取材・文/河内文博(アンチェイン)
2022/9/29『ヘルドッグス』映画公開記念
原作者・深町秋生×監督・原田眞人スペシャルトークイベントレポート
作家や映画監督などのクリエイターをゲストに迎え、作品制作のプロセスにおける創作の裏側や作り手の熱き思いを語るイベント企画「プロフェッショナルトーク」。その第1弾として現在公開中の映画『ヘルドッグス』の原作者・深町秋生と監督・原田眞人の対談イベントが開催された。
原作小説『ヘルドッグス 地獄の犬たち』の作者で、『果てしなき渇き』をはじめ、数々のミステリーやクライムエンタテインメントで読者を魅了し続ける深町氏と、司馬遼太郎原作の『燃えよ剣』で時代劇を新たなレベルに進化させた、原田監督。今回のイベントでは原作と映画の制作秘話や、そのさらなる魅力を発見するクロストークとなった。
深町秋生が映画化に唯一提案したこととは……!?
イベント会場にはその対談をライブで体感したい観客が集まり、配信で見守るファンも多数。ピンクの髪色の深町氏とダンディなスーツ姿の原田監督が登場するやいなや、リアルでの観客が熱い拍手で迎えた。MCから、最初に映画化の話を聞いた際のことを問われた深町氏は、「これまでの経験もあって、浮かれてはいけないと思いました。小説家は平常心を保つのが大事ですから(笑)」と第一報を聞いたリアクションを率直に語った。自身の小説に同様の話がいくつもありながら、企画が立ち消えになることも多かった、と、映像化企画の実現の難しさに言及。しかし、本作では実際に映画化が真実味を帯びていった過程を喜びとともに打ち明けた。
深町:「監督とお会いして、一つだけ提案させてもらったのは男たちのブロマンス要素です。そこを取り上げて頂ければ思い残すことはない、と。あとは最初の台本で撮影場所がフィリピンとなっていて、撮影見学と称して同行したいなと思ってました(笑)。それが最終的には伊豆になっていて……」
原田:「そうですね(笑)。原作で沖縄として描かれるところも忠実に再現したいと思っていましたが。コロナ禍で海外ロケがダメになっちゃってね。でも、僕の地元でもある静岡県に、意外にもああいう島のロケ場所が見つかって。結果として、とても満足してますし、スタッフも集中してやってくれました」
原田監督は、原作のノワール要素に魅せられたと話し、ハイテクでオシャレなヤクザ像を狙い、既存のヤクザ映画とは一線を画す映画を構想したと続ける。制作の過程では、ロケ地話のほか、背景や小道具に至るこだわりなど、意外な内幕を語ってくれた。特に、潜入捜査官という難しい役どころの兼高昭吾役を岡田准一に脳内で当てはめたところから、一気に映像化の構想がまとまったというくだりでは、観客たちも大きくうなずいていた。
原田作品のキャスティングの妙!
一連の原田作品を観賞したという深町氏から、原田監督に様々な質問を投げかける一幕も。とくにキャスティング面では、岡田演じる兼高を潜入捜査させる重要な役を担った阿内将役、酒向芳の話題に。実際には気さくでいい人ながらも、「怖さ」「奇妙さ」といった要素を持ち合わせた役者・酒向を原田監督は絶賛。木村拓哉、二宮和也に一歩も引かない抜群の狂気を、殺人事件の容疑者役として演じて見せた映画『検察側の罪人』にも刺激を受けたという深町氏は、そのトークに興奮気味に聞き入っていた。
次いで深町氏が注目したのは、MIYAVI演じるヤクザのトップ・十朱義孝の側近・熊沢伸雄役で存在感を見せた吉原光夫。映画『美女と野獣』の吹き替えで彼の声を知った原田監督は、やがて吉原がジャン・バルジャンを演じた舞台『レ・ミゼラブル』を観て、大いに感動したという。深町氏も原田監督も『燃えよ剣』に続いて原田作品への出演となった吉原を、その迫力や歌声、本作で見せたチャーミングさなども含め褒めちぎっていた。
そして、格闘技好きの深町氏は、原田監督の代表作の一つである『KAMIKAZE TAXI』に出演したキックボクサーのシーザー武志、さらに本作出演の格闘家・プロレスラーの村上和成について、原田作品の思わぬ配役の妙に言及。互いに独自の着眼点で、キャスティングの裏話が盛り上がる。
深町:「それこそ現役時代の村上さんって、“狂犬”って呼ばれてたので。『マッドドッグ』繋がりだな、と思ってました」
原田:「彼もすごくいい人でしたね。みんなで合唱するシーンも本当に真面目に歌ってました。その流れで発砲するシーンで、深町さんが撮影現場にお越しになって……」
深町:「本当にすごい迫力のアクションでした。いま、この会場で監督直筆の書き込みがある台本や絵コンテを拝見しながら、原田監督作の絵の強度を実感しています」
二人の溢れる映画愛が炸裂!
