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レビュー

浮き彫りになった“領主の苦悩” ――光成準治著『本能寺前夜 西国をめぐる攻防』に寄せて――

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(評者:堀 新 / 共立女子大学教授)

 本書の著者光成準治氏は、戦国・織豊大名毛利氏研究の第一人者である。毛利氏からみた天下統一過程は、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康といった天下人からみた歴史像とは大きく異なる。どの立場から歴史をみるかでかくも違ってみえるものかと、いつも驚かされる。本書でも毛利氏が家臣団統制に気を配りつつ、九州の大友氏、四国の三好氏などによる毛利氏包囲網と戦ってきた姿を詳細に描写する。そして、これらが連動しつつ西国に広がる合戦絵巻を鮮やかに描き出している。

 歴史は面白い。本書を読んでつくづくそう思う。しかし、過去の出来事をなぞるだけでは無味乾燥である。詳細な史料と事実の列挙を好む読者も一部には存在するが、そんな歴史書は多くの国民からそっぽを向かれている。こうしてデタラメな「トンデモ本」が登場する。「トンデモ本」の中身は妄想に近いが、そこにはストーリーや人間の思いがある。無味乾燥な歴史書がいくら批判しても、「トンデモ本」は後を絶たない。これに対して著者は新出史料や新解釈をもとに過去の出来事を正確に描こうとし、なおかつそこに一つの感情を織り交ぜた。それが“領主の苦悩”である。毛利氏は内外に苦悩を抱えて出陣し、ある時は敵を倒し、またある時は敗れて退いた。毛利氏の苦悩に思いを馳せつつ、拡大する戦線と政治情勢を読み解くのが本書の醍醐味である。

 読者にはまず、「おわりに」から読んでもらいたい。ここに著者の問題意識が明示されている。フランスの哲学者ミシェル・フーコーのマキャヴェッリズムに関する著作によれば、領主(著者は出典の訳語にあわせて「君主」を使用している)と領国の関係は脆弱で、絶えず内外から脅かされている。そのため領主は領国を保護するために権力を行使するという。マキャヴェッリのみた一五〇〇年頃のイタリアと、著者のみる一五〇〇年代後半の戦国日本には、国家統一へ向かう社会という共通点がある。そして権力行使のために戦争自体が目的化していく点は、現代社会にも通じるところがあると著者はいう。

 毛利氏をはじめとする戦国大名、領主たちは英雄ではなく、また領民を戦争に駆り立てる専制君主でもない。彼らは猜疑心が強く、集合離散を繰り返し、常に相手を疑い、利用しようとしてきた。同盟関係にあっても、平気で裏切り、そして帰参もした。そうしなければ、過酷な競争社会を生き抜くことはできなかったからである。こうして内外から煽られていた領主たちは、恐怖と不安からくる苦悩から解放されることはなかった。そして「本能寺」の原因も、光秀の苦悩と無関係ではない。千載一遇のチャンスが、光秀や信長だけでなく多くの領主たち、そして日本の運命を大きく変えたのである。

「本能寺」後、豊臣秀吉が天下を統一し、泰平の世となった。戦国期の領主が抱えていた苦悩はもうない。それは下剋上と一緒に消滅したのである。


書影

光成準治『本能寺前夜 西国をめぐる攻防』(角川選書)


光成準治本能寺前夜 西国をめぐる攻防』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321810000032/


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