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特集

映画「楽園」公開記念スペシャルインタビュー 女優・杉咲 花

撮影:小嶋 淑子  取材・文:横谷 和明  ヘアメイク:ナライ ユミ スタイリング:山本 マナ 

吉田修一さんの傑作短編連作『犯罪小説集』(角川文庫)を原作とした映画「楽園」がいよいよ10月18日(金)に公開! 公開を記念して、今回は本作のヒロインを演じた女優・杉咲花さんのインタビューをご紹介します。

日本の土地に根付く“社会問題”に迫る衝撃サスペンス

吉田修一の『犯罪小説集』に収録されている5つの短編のうち、2編を原作とした映画「楽園」。この物語には、少女失踪事件をめぐってさまざまな人物が登場する。杉咲演じる湯川つむぎは、事件の被害者と直前まで会っていた親友として罪悪感を抱えながらその後の人生を過ごしてきた少女。犯人と疑われた中村豪士たけし(綾野剛)と出会い、彼の優しさとお互いの不遇に共感し合って少しずつ心が動き始めるさまを杉咲が真に迫る演技で見せている。この役とどのように向き合って撮影に臨んだのか。



紡を演じるうえでの答えが分からなかった


――映画に出演されるにあたり、瀬々敬久監督とはどんなお話をされたのでしょうか。

杉咲:実はあまりお話ししませんでした。私が演じた紡は、事件の被害者の愛華ちゃんと親友という設定で、豪士に対しても最初は複雑な気持ちを抱えていましたが、交流するうちに、徐々に気持ちが変わってくるんです。ただ、台本を読んで、紡の豪士に対する感情が“LOVE”なのか“LIKE”なのかが分からなくて。これについて瀬々監督に質問したのですが、はっきりこうだとはおっしゃらなかったんです。ただ、その時に監督から、全部のシーンを具体的に話し合うのではなく、不安定でぐらぐらしている状態の方が、紡を演じるうえで良いのかなという印象を受けました。だから、撮影に入る前も入った後も、役作りについて具体的な話はほとんどしなかったです。


――杉咲さん自身としては、どのように役作りを進めていったのでしょうか。

杉咲:台本を読んでも、分かるのに分からなかったというか、理解できそうですごく遠いところにあったというか……。いつもは具体的に解釈することはあまりしないのですが、抽象的なシーンやセリフが多かったので、自分の中で“分かろうとしなきゃ”という思いが強く出てきました。いつも以上に深く考えたのですが、考えれば考えるほど分からなかったです。


 クライマックスシーンで『分からなくたっていい』という紡のセリフがあるのですが、今までは分からないまま現場へ行ったらいけないと考えていたし、分かった状態で現場に行かないと失礼なのではないかという思いがどこかにありました。だけど、分からないままで1回やってみようと決心して、現場に行って初めて試してみたら、自分の想像のつかない気持ちになって……。本当に不思議な体験でした。この作品を通して“分からなくてもダメじゃない”ということを知れたのは、自分の中で大きな財産になりました 。


――初めての瀬々組はいかがでしたか。

杉咲:今までに経験したことのない独特な現場でした。私はこれまで撮影現場でカメラマンさんとお話しする機会が多かったのですが、今回は今までで一番コミュニケーションを取る回数が少なかったです。だから、現場にいる時にどこか寂しさを感じていたんですけど、それが逆に紡を演じるうえで孤独感がより増える方向につながっていて良かったと思います。今までは現場でコミュニケーションを取ることが大事だと考えていましたけど、それがすべてではないのだなと感じました。もしかしたら、それは瀬々監督がこの作品を撮るために集めたスタッフさんだったり、キャストだったのかなと思っています。すごく独特な現場でした。

居心地が良かったT字路のシーン


――大変な撮影だったと思いますが、とくに印象に残っているシーンはありますか。

杉咲:豪士と笛を買いに行った帰り道のT字路で、紡が『どこに行きたいですか?』とたずね、豪士が『誰も知らないところに行きたい』と言うシーンが一番好きなシーンです。台本を読んだ時からいいシーンだなと感じていたのですが、実際は私が考えている以上に大切なシーンになっていました。撮影の時、すごく居心地が良かったんです。豪士のことは全然知らないけれど、私と一緒なんだなと思ったし、孤独じゃないとも思えた瞬間です。初めてふたりがつながり合ったんだなと、T字路に実際に立った時に感じました。


――豪士役の綾野剛さんとは、以前ほかの作品で1シーンだけ共演したことがあるんですよね。

杉咲:そうなんです。とある映画の授賞式でご一緒させていただく機会があった時に、『いつか一緒にできるといいね』とおっしゃっていただいて本当に嬉しかったし、私も同じ思いを持っていました。なので、こんなに早くご一緒できたという嬉しさと、とても難しい役だったこともあり、私で大丈夫かなという不安の両方の気持ちがありました。


