menu
menu

特集

デビュー作を超える恐怖と驚き 最恐のミステリ&ホラー『ぬばたまの黒女』刊行記念 神永学×阿泉来堂対談

構成・文=朝宮運河

二転三転するストーリーとラストのどんでん返しで衝撃を与えた、第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作『ナキメサマ』でデビューを飾った阿泉来堂さん。待望の第2作『ぬばたまの黒女』の刊行を記念して、阿泉さんもファンだという神永学さんとの対談が実現!

『ぬばたまの黒女』刊行記念 神永学×阿泉来堂対談


神永:阿泉先生のことはデビュー作の『ナキメサマ』を読んで以来気になっていました。すごい新人が出てきたぞ、と思って。この対談も僕の方から無理を言ってセッティングしてもらったんですよ。


阿泉:憧れの神永先生にそう言っていただけるとは……、夢みたいです。


神永:あまり堅くならずにリラックスしてやりましょう。まずは『ナメキサマ』、むちゃくちゃ面白かったです。横溝正史ミステリ&ホラー大賞の〈読者賞〉を受賞しただけあって、横溝正史の「金田一耕助」シリーズを思わせるようなどろどろした雰囲気がたまりませんよね。日本のムラ社会の怖さを描いたようなストーリーにページをめくる手が止まりませんでした。しかも中盤からラブストーリーの要素も強くなってきて、さらに後半はハリウッドのモンスターパニックのような怒濤の展開。それでいてラストは本格ミステリで落としている。この二転三転する構成が、デビュー作とは思えないくらいお見事なんですよ。


阿泉:ありがとうございます。自分では途中でテイストを変えることは、そこまで意識していませんでした。ゴールを目指して書いていったら、結果的にこの形になったという感じで。


神永:自然発生的なんですね。ラストに大どんでん返しがありますが、ここはあらかじめ考えていました?


阿泉:あのオチは第一稿では存在していなかったんです。それだと横溝正史ミステリ&ホラー大賞を狙うには弱い気がして、フックになるような要素を後からつけ加えました。


神永:なるほど。そこがずっと気になっていたんです。自分もよく大きなオチを付けることがあるので、阿泉先生はどうやって思いついたのかなと。では後からかなり推敲したわけですね。


阿泉:そうですね。最初から書き直すくらいの気持ちで推敲しました。手間はかかりましたが、〈読者賞〉をいただくことができたので、結果としてはよかったなと思います。


神永:あのどんでん返しがあったからこそ、『ナキメサマ』は人に薦めたくなる作品になった。僕がこの作品を知ったのも、ある書店員さんが激推ししていたからなんです。ちなみに執筆期間はどのくらいですか。


阿泉:『ナキメサマ』は三か月くらいです。


神永:それは早い。会社員をしながらですよね。


阿泉:自分では遅い方かなと思っていて。


神永:いやいや、早いです。お仕事しながら三か月に1本書かれたらたまったもんじゃないというプロがたくさんいますよ(笑)。僕は『心霊探偵八雲』でデビューしてから2巻を出すまで五か月かかっています。早いと言われますが専業作家でしたから。阿泉先生は没頭して一気に書き上げるタイプ?


阿泉:まったく集中力が続かなくて、一行書いては余計なことを考えて、二行書いてはスマホを触ってという感じですね(笑)。


神永:それは意外です。というのも阿泉先生のホラーは思いっきりアクセルを踏みこんでいるような、いい意味での勢いがあるんですよ。


ぬばたまの黒女
著者 阿泉 来堂
定価: 748円(本体680円+税)


阿泉:『ナキメサマ』は私が初めて書いたホラー小説です。それまではずっとミステリを書いていて、うまく形にすることができず悩んでいたんですが、『ナキメサマ』の時はまったく悩むことなく、ラストまで書ききることができた。それが作品の勢いに繋がったのだと思います。


神永:阿泉先生の中で何かがカチッとはまったんでしょうね。


阿泉:やりたいのはこれだな、っていう感覚はありました。


神永:それまで書いてきた作品とは何が違ったと思いますか?


