角川文庫キャラ文通信
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デビュー作『さよなら、ビー玉父さん』が「泣ける!」と話題になり、多くの読者から圧倒的な支持を受ける作家・阿月まひるさん。注目の2作目は共感度100%の恋愛小説です。作品に込めた思いをうかがいました!
――本作が生まれたきっかけを教えてください。
阿月:次回作で悩んでいたところ、『さよなら、ビー玉父さん』を見つけてくださった初代の担当さんに、「女子高生です! タイムリープです! 恋愛ものです!」という鶴の一声をいただいたんです。自分じゃ絶対に思い付かない設定だったと思います。
その女子高生になる海帆を、『ビー玉父さん』の登場キャラクターのキャロンみたいなゆるふわギャルではなく、鬱屈を抱え、もっと行き場のない女性にしたのは、気づいたらそうなっていたのですが、個人的にはなかなかおもしろい女性になってくれたと感じています。
――この物語の読みどころはどこですか?
阿月:主人公・海帆の成長過程でしょうか。25歳なんていう、大人とも、小童ともとれる年齢の女性が、見てこなかったものを見る機会を得て、今からでもいいからと、どうにかこうにか自身を変えようと足掻きます。そこに、嫌いになったものをもう一度好きになるためには自分ひとりの力だけじゃ難しいよな、という思いも込めました。
それから作中、龍禅寺というキーキャラクターがいるのですが、この名前を持つ少年を、ようやく世に出せたなという感じです。はじめて賞に応募したときからもういたのですが、あえなく没になって久しかったので、もちろん自分の力不足のせいなんですけども長かったなあと。彼もよくがんばってくれたのでどうか見てやってください。
――龍禅寺はこの作品の中でも異彩を放っていますよね。このキャラクターを作ったきっかけは?
阿月:序盤の海帆があまりにもダウナーなので、ひとりくらいアッパーを出したかったんです。
彼は、構想の初期からいました。というか、本当に初期の初期は、藤城先生の性格が龍禅寺みたいでした。クラスの和を保つためにあえて道化を演じるみたいな。いや、龍禅寺は基本的に自分のやりたいことをやりたいようにやっているだけの少年だと思いますが。龍禅寺みたいな、狂言回しとも違う、場どころか作品全体を盛り上げてくれるキャラクターは書いていて楽しいです。
――特に好きなシーンはどこですか?
阿月:公園の藤棚の下での、藤城先生が過去を吐露するシーンです。誰にでも背景や歴史があるよなと思いながら書いていました。他者評価と自己評価が異なっているひとの話ってなんだか叙述トリックみたいだなあとも思いました。
書きつつ、自分より大人に見えるひとの、やるせないほどの悲しみを垣間見たとき、海帆はああいう行動をとりましたけど、一体なにができるんだろうと考えさせられました。
――海帆がとった行動は、読んでからのお楽しみですね。
阿月:そうですね。彼女なりに芽生えたものを大切にしようとして、海帆は藤城先生とのシーンからたくさん、たくさんがんばります。読者さんによっては読後感が分かれるかもしれません。一連の海帆の行動は、正解なのか不正解なのか、読んでくださる方によって感じ方が違うのではないかと。
ただ、タイムリープを終えた彼女は書いていて、本当に楽しかったです。龍禅寺以上に、楽しくなってくれました。それが嬉しいです。
――今後書いていきたいものを教えてください。
阿月:自分のことしか考えない悪女か万物を愛する聖女か、その両方か。そんな女性ふたり以上がどういう形でかバチバチにバトルする話とか書きたいです。
悪役令嬢ものの作品を勉強のためにいくつか読んでるんですが、男性の寵愛を勝ち取る過程よりもライバルとなる女性に負けねえ!と力を蓄え、磨き、ぶつけるシーンに惹かれます。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
阿月:書いている途中、本当にどう着地するのかわからない話でした。それでも主人公・海帆、キーマンの少年・龍禅寺が切り開いて掴んだ結末になったと思っています。見守ってくだされば幸いです。
ありがとうございました。
▼阿月まひる『たとえ好きなものが見つからなくても』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322003000409/