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特集

【インタビュー】那々木悠志郎シリーズ5作目となる最新刊に込めた思いとは? 『化身の残夢 那々木悠志郎、最後の事件』阿泉来堂インタビュー

第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞の読者賞を受賞し、2020年に『ナキメサマ』でデビュー。『ナキメサマ』に登場し、異彩を放ち人気キャラクターとなった謎めいたホラー作家・那々木悠志郎のシリーズはその後、すべての作品が重版を続ける人気シリーズへ。そして5作目となる本作で、那々木は最終決戦を迎える。世界観がつながる『バベルの古書』もシリーズ化しており、他社でも活躍中の著者。那々木悠志郎シリーズ第1シーズンの決着にあわせ、阿泉来堂さんにシリーズに込めた思いを語っていただいた。

取材・文:千街晶之(ミステリ評論家)

『化身の残夢 那々木悠志郎、最後の事件』阿泉来堂インタビュー



――那々木悠志郎シリーズは、五冊目となる最新刊『化身の残夢』でひとつの決着を迎えました。あとがきに、那々木悠志郎はデビュー作『ナキメサマ』の中盤で死ぬ予定だったと書いてあって驚きましたが、当初どのような話になる予定だったのでしょうか。

当初は那々木先生は狂言回しみたいなかたちで説明してくれたり、物語を進めてくれる人物として作ったんですが、途中で「この人、いなくなっちゃったら寂しいな」という気持ちが湧いてきたので、最終的に主人公とは違う目線で物語を追う人物となりました。


――『ナキメサマ』の着想の原点は。

最初はこの世の者ではなくなった恋人とか想い人との関係を描きたかったんです。イメージの参考になっているのは『パラサイト・イヴ』で、死んでしまった奥さんとこの世に残された旦那さんとの絆が描かれていますが、それをより恐怖度の強い怪物と、想い人である男性との絆でどうにかする話を書きたかったのが一つと、その話に怪異よりも人間のほうが恐ろしいんじゃないかというエッセンスを加えたかったのが始まりでした。


――作家になろうと思ったのはいつごろでしょうか。

二十一、二歳くらいの時に本屋さんで読みたい本を探していて、三時間くらい見つけられなくて、読みたい本がないから自分で書こうと思ったんですね。最初はミステリだったんですが、ちょっと納得のいく作品を書けなくて、気分転換にホラーを書いてみようと。そうすると、自分はミステリよりもホラーの影響を受けていることが多いと気づいて、ホラーなら書けるかなと思いました。


――影響を受けた作家は。

僕は綾辻行人先生の『殺人鬼』が最初に読んだホラーで、読んでいて体調を悪くしてしまうほど影響を受けました。あとは赤川次郎先生の『魔女たちの長い眠り』とか我孫子武丸先生がシナリオを担当された『かまいたちの夜』とか、やっぱりホラーが下敷きにあるミステリや恐怖描写の強い作品に触れていたので、そのあたりから影響は受けていますね。


――那々木悠志郎をシリーズ化する構想はいつごろからあったのでしょうか。

読者賞を受賞した時は次作のプロットは作ってあったので、二作目はどうですかと編集部に相談した覚えはあります。


――二作目『ぬばたまの黒女』で裏辺修一刑事が初登場し、三作目『忌木のマジナイ 作家・那々木悠志郎、最初の事件』で人宝教が登場しますが、このあたりでシリーズの着地点が見えてきた感じでしょうか。

教団みたいなものを登場させて、那々木と対決させて一区切りにしたいというのは早い時点からありました。


――このシリーズには、那々木悠志郎が途中から登場する、最後は派手なカタストロフィで終わる……などの幾つかの約束事がありますが、三作目で作中作ホラーを試み、四作目『邪宗館の惨劇』はホラーでは珍しいタイムループものに挑むなど、趣向を変えて読者を飽きさせない工夫も感じられます。

何かしら目を引く舞台設定みたいなものをやりたいというのは考えていました。三作目の作中作に関しては、三津田信三先生の影響が強いのかなと。ホラーの作中作で一番先頭を走っているのは三津田先生なので。


――毎回、必ずミステリとしてのどんでん返しも用意していますが、それは構想の最初の段階で考えておくのでしょうか。

ある程度は最初のほうで考えますが、『ナキメサマ』は初稿の段階ではどんでん返しはなかったですね。なので、推敲の段階で大幅に書き直すこともあります。


――登場する怪異はどのように思いつくのでしょうか。

今まで僕が観たり読んだりした作品に出てきたいろいろな怪異の中から特徴的なものを引っぱりだして、頭の中でこねくり回して何となく造型している感じです。僕は絵は描けないので、頭の中で想像するしかできないんですが、それでも書いているうちに明確な姿が見えてくることがあるので、そういうのは今まで吸収したものを少しずつかたちを変えて引き出しているのかなと思います。


