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レビュー

【レビュアー:谷原章介】そして真山さんは冴木になる 『トリガー』

 真山さんとの出会いは、「マグマ」という作品でした。日本人にとっては忘れることのできない東日本大震災の後、2012年に映像化された原子力や石油に頼らない再生可能エネルギー「地熱」をテーマにしたドラマでした。撮影中に現場にて対談をさせていただいたのですが、社会問題に限らず幅広い知識をお持ちでまさに博覧強記。その日を境に何度もお食事やお酒の席を共にさせていただきましたが、お芝居への造詣も深く(特に歌舞伎)、何を話しても答えが返ってくるのです。さすが元新聞記者の方は違うなと思いました。

 真山さんといえば『ハゲタカ』を代表とする社会派の作家という印象をお持ちの方も多いと思います。原発輸出をめぐる陰謀を描いた『コラプティオ』、宇宙開発の世界を舞台にした『売国』、東日本大震災後の被災地に寄り添った『海は見えるか』『そして、星の輝く夜がくる』。そのほか『黙示』『オペレーションZ』など作品のテーマは政治・経済に限らず多岐にわたり、あるひとつの世界だけを描くのではなく社会全体を俯瞰する幅広い視点と問題意識、そして挑み続けるバイタリティーは社会派と言われる作家さんの中でも抜きん出ています。

 そんな真山さんが今作で選んだ舞台は日本と韓国。2011年以降に注目される再生可能エネルギーを2006年の時点でテーマにしたマグマの時もそうでしたが、今の緊張感高まる二国間関係をテーマにするとはまさに慧眼。しかも『トリガー』は東アジアを舞台にエンターテインメントの切り口で描いた謀略小説です。このタイトルだけで妄想が膨らみます……。

 物語は「東京オリンピック2020」直前の韓国でソウル中央地方検察庁検事キム・セリョンが、ある事件を追っているところから始まります。
 実は彼女は馬術競技の韓国代表で“韓国の至宝”とも呼ばれる、知性を兼ね備えた一流のアスリート。彼女は手がけている事件のために脅迫をされていましたが、国を代表して東京オリンピックに出なければなりません。そんな彼女の身辺の警護を担当することになったのがSP藤田陽介。彼は国や立場を超えて徐々にセリョンに惹かれていき、彼女を守ることを心に誓います。そして競技当日、トリガーは引かれ彼女は凶弾に倒れることに。はたして誰がセリョンを狙ったのか。背後ではホテルで惨殺された在日米軍女性将校、変死した北朝鮮の潜伏工作員、そして陰で蠢く日米韓の情報機関、これらを1つにつなげる糸はなんなのか。
 その糸を紡いでいくのが元内閣情報調査室長でいまは民間の調査事務所を開設している冴木治郎。かつては“スパイマスター、マジックジロー”と呼ばれた諜報活動のプロ。この治郎がとても魅力的。都内の一等地に事務所を持つ資産家で、政府にも顔がきき合気道の達人でもあります。英国情報部のウィルソンとはシャレたジョークでやりとりする、心技体に知性と金を持つダンディな男…僕はある種男の理想を兼ね備えたこの治郎に、どこか真山さんを重ねてしまうのです。

 欧米を舞台にした謀略小説はどこか乾いていてエンターテインメントとして楽しめますが、今作は湿度を帯びてるように感じるのは、僕らが暮らす東アジアを舞台にしているからなのかもしれません。過去の因縁、それぞれの立場の思惑と正義。現実の世界とリンクし、リアリティを感じながらのめりこんでいってしまいます。はたして現実の「東京オリンピック2020」はどうなるのか。

 最後に問題です。
 今作で僕のお気に入りのセリフはどれなのか当ててみてください。
 ヒントは……まさかこのキャラクターまで救うとは! さらなるヒントは対談記事にも。
 真山さんって、愛を信じてる方だと思うんですよね。どこかロマンティックなんです。


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