レビュー
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カクヨム文芸部「極道の者たち」4選
海外でマフィア映画やギャング映画が人気なように、極道映画は昭和の邦画の花形でした。暴力や欲望といった人間の負の面を描いている一方で、テーマの根底には現代人が忘れかけている義理や人情が隠れている。決して切り離せない表裏一体の人間の本質を描いているように思います。さて今回はそんな極道特集です。倫理的にこのテーマはどうなのかと疑問に思ったそこのアナタ、それは実際に作品を読んでみてから判断してください。決して反社会行為を容認・推奨するものではありませんが、現代に適応した最新の極道作品はまったく新しいエンタメに生まれ変わっています。他の作品では得られない熱い感動やユーモア、新しい発見があるはずです。
(本記事は「カクヨム」2021年12月10日に掲載された内容を転載したものです)
評者 愛咲 優詩
怪人と老人ヤクザ! 銀色の任侠怪人が一切合切を斬り伏せる
『怪人斬侠伝 最強ヤクザに飼われた俺の末路』
じょにおじ
https://kakuyomu.jp/works/16816452218458480134
怪人。それは人外の力を持ち、人間社会を脅かす恐怖の象徴。怪人と立ち向かえるのは、魔法の力を行使する魔法少女たちだけ。しかし若き怪人シルバーは、白髪頭の老ヤクザ・瀧桜閣に毎回挑んではボコボコに負けていた……。これは弱小怪人シルバーがヤクザの元で修行を積み、最強を目指す物語。
主人公のシルバーは生まれて三年足らずの無鉄砲なチンピラ怪人。その彼が毎回返り討ちにあう瀧桜閣は、無愛想で偏屈だが、シルバーをはじめ居場所のない怪人を組員として雇う情に厚い親分肌でもある。
はみ出し者が集まる千仁町を舞台にシルバーは怪人や極道、そして魔法少女と命がけのケンカを繰り広げていくのですが、戦いを通じて描かれる強者たちの覚悟や決意の重みに打ちのめされます。
なにもかもが半端者のシルバーが、瀧桜閣の極道としての生き様から怪人として、人間としての強さを掴みとる。
怪人とヤクザの師弟の交流に言葉にできない熱い思いが胸にこみ上げてきます。
女子高生全員ヤクザ! 少女たちのこくどう部活動記録
『ヒロシマ女子高生任侠史 こくどうっ!』
高柳 総一郎
https://kakuyomu.jp/works/16816452218709045664
極道都市ヒロシマ。そこは女子高生たちが極道となりシノギを削る「こくどう」の街だった。東京から転校した孤独な少女・上島安奈は、少年院から帰ってきたばかりの日輪高子と出会う。高子は、現在のヒロシマを支配する天神会会長の白島に傷をつけた祇園会きっての武闘派だった。高子の出所を機に、ヒロシマを揺るがす騒乱の幕が開ける。
女子高生が部活動として極道をやるという世界観が個性的で、お互いのメンツをかけて切った張ったの修羅場を演じる女子高生たちの姿が衝撃的です。
日輪高子への復讐のために祇園会を生かさず殺さず延命させてきた白島、表向きは天神会に従いながらも祇園会復活のために虎視眈々と機を窺う高子、一手でもしくじればたちまち奈落へ真っ逆さま、クレバーな女子高生たちの駆け引きが緊張感を煽ります。
さらにミヤジマ市を仕切る道龍会がヒロシマの利権を狙って進出し、三つ巴の様相を呈して、その抗争に安奈も巻き込まれていく……。
うら若き乙女たちの命を賭けた血で血を洗う青春の日々。美しく咲き誇り、儚く散る桜のような可憐で苛烈な生き様に魅せられます。
違法営業を暴いてみた! 仁義の道行く漢たちが悪を成敗
『組チューバー『仁義』チャンネル登録お願いします』
工藤千尋(元気はあるか。自信はあるか)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054934098313
薬もオレオレ詐欺もやらない。昔気質の義理と人情で地元民に愛される暴力団『肉球会』が、新しいシノギとして目星をつけたのは「ユーチューバー」だった! 底辺ユーチューバーの飯塚は、極道でありながら真っ当に生きる熱き男たちの心意気に打たれ、彼らのチャンネル『仁義』の運営に関わることに!
ヤクザがユーチューバーになるという時代性を取り入れた設定がキャッチーで、カタギの人々を守るために身体を張る『肉球会』の任侠魂が熱かった。
チャンネルを立ち上げた飯塚が、肉球会の協力のもとカメラ片手に繁華街に蔓延るぼったくりバーや強制デリヘルなどの違法営業を暴いて回る様が痛快です。
弱者を食い物にする違法店の大元を辿っていくうちに裏で手引する半グレ組織『模索模索』の存在や、その背後に敵対暴力団『蜜気魔薄組』の影がチラつき始め、ユーチューブ活動が思わぬ壮大な抗争へと発展していくストーリーがハラハラさせます。
極道でしか解決できない問題に極道が立ち上がる。こんな動画は他では絶対に見られない。是非チャンネル登録と高評価お願いします!
クッキー道を極めます! 元極道とJK娘の人生再建物語
『ムショ帰りの極道、クッキー屋さんはじめます』
小林みつる
https://kakuyomu.jp/works/16816700427261095144
とある事件の責任をかぶり服役した極道者の五月雨桔梗。しかし刑務所から出たら組が解散していた! 日雇い仕事で食いつないでいた桔梗の元に、ある日、彼の娘を名乗る女子高生・和蘭苺が訪れる。娘から社会復帰のためにクッキー屋を開けと命令された桔梗の過酷なクッキー作りの日々が始まる。
強面な元極道が可愛らしいクッキー屋さんを目指すというミスマッチと、おっさんが女子高生の娘に尻に敷かれる展開が面白いです。
『大衆はストーリーを求めている』という苺のビジネス戦略のもと、桔梗は元極道という経歴を隠さず、SNSや動画サイトでクッキー作りを配信し始める。
最初は分量を間違えたり、焦がしてしまったりと失敗続きだったものの、ほぼ毎日のようにクッキー作りに打ち込む桔梗の姿に次第にファンも増えて、クッキーが上手く作れるようになっていく達成感と、夢が現実に近づいていくワクワク感で盛り上がります。
好調に開業準備が進む一方で浮かび上がるひとつの謎、「和蘭苺は本当に自分の娘なのか?」。やがて桔梗は自分の過去と向き合う。
どんな人間でもやりなおせる。元極道が歩むクッキー道、あなたも味わってみませんか?