『四畳半タイムマシンブルース』の発売を記念して、著者である森見登美彦さんを皮切りに、いま注目の作家たちにエッセイを寄稿していただきました。タイムマシンは99年までの過去・未来に行けるという設定。さて、あなたならいつの時代に行きますか?
「どうか、タイムマシンが発明されませんように」とは、文学的というかノスタルジックな雰囲気であまりにも有名な大分むぎ焼酎・二階堂のCMにおける一節です。
タイムマシンといわれると、未来に行くよりも過去に行くパターンが真っ先に浮かびます。偉人に会いに行ったり、命を落とした彼女を救いに行ったり。しかし私は高校時代の日本史の先生が苦手な人だったのと、同じく高校時代に嫌なことがあった相手が歴女だった関係で歴史嫌いなため、前者はパス。問題は後者ですが、運命の人と死に別れるような経験はしたことがないため、どうもちまちまとした過去の修正しか思いつきません。
ちまちまとしたことの一例としては、高校時代からずっと肩のところにあった粉瘤(良性腫瘍の一種)が、つい先日、化膿して炎症を起こしたことでしょうか。膿を出しきって炎症が治まるまで数週間病院に通って経過観察することとなり、落ち着いたら改めて根本を切除する必要があるそうです。粉瘤は自然治癒しないので、炎症を起こす前に切除した方が断然楽。こんなことになるのなら、高校時代に対処しておけばよかった。
しかし、です。私はバタフライエフェクト支持者というか、細かい出来事でも改変したら大きく未来が変わってしまうのではないか、とうっすら考えています。化膿しない限りは特に生活に支障もなく存在感のない粉瘤ですが、それでも、過去の自分に切除を促したら、巡り巡ってまったく別の人生となってしまうかもしれない。こんな人生ですが、わりと気に入ってはいるのです。膿も含めて受け入れていきたい。他にもたとえば、高校時代のあの人にもう少し上手く言い返してやりたかったとは思いますが――そうすると、これまで書いてきた小説だって大なり小なり影響を受けるのかもしれない。
だから、タイムマシンがあっても使いたくはありませんし、他の人が使うことも全力で阻止したい。
どうか、タイムマシンが発明されませんように。
※今現在、粉瘤らしきものが発生しているあなたは、すぐ病院に行ってください。炎症を起こすと、そこそこ面倒ですよ!