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試し読み

「嘘が下手だな」青年の赤い左眼には、見えてはいけないものが見える?/神永学『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』試し読み②

死者の魂を見ることができる名探偵・斉藤八雲が、連続殺人事件の謎に挑む!
心霊探偵八雲シリーズとして、アニメ化もされている超人気作の外伝『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』 が3月24日に発売されます。
外伝は一話完結の絶品ミステリ。本編を読んだことがない方にも楽しんでいただけます。まずは、冒頭の40ページを発売に先駆けてお届け!

>>前話を読む

 ◆ ◆ ◆

 やり取りからして、今日が初対面という感じではなかった。もっと前から、お互いに認知しているように晴香には感じられた。
「同級生だ。小学校の。確か、六年生のときに同じクラスだった」
「知っている人なら、なおさら助けてあげた方がいいんじゃないの?」
「同級生だったというだけで、彼女とは友だちでも何でもない。何かしてやる義理はないはずだ」
 相変わらず、冷たい物言いだ。
「でも……」
「これまで、全くの没交渉だったんだ。同じクラスになったのは一回だけ。ろくに会話を交わしたこともない。他人同然だ。クラスメイトというだけで、いちいち相談を受けていたらキリがない」
 八雲が突っぱねるように言った。
 確かに、一口にクラスメイトと言っても、距離感は色々だ。だが、そうなると逆に引っかかる。
「どうして急に?」
 晴香には、それが解せなかった。没交渉だった人が、いきなり訪ねて来て、助けを求めるというのは不自然だ。
 それに、彼女は「斉藤君なら、きっと助けてくれると信じてます」と言っていた。あれは、八雲の人となりを知っているからこその言葉な気がする。
 八雲は、何かを隠しているのかもしれない。
 例えば、本当は、あの女性と八雲は以前、交際していた──とか。
 別れたことで没交渉になったが、やっぱり八雲のことが忘れられずに、復縁を迫る為にここに足を運んだという筋書きもあり得る。
 さっきの女性の顔が頭に浮かぶ。とても、可愛らしかったし、八雲とお似合いな気もする。
「言っておくが、君が考えているような下世話なことではない」
 八雲がぴしゃりと言う。
 まるで、晴香の頭の中をのぞき込んでいたかのようなかんぺきな指摘だ。
「べ、別に、下世話なことなんて考えてないよ」
 慌てて否定してみたものの、取ってつけたような言い回しになってしまった。
「噓が下手だな」
 八雲の流し目が痛い。
「噓じゃないよ。そ、それより、没交渉だった同級生が助けて欲しいことって何なの?」
 晴香が訊ねると、八雲は「はぁー」と声に出しながら、盛大にため息を吐いた。
「まあ、ひと言で言うなら、君と同類だ」
「同類って?」
「心霊がらみのトラブル」
「ああ」
 思わず、納得の声を上げてしまったが、慌てて首を振った。
 今は、黒い色のコンタクトレンズで隠しているが、八雲の左眼は生まれつき赤い。
 ただ赤いだけではなく、死者の魂──つまり幽霊を見ることができるという、特異な体質を持っている。
 これまで、それをかして様々な事件を解決してきた。
 晴香が、八雲と出会ったのも、ある心霊がらみの事件を持ち込んだことがきっかけだった。
 確かに最初の頃は、ことあるごとに八雲のもとに心霊がらみのトラブルを持ち込んでいて、トラブルメーカーという不名誉な呼称もちようだいした。
 だが、最近は、めっきりその回数が減っている。今日だって、ひまつぶしに来ただけだ。まあ、威張って言うことではないが──。
「でも、どうして八雲君のところにトラブルを持ってきたの?」
 晴香が訊ねると、八雲がうんざりだという風に頭を抱えた。
さんだ」
いつしんさん?」
「そうだ。叔父さんが、余計なことをしやべったせいで、ぼくのところに足を運んで来たというわけだ」
 八雲が、いらたしげに髪をガリガリといた。
 なるほど──と納得する。
 八雲の叔父である一心は、寺の住職だ。ろくさつのように、穏やかな空気をまとった人物で、会っているだけでやされる。
 面倒見がよく、困っている人を放っておけない一心のことだ。彼女の話を耳にして、八雲の許に相談に行くようアドバイスしている姿が目に浮かぶ。
「で、どんなトラブルなの?」
 晴香は、興味津々で訊ねた。
 事件そのものに興味があるのは間違いないが、同時に八雲の小学生時代に対しても関心がある。
 昔の八雲が、どんなだったかを知るいい機会かもしれない。
「さっきも言っただろ。そうやって、何にでも首を突っ込むから、トラブルメーカーになるんだ」
 八雲がうんざりだ──という風に言う。
「別に話を聞くくらいいいでしょ。話せない特別な事情があるなら、仕方ないけど……」
 晴香は意味深長に言うと、向かいの椅子に座りつつ、上目遣いに八雲の様子をうかがった。
 八雲は、苦い顔をしながら、ガリガリと寝グセだらけの髪を搔き回す。
 そのまま、黙っているかと思ったが、意外にもゆっくりと話を始めた──。

    2

あま使つかふゆという人物の名前を聞いたことがあるか?」
 八雲が、眉間みけんしわを寄せながら口にした。
「知らない。もしかして、さっきの人の名前?」
「違う。彼女は、だいだ」
「その天使真冬というのは、何者なの?」
「天使真冬というのは、インターネット上で、預言者を名乗っている人物のことだ。これまで、幾度となく予言を的中させているらしい」
「よ、預言者?」
 思わず声が裏返った。
 預言者という名称がもつ不穏な響きもそうだが、何より、それが八雲の口から発せられたことが驚きだった。
「そうだ。預言者というワードと、名前で検索すればヒットする」
 八雲に言われて、晴香は早速、スマホを使って検索をかけた。
 すぐに、〈預言者 天使真冬〉と名乗る人物のホームページを見つけることができた。
 さわやかな青がベースの簡素なホームページで、プロフィールの他に、ブログ形式で予言がつづられているようだ。
 一番最近の記事に目を通してみる。
 そこに書かれていたのは、次のような一文だった。

 七の月の最後の日──。
 緑に囲まれた、黒き水。赤い三角の下、過去の罪が暴かれる。
 悔い改めなければ、三つの魂が地獄に落ちる。

「何これ?」
 思わず声が出る。
「それが予言だ」
 八雲が、だるげに返してくる。
 ──これが?
 改めて目を通してみる。何となく、それっぽく書かれているが、具体性に乏しく、何を言おうとしているのか、さっぱり分からない。
「メンヘラな感じがする」
 晴香が口にすると、八雲があごを引いてうなずいた。
「同感だ」
「本当に、この人の予言は当たるの?」
「一つ前の記事を見てみろ」
 八雲に促されて、改めてスマホに目を向ける。
 記事の一覧から、一つ前の項目に、的中という文字が確認できた。タップしてその記事を開いてみる。
 そこには、次のような一文が記されていた。

 十字架の中心。怠惰の末に暴走した鉄塊が、二つの罪なき魂を奪う──

 これも予言なのだろう。その下にあるニュース記事が貼り付けられていた。市街地で車が暴走し、十字路で歩行者二人がねられ、命を落とした痛ましい事故の記事だった。

(第3回へつづく)


角川文庫『心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』著者:神永学 イラスト:鈴木康士


神永学心霊探偵八雲 ANOTHER FILES 沈黙の予言』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321910000655/


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