――綾野さんと“事実上”の初共演をした感想はいかがでしたか。

杉咲:綾野さんがどんな感じで現場に入られるのかが分からなかったので、ドキドキしながら行きました。私の勝手なイメージで、カメラが回っていない時もずっとその役に入り込んで現場にいらっしゃる方なのかなと想像していたのですが、実際は全然違ったのでびっくりしました。撮影の時は一緒にいられない時間のほうが多かったですけど、綾野さんが豪士だったからこそ、演じていてすぐに彼の顔が浮かびましたし、紡にとっても豪士と一緒にいられた時間が一番安心できる時間でした。



紡にとってのヒーロー


――紡にとって、もうひとりの大切な存在である幼馴染みの野上広呂ひろ(村上虹郎)は、どんな存在なのでしょうか。原作にはない紡の東京での生活において、彼は大きな役割を果たします。

杉咲:広呂って名前ですし、ヒーローだと思いました(笑)。それは虹郎くんとも話したんですけど、紡は広呂に救われたんじゃないかなって。広呂はあっけらかんとしているキャラクターだから、紡にとってはそれがコンプレックスにもなるだろうし、救いにもなるし、憧れでもあったんだと思います。広呂が東京の青果市場まで紡を追ってきてくれたシーンは、演じながらも自分の中で嬉しい気持ちが込み上げてきました。


――広呂とは反対に、紡に辛く当たる愛華の祖父・藤木五郎役の柄本明さんと共演した感想も教えてください。

杉咲:柄本さんとは何度か共演させていただいているのですが、これまでもあまり接点が多い役ではなく、お話しさせていただく機会も数回しかありませんでした。でも、逆にそれが良かったのかもしれないと思いました。撮影中は柄本さんの顔を極力見ないようにしていましたし、現場でもほとんど話さなかったです。今でも紡と五郎さんのシーンを観ると、トラウマが蘇るようで怖くて、『ああ、もう観たくない』と思ってしまうほどです。


――最後に映画のタイトルについても聞かせてください。田中善次郎役の佐藤浩市さんは、彼を演じるうえで『楽園』というタイトルを見て、「すべてが腑に落ちた」とおっしゃっていたそうですが、杉咲さんはどう感じましたか。

杉咲:最初に紡役のお話をいただいた時は、まだタイトルが決まっていない状態だったのですが、初めて『楽園』というタイトルを聞いた時に、好きだと思えたんです。何だか分からないけど、分かるというか。瀬々監督が『人は常に楽園を探している気がする』というコメントを出されていたのを読んで、ああ、たしかにそうかもしれないと感じましたし、紡にとっての楽園を探さないといけないという思いで演じていました。


――ちなみに、杉咲さんにとっての“楽園”を挙げるとしたら何ですか。

杉咲:ご飯がいっぱいあるところ(笑)。たとえば、バイキングですね。この映画で長野ロケをしたのですが、そこではお蕎麦をいっぱい食べました。ご飯を食べてる時間が、自分にとっての楽園です。



杉咲 花
2016年、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞 最優秀助演女優賞/新人俳優賞ほか、数々の賞を受賞。19年は、映画『十二人の死にたい子どもたち』、大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(19年/NHK)などに出演。

衣裳:キャピュレットドレス/¥39,000(DOUBLE MAISON)、靴・アクセサリー/スタイリスト私物

映画情報


「楽園」
10 月 18 日(金)公開
監督・脚本/瀬々敬久
原作/吉田修一
出演/綾野剛、杉咲花、佐藤浩市ほか
rakuen-movie.jp/
©2019「楽園」製作委員会

(あらすじ)
ある初夏の日、地方都市のY字路で少女失踪事件が起こり、事件直前まで少女と一緒にいた親友・紡は心に深い傷を負う。12 年後、同じ場所でふたたび悲劇が起こり、町営住宅に住む豪士が疑われる。一方、近くの集落で愛犬と暮らす男が村八分に遭い、孤立していく。ふたつの事件と当事者たちの運命が交差する衝撃のサスペンス大作。吉田修一の小説『犯罪小説集』(角川文庫)より「青田Y字路」と「万屋善次郎」をもとに映画化。

原作情報



吉田修一『犯罪小説集』(角川文庫)
人はなぜ、罪を犯すのか?
田園に続く一本道が分かれるY字路で、一人の少女が消息を絶った。犯人は不明のまま十年の時が過ぎ、少女の祖父の五郎や直前まで一緒にいた紡は罪悪感を抱えたままだった。だが、当初から疑われていた無職の男・豪士の存在が関係者たちを徐々に狂わせていく……。(「青田Y字路」)
痴情、ギャンブル、過疎の閉鎖空間、豪奢な生活……幸せな生活を願う人々が陥穽に落ちた瞬間の叫びとは? 人間の真実を炙り出す小説集。
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