阿泉:ミステリに比べて、ホラーは圧倒的に自由だったんですね。幽霊が出ようが、祟りが起きようが許される。何でもありの感じが、自分に合っているような気がします。


神永:作家にとって何かがはまる瞬間ってあるんですよね。僕も『心霊探偵八雲』で初めてミステリを書いたんですが、直感的にこれだっていう気がしたんです。阿泉先生にとっては怪異がひとつのトリガーだった。もともとホラー系はお好きなんですよね。


阿泉:大好きです。『ナキメサマ』を書く前に、自分の好きなものをあらためてリストアップしてみたんです。すると映画でも小説でも、好きなものの多くがホラーだった。ミステリも読んでいましたがどこか〝お勉強〟という気持ちがあって、心から書きたい世界ではなかったんです。それで自分の好きな世界を突きつめようと思ったんです。


神永:インタビューで好きな映画に『ゼイラム』(雨宮慶太監督、1991年)をあげていましたよね。あれを読んですごく腑に落ちたんです。阿泉先生の作品に出てくるクリーチャーはグロテスクでおぞましいけど、どこか〝美しさ〟があるんですよ。それは『ゼイラム』の世界観にも共通しているなと。


阿泉:さすが、見抜かれていますね(笑)。私にとってホラーは人間よりクリーチャーが主役という気持ちがあるんです。登場人物の顔はほとんど思い浮かべないんですが、登場させるクリーチャーの外見はくり返し想像しています。


神永:そして新作の『ぬばたまの黒女』です。実はプロローグを読んで「あれっ」と思ったんです。今回は大人しめの作風にシフトチェンジしたのかなと。すぐにそんなことはないと判明しましたけどね。


阿泉:はい。相変わらず不気味なクリーチャーが出てきて、人が大勢死にます(笑)。


神永:容赦ないなと思ったのは、登場人物が死ぬタイミングが読めないんですよ。しかも重要なキャラクターでも容赦なく殺されていくじゃないですか。それが「ひょっとして主人公も助からないんじゃないか」という緊迫感を生んでいます。実は今日お会いするまで、阿泉先生はすごく怖い人なんじゃないかと心配していて……。


阿泉:(笑)。


神永:優しそうな方で安心しました。


阿泉:登場人物が襲われるシーンについては、容赦なくやりたいとは思っています。私は北海道在住ですが、ヒグマって人間に対して容赦ないんですよ。食料としか思っていないので、泣こうがわめこうが見逃してもらえない。この圧倒的な恐怖こそがホラーだと思います。


神永:それとこういう言い方をすると生意気ですけど、格段に小説がうまくなっていますよね。登場人物の心理描写が細やかで、グロテスクな物語に奥行きを与えているんですよ。文体を変えましたか?


阿泉:前作よりも文章表現に気を遣うようになりました。編集さんに文章の甘いところを指摘していただいて、プロの文章になるように一緒に練りあげていったという感じです。


神永:『ぬばたまの黒女』はノスタルジーの要素も強いですよね。主人公たちが高校時代に抱えていたものが、物語を引っ張っていく。青春時代をダイレクトに描くんじゃなくて、大人の回想にしたところが阿泉先生のカラーなんでしょうね。ところでこれは作家としての興味なんですが、構成は詳しく作りますか?


阿泉:作ります。隅々までプロットができあがっていないと、書き出せないタイプなんですよ。今回も担当さんにプロットを提出したら、「長すぎます」と言われてしまって。


神永:長すぎるってどのくらいですか。


阿泉:20ページはあったと思います。


神永:ちょっとした短編並みですね。うーん、読んでみたい。他の同業者がどうやって小説を書いているのか、最近すごく興味があるんです。


阿泉:読みにくいですが今度お見せします。ところで神永先生はインプットの時間をどうやって作っておられますか? 最近は仕事と執筆で時間を取られてしまい、デビュー前のようにインプットができないのが悩みです。


神永:インプットと思わない方がいいですよ。長く活躍されている作家さんほど、日々を楽しむことを知っています。小説でも映画でもゲームでも好きなものをたくさん見つけて、遊び尽くすことが大切。それが結果的に、作品にもいいフィードバックを与えるんです。僕なんて最近、遊び倒していますから(笑)。


阿泉:ありがとうございます。デビュー以降、つい焦ってしまうので。


神永:作家はみんな同じ悩みを抱えていると思いますよ。今後の方向性は決まっているんですか。


阿泉:那々木悠志郎というホラー作家が登場するシリーズをしばらく書きたいと思っています。それ以外のホラーにもチャレンジしたいですけど、まずは那々木シリーズの世界観を拡げていきたいですね。


神永:那々木はいいキャラクターですよね。それとは別にまったく怪異が出てこないミステリも読んでみたいし、ガチのホラーも読んでみたい。色んなものが書ける方だと思います。


