撮影:内海裕之
本好きとして、一度は行ってみたい場所がある。それは
ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』のように自分が物語世界に入り込むのではなく、物語が現実に入り込んでくるという設定がなんともユニークだ……と思っていたけれど、ある日書店で「読長町〇丁目〇番地」という表記を見かけて、えっ、ここは読長町? とびっくり。読長町プロジェクトとして、「このぬす」応援書店に番地が振り分けられているらしい。あの書店は読長町何番地、この書店は何番地……と思うと、なんだかあの物語が実際に現実に侵食してきたような気がしてくる。
いや本当に侵食しているかもしれない、と思ったのは「本棚劇場」の噂を耳にした時。聞けば聞くほど、〈天井から床まで作り付けられた本棚〉、〈戒律の厳格な神殿のような雰囲気〉――といった御倉館についての説明に当てはまる。だが、どこにあるのか訊くと人によって「サクラタウン」だの「武蔵野ミュージアム」だの「エディットタウン」だの言うのでよく分からない。これはもう、自分で行ってみるしかない。というわけで、とある日の夕暮れ、JR武蔵野線に乗って東所沢へ。
巨大な岩のミュージアムに入っていくと……〈天井から床まで〉本、本、本!
駅から5分ほど歩いて大通りを曲がるとほどなく武蔵野樹林パークがあり、そこを抜けると見えてきたのは……どう見ても岩。巨大な岩が、浮かび上がっていた。
じつはそれが、「角川武蔵野ミュージアム」。周囲の商業施設も含めた一帯「ところざわサクラタウン」のシンボル的な建物だという。建築デザインは隈研吾氏によるもので、なんでも武蔵野台地の地殻が盛り上がって出来たというイメージなのだとか。だから岩かと納得。
いざ、ミュージアムの中へ。4~5階にあるのがエディットタウンで、エレベーターを降りるとすぐ始まるブックストリートでは、館長の松岡正剛氏と選書チームが構成した、さまざまなコンセプトの本が並ぶ。高さも長さも統一されていない木製の本棚に、いい意味で雑多に本が置かれていて、まるで人の家の本棚をのぞいているかのよう。ざっと眺めただけでも「こんな本があるなんて知らなかった」と新たな出会いが続々訪れ、胸が躍る。本の背表紙にラベルが貼られており、司書カウンターもあるなど、まさに図書館(本の購入は不可、持ち出し禁止)。ストリートの脇には「荒俣ワンダー秘宝館」や企画展示が開催される「エディットアンドアートギャラリー」もある。ふむふむと確認しながら進むと、突然吹き抜けの広い空間に。まさに壁四面、〈天井から床まで〉、本、本、本! ここが「本棚劇場」だ。
そこに並ぶのは、KADOKAWAの創業者の角川源義氏、歴史学者の竹内理三氏、沖縄学の研究をつづけた言語学者の外間守善氏、文芸評論家の山本健吉氏たちの蔵書だという。日本文学全集や研究書など、入手不能な貴重な書物が3万点。全集が多いためか同じ装丁の背表紙がずらりと並び、その様子が美しい。見上げていると、なんだか本で作られたモザイク画を見ている気分になってくる。床に近い棚には比較的最近の書籍もあり、私が訪れた時は森村誠一さんフェアとして著作がずらりと並んでいた。先生、本当に刊行点数多いですね……と改めて感嘆。
松岡正剛氏による選書も充実の書店・ダ・ヴィンチストアが「読長町」化!
脇に階段があり、荒俣宏氏の蔵書のマニア度と装丁のカッコよさにうっとりしながら上がっていくと、今度はカウンター越しに劇場が眺められる。といっても正面の棚の書名はさすがに見えないので、望遠鏡を持ってバードウォッチングならぬブックウォッチングをしたくなる。ちなみに手の届かないところにある蔵書も、頼めば閲覧できるのだとか。
いやあ、本当に御倉館のようだわ、ひるねや
●角川武蔵野ミュージアムのイベント情報・フロアガイド等は、下記のサイトでご確認ください。
https://kadcul.com/