――毎回、クライマックスに趣向を凝らしたスプラッター描写やモンスター的な怪異の描写があるのも読みどころですね。

自分が単純に読みたいクライマックスをひたすら書いているので、変な話、書きながら自分も楽しんでいますね。僕が好きなのは、最後に巨大化するモンスターっているじゃないですか。『エイリアン2』でも、最初は小さいのが出てくるのにそのうち巨大なクイーンに襲われる、ああいうのがわくわくします。そういうのを自分の作品で書けると楽しいですね、夢が叶ったといいますか。


――「バベルの古書」シリーズに裏辺刑事が登場していますが、同じ世界線の話と考えていいでしょうか。

そのつもりで書いていますので、二つのシリーズを続けていけるのなら、両方をまたぐ話は書いてみたいなと思います。例えば、那々木のシリーズに出てくる人宝教を、どんな犯罪をやっているかという視点で見るのが警察ですが、でも那々木の視点では警察が把握しているよりもよっぽど悪いことをしている連中なわけで、二つの視点から一つの事件を追ったりしてみたいですね。


――那々木悠志郎シリーズは『化身の残夢』で一区切りを迎えましたが、シーズン2的な展開も期待していいのでしょうか。

それは是非やりたいと思っています。変化をつけるためにも今までやらなかったことをやらなければと思っていますが、それが新しい人物の登場なのか、物語の運びに変化をつけることなのかは構想中です。


――今後の刊行予定をお願いします。

八月に『化身の残夢』が刊行されたあと、九月に産業編集センターから『冥船ステラ・ブルー』が刊行予定です。


――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

那々木先生が今後辿っていく道は未知数で、どういう方向に転がっていくかは見えていない中で、書きたいものは積み重なっている状態です。あまりお待たせすることなく那々木先生の新たな物語をお届けできればと思いますので、是非楽しみにしていただければ。


――ありがとうございました。

「那々木悠志郎シリーズ」に登場する主要なキャラクターたち


那々木ななき悠志郎ゆうしろう
怪異譚蒐集家にしてホラー作家。無表情で端整な顔立ち。博識でフットワークも軽いが、自分の小説を読んでいない人間に出会うと不機嫌になる。

那々木ななき登志也としや
那々木悠志郎の叔父。怪異譚の蒐集をライフワークとしていた。15年前、ある怪異に取り込まれる。

裏辺うらべ修一しゅういち
北海道警察刑事部捜査一課の刑事。ある事件で那々木に命を救われて以降、彼の協力者となっている。

久瀬くぜ古都美ことみ
那々木の担当となった堂文社の編集者。彼の小説『忌木の呪』を読んで怪奇現象に見舞われた。

柴倉しばくら泰元たいげん
人宝教初代教主。大量死事件を起こして失踪。

柴倉しばくら宝隆ほうりゅう
人宝教二代目教主。大量死事件の後、教団を再興した。

柴倉しばくら蓮花れんげ
宝隆の娘。人宝教三代目教主の最有力候補。

神波こうなみ圭伍けいご
人宝教の若き幹部。那々木を敵視している。

天月あまつき
ベールで顔を隠した占い師。人宝教外部顧問。

作品紹介



書 名:化身の残夢 那々木悠志郎、最後の事件
著 者:阿泉 来堂
発売日:2025年08月25日

那々木悠志郎シリーズ最終巻。ホラー作家那々木と人宝教の因縁に幕が下りる
怪異譚蒐集家であり孤高のホラー作家・那々木悠志郎は、因縁深き人宝教に招かれ、そこで発生した複数の怪現象の調査を依頼される。調査を進めるうち、それらの怪異は那々木が過去に遭遇したものであることが明らかになる。『存在するはずのない怪異』が現れ、意識を失った信者が本部の地下へと消える。果たしてこれは、教団が那々木に仕掛けた罠なのか。
調査の見返りに『最も大切に思っている人物との再会』を提示された那々木は、それが十五年前に命を落としたはずの叔父、那々木登志也のことであり、彼を取り込んだおぞましい怪異が広大な施設のどこかに隠されていると確信を抱く。
一方、妻子を教団に奪われた元記者の春岡は、信者に成りすまして教団本部に潜入。そこで彼が出会ったのは、教団に強い復讐心を抱く覆面の男だった。
那々木悠志郎が投じる教団との戦いがついに決着する。シリーズ最終巻!

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