阿泉:純粋なミステリは難しいかもしれません。やっぱりホラー要素があった方が書きやすいので。


神永:それが阿泉ワールドの核なんですね。


阿泉:ところで神永先生は先日ブログで「ゴリゴリのホラーを書きたい」と発言されていましたよね。すごく気になります。


神永:「心霊探偵八雲」にもホラー要素はありますが、基本的にはミステリです。もっと本気で読者を怖がらせにかかる作品を書いてみたい。ビジュアル表現に比べて、文章で怖がらせるのって難しいですよね。僕は阿泉先生みたいな血みどろのスプラッターは書けないと思うので、もっと人間の怖さを突きつめたようなもの、貴志祐介先生の『黒い家』系のホラーが書ければ面白いかな、と思います。難しいでしょうけどね。


阿泉:絶対面白いものになりますね。早く読んでみたいです。


神永:僕も阿泉先生の新作が待ち遠しい。次はどんなクリーチャーが登場するのか、どんなどんでん返しでびっくりさせてくれるのか、今からわくわくしています。


阿泉:ありがとうございます。ずっとプロ作家になることを夢見ていたので、与えられたチャンスを生かせるように全力でがんばりたいです。


神永:期待が大きくて大変でしょうけど、楽しんで小説を書いてください。一緒に小説界を盛りあげていきましょう!


阿泉:はい、がんばります。


神永学さん(左)と阿泉来堂さん(右)。対談はリモートで行われた。


『ぬばたまの黒女』試し読み



『ナキメサマ』が大好評の大型新人、阿泉来堂さんの民俗学ホラー&ミステリー! 驚愕のラスト再び! 『ぬばたまの黒女』試し読み #1
https://kadobun.jp/trial/nubatamanokurome/1azymvzmx4lc.html

こちらの記事もおすすめ!



書店員を驚愕させた鮮烈デビューから半年! 罪と許しのホラー『ぬばたまの黒女』阿泉来堂インタビュー
https://kadobun.jp/serialstory/chpress/c1vs62pwk54w.html

『ぬばたまの黒女』作品情報



ぬばたまの黒女
著者 阿泉 来堂
定価: 748円(本体680円+税)

『ナキメサマ』の著者が送る、ホラーエンタメド直球のどんでん返し第2弾!
神出鬼没のホラー作家にして怪異譚蒐集家・那々木悠志郎再び登場!
生まれ故郷の村が近隣の町に吸収合併されると知り、十二年ぶりに道東地方の寒村、皆方村を訪れた井邑陽介。
妊娠中で情緒不安定の妻から逃げるように里帰りした陽介は、かつての同窓生から、村の精神的シンボルだった神社一族が火事で焼失し、憧れだった少女が亡くなっていたことを告げられる。
さらに焼け跡のそばに建立された新たな神社では全身の骨が折られた死体が発見されるという、壮絶な殺人事件が起こっていた――。深夜、陽介と友人たちは、得体のしれない亡霊が村内を徘徊する光景を目撃し、そして事件は起こった――。
果たして村では何が行われているのか。異端のホラー作家那々木が挑む、罪と償いの物語。『ナキメサマ』の著者が送る、ホラーエンタメド直球のどんでん返しホラー第2弾!
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000568/
amazonページはこちら


神永学(かみなが・まなぶ)

1974年山梨県生まれ。2004年『心霊探偵八雲 赤い瞳は知っている』で、プロデビュー。同作から始まる「心霊探偵八雲」シリーズが、読者の圧倒的な支持を集める。他著作に「怪盗探偵山猫」「確率捜査官 御子柴岳人」「浮雲心霊奇譚」などのシリーズ作品、『コンダクター』『ガラスの城壁』『悪魔を殺した男』などがある。

阿泉来堂(あずみ・らいどう)

『ナキメサマ』(受賞時タイトル「くじりなきめ」)で第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞<読者賞>受賞。北海道在住。会社員。

紹介した書籍

関連書籍

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2021年7月号

6月25日 発売

怪と幽

最新号
Vol.007

4月27日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

テスカトリポカ

著者 佐藤究

2

遠巷説百物語

著者 京極夏彦

3

ラストパス 引退を決断してからの5年間の記録

著者 中村憲剛

4

黒牢城

著者 米澤穂信

5

仮面

著者 伊岡瞬

6

インドラネット

著者 桐野夏生

2021年7月11日 - 7月18日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

アクセスランキング

TOP