後半、唯一無二の毒気たっぷりのノワールを描き、「ヘルドッグス」シリーズの完結編『天国の修羅たち』を刊行したばかりの深町氏から意外な言葉が漏れる。それは「映画(の初号試写)を観て、兼高を救いたいと思ったんです」というもの。映画版ならではの『ヘルドッグス』への解釈は、自身の新作への創作意欲を大いに掻き立てたようで、それに原田監督も「映画を観てから、細部が気になって原作を読む、原作を読んでからまた映画を観るというファンがとても多いんです」と応える。そこからは互いの作品が共鳴し合い、創作や観客に影響を与えていることが窺い知れた。
原田監督がリスペクトし、生前に交流があった映画監督、サミュエル・フラーのことも話題に。
映画版の副題がフラーの『House of Bamboo』(=『東京暗黒街・竹の家』)にちなんでいること、そのフラーは、兵士として第二次世界大戦に従軍し、多くの敵を屠ったことなどを深町氏に伝えると驚きの表情。壮絶な記憶をノワール映画などの創作に転化させた「天国のサム(フラー)」を想い、オマージュを込めた一作が『ヘルドッグス』であると原田監督はしみじみと語っていた。
そこからは映画好きな深町氏が、ある場面の2丁拳銃シーンについて、「あれは、『男たちの挽歌』ですか?」と原田監督に問いかけ、見事に当てる一方、原作に込めた『ゴッドファーザー PARTⅡ』の要素を読み取り、映画に活かしたと語る原田監督と、映画愛溢れるトークは止まることがない様子。その後も観客からの事前アンケートによる質問に答えながら、小説執筆や映画撮影の裏側を二人が解説するなど、刺激的なトークの連続となった。
限定アイテムから創作の秘密を感じる
最後は深町氏が現在執筆中の小説のこと、原田監督が今後の制作の抱負や構想中の戦争をめぐる映画のことなども飛び出し、期待に胸が膨らむばかり。あっという間の90分間で、白熱した対談は幕を閉じた。
特典付きチケットを購入した観客には、深町氏の『天国の修羅たち』サイン本や、同作の本物の正ゲラ原稿(全員違うページが配られた)、原田監督の『ヘルドッグス』で使用した脚本を特別複製した冊子や、原田監督による本作絵コンテの特別複製版など、ここでしか入手不可能なファン垂涎の貴重アイテムが手渡され、トークから創作の秘密が明かされるばかりでなく、作り手たちの軌跡を味わえるアイテムにも観客は感無量。今後の「プロフェッショナルトーク」にも期待が高まる一夜となった。
登壇者プロフィール
作家・深町秋生(ふかまち・あきお)
1975年山形県生まれ。2004年『果てしなき渇き』で第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し05年デビュー。同作は14年『渇き。』として映画化、話題となる。著書に『卑怯者の流儀』『探偵は女手ひとつ』など多数。『ヘルドッグス 地獄の犬たち』は、『煉獄の獅子たち』『天国の修羅たち』と続くシリーズ第一作である。
▼「ヘルドッグス」シリーズ特設サイト
https://kadobun.jp/special/fukamachi-akio/helldogs/
映画監督・原田眞人(はらだ・まさと)
1949年静岡県生まれ。1979年『さらば映画の友よ インディアンサマー』で監督デビュー。『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(99)『突入せよ! 「あさま山荘」事件』(2002)『わが母の記』(12)『日本のいちばん長い日』(15)『関ヶ原』(17)『燃えよ剣』(21)など数多くの話題作を手掛ける。『クライマーズ・ハイ』は2008年日本アカデミー賞で10部門、『わが母の記』は2011年モントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリを受賞、2013年日本アカデミー賞12部門で優秀賞を受賞している。
作品情報
『ヘルドッグス』
全国公開中
監督・脚本:原田眞人
出演:岡田准一 坂口健太郎 松岡茉優・MIYAVI・北村一輝 大竹しのぶ
原作:深町秋生「ヘルドッグス 地獄の犬たち」(角川文庫/KADOKAWA刊)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト www.helldogs.jp
©︎2022「ヘルドッグス」製作委員会