首都圏の大学読書サークルの連絡会、「リーダース・ネットワーク」。同会からKADOKAWAに職場見学の打診がありました。おりしもコロナ禍、リモートで行われた見学会には作家・君嶋彼方もサプライズ登場。事前に課題図書『夜がうたた寝してる間に』を読み込んだ大学生との間で、作家本人もまじえた読書会が繰り広げられました。
新人作家・君嶋彼方×大学生 白熱読書イベントレポート
君嶋:今年の8月に『夜がうたた寝してる間に』という本を出させていただきました。作家としては2年目の新人ですが、本日はよろしくお願いします。
――プロットを決めずに書かれると編集者さんからのコメントがありました。展開に詰まったところはありますか?
君嶋:今回、実は結構大改稿しています。四人の視点人物で書いた原稿を、視点を一人に絞って書き直す、ということをしました。展開というより、大変だったポイントはそこです。ただ、ラストシーンは頭の中にあったので、最終的にそこを目指すことが書く上での力になったかな、とは思います。
――そのラストシーンについて、続きがとても気になります。あのシーンで終わらせたことには、何か意図があったのでしょうか。
君嶋:ラストシーンの続きを書こうかとも迷ったのですが、やはりこの後は読者の想像にゆだねたい、という思いがありました。
担当編集者:デビュー作『君の顔では泣けない』でもそうでしたが、君嶋さんの作品には「書きすぎないことで読者に想像させる魅力」があると思います。今回、読書メーターで「著者が選んだ最後のセリフを発表!」(https://onl.bz/6MNJAf5)というキャンペーンも行っていますので、ぜひご覧ください。
――新人作家の方だと、担当編集者から強く意見を言われるようなことはあるのでしょうか。
君嶋:横に当の編集者がいるのですが(笑)、私も初めて編集者とお仕事させていただいてますが、書いていて悩むところがあれば、どんどん編集者に投げてしまいます。的確な意見をくださるだろうと信頼しているので。あと、SNSの使い方は気を付けて、とご指導いただいてます(笑)。
――影響を受けた作品があれば教えてください。
君嶋:山本文緒さんの『ブルーもしくはブルー』(角川文庫)にはすごく感銘を受けました。こんな書き方があったんだと驚き、山本文緒さん作品にハマりました。そこから作家を志すようになったので、影響を受けた作品、と聞かれるとこの一冊を挙げることが多いです。
――書くときにどれくらい、テーマ性を意識されていますか。
君嶋:今回の『夜がうたた寝してる間に』を読んでいただくと、マイノリティというテーマを意識された方も多いかなと思うのですが、あくまで「超能力の話を書きたい」という気持ちが大きくて。デビュー作『君の顔では泣けない』を読んだ方からも「ジェンダーの問題が描かれている」という感想をいただくことが多かったのですが、自分としては「男女が入れ替わってそのまま15年経っていたら面白いかも」という気持ちで書いています。面白そうな設定で書いて、テーマは後からついてくる、くらいに思っています。
――登場人物の名前が、それぞれのキャラクターに合っていて、読んでいてスルスルと頭に入ってきました。人物名のつけ方で意識されているポイントはありますか。
君嶋:主人公に関しては、夜の話なので相対的に「あさ」という字を入れたいと思って「旭」にしました。他の人物に関しては、あまりにありふれた苗字にしてしまうと「あれ、これ誰だっけ」となってしまう危惧があったので、能力者の「篠宮」「我妻」は、少し変わっていて印象に残りやすい苗字にしようと思いました。下の名前は感覚やリズムで決めています。
――学園×超能力者ということで浅倉秋成さんの『教室が、ひとりになるまで』(角川文庫)を思い浮かべましたが、影響を受けていますか。
君嶋:失礼ながら、『教室が、一人になるまで』を読んでいなかったんです。浅倉さんと対談させていただくにあたって読んでみたら、テーマが似ていてびっくりしました。どちらかというと『うちのクラスの女子がヤバい』(衿沢世衣子、講談社)という漫画に影響を受けました。思春期の女子中高生に変な能力が芽生えるというお話で、能力の日常への溶け込ませ方がものすごくうまくて、素晴らしいと思いました。
――ここを一番読んでほしい、というポイントがあれば教えてください。
君嶋:登場人物に寄り添ってもらいたい、こういう気持ちってあるよね、と思っていただけると嬉しいです。心情描写をわりとこまかく書き込むのも、そういう気持ちの表れかなと思います。
担当編集者:ここは上手くいったな、というシーンはありますか。
君嶋:心を読める篠宮という人物が、心情を吐露するシーンですかね。自分の中では核心をついた文になったかなと思います。
プロフィール
君嶋彼方(きみじま かなた)
1989年生まれ。東京都出身。「水平線は回転する」で2021年、第12回小説 野性時代 新人賞を受賞。同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。
▼君嶋彼方 特設サイトはこちら
https://kadobun.jp/special/kimijima-kanata/
▼『夜がうたた寝してる間に』大ボリューム試し読み
https://kadobun.jp/trial/yorugautataneshiterumani/adra17xps6os.html
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