終わらぬ宗教戦争へのメッセージ


 さて、本作のテーマになっているのは「宗教と権力」だ。過去のパートでは、大陸から伝来した仏教と朝廷が結びつきを強めることで、元々日本に存在した土着の神々が住む場所を失っていく様が描かれ、未来のパートでは、惑星探査機が捕獲した「火の鳥」を神と崇める教団「光」が地上を支配するディストピアが描かれる。未来の社会では、「光」に帰依しない者たちは地下に潜り「シャドー」としてレジスタンス活動を続けている。
「シャドー」のリーダーは教団の大本殿から「火の鳥」を盗み出し、教祖を失脚させるという計画を立てる……。
 本来、宗教は救世、つまり人々を苦しみから救うために存在するもので、本作に出てくる日本の産土神うぶすながみは、そのような存在として祀られてきた。
 しかし、権力と結びついた宗教は、人々を弾圧して、権力者にさらなる権力を集中させる武器となる。そして、権力を倒そうとする者たちは別の宗教を利用しようとして、そこから宗教戦争が生まれる。
 手塚は、「火の鳥」の言葉としてこう書いている。
宗教とか人の信仰ってみんな人間がつくったもの そしてどれも正しいの ですから正しいものどうしのあらそいは とめようがないでしょ
 作品が描かれた時代、80年には、中東でイラン・イラク戦争が勃発。82年にはイスラエルがレバノンに侵攻。その後も各地で内戦が続いた。原因はユダヤ教とイスラム教の対立であり、イスラム教内の宗派対立だ。中東だけではない。中世ヨーロッパでも、キリスト教の宗派間の対立が大きな戦争を産んできた。
 手塚は、地上を救うという目的を忘れ、殺戮を続ける宗教への疑問を、本作を通して問いただそうと試みたのである。


>>手塚 治虫『火の鳥10 太陽編(上)』

書籍

『火の鳥10 太陽編(上)』

手塚 治虫

定価 950円(本体880円+税)

発売日:2018年10月24日

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