る私の飼い猫たちとの別れの後だと思う。寂しくなったらきっと何度でも私は今の私の時間に戻って、生きている猫たちを撫でる。柔らかくて温かな毛並み、私によく懐いていて、どこまでも後をついてくる愛しい子たち。思い出だけではつらすぎて、もしかしたらそのまま留まってしまうかもしれない。

» 四畳半タイムマシンブルース』特設サイト

『四畳半タイムマシンブルース』発売記念リレーエッセイ


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