【カドブンレビュー】
祭火小夜。品行方正で成績は優秀、容姿も綺麗な高校二年生。学校では憧れの的であるものの、家族を殺人事件で失った影響なのか、どこか陰のある雰囲気をまとっている。そして、怪奇現象についてやたらと詳しい。
「まさにヒロイン!」といった魅力たっぷりの彼女が大活躍する『祭火小夜の後悔』は、明日自分の隣に現れそうな怪物たちに恐怖するホラー小説であると同時に、登場人物たちが得体の知れないものに向き合い、それを克服していく青春小説でもある。
まず、短編である「床下に潜む」、「にじり寄る」、「しげとら」では、それぞれにユニークな怪物(妖怪?)によって、祭火と同じ学校に通う登場人物たちが窮地に陥る。教師の坂口は床板をひっくり返そうとする妖怪に夜の校舎で遭遇し、一年生の浅井は毎晩自分にしか見えない巨大なムカデの出現に悩まされ、祭火のクラスメイトである葵は幼い頃にある取引をした怪人からの「取り立て」に怯える。困惑する彼らに対して、祭火小夜は常識ですよと言わんばかりに対処法を授けて、救い出していく。祭火の活躍で怪奇現象が解決していくにつれ、どんどん彼女のことが知りたくなり、物語に引き込まれていく。そうして迎える中編の「祭りの夜に」では、遂に祭火小夜自身の謎に迫ることになる。祭火に魔物から兄を救う協力を頼まれた坂口、浅井、葵は夜の町で魔物とカーチェイスを繰り広げる。夜明けまでひたすら逃げる予定の一行であったが、次第にある選択に向き合うことになる。
人生に降りかかる理不尽な出来事、それは頭で割り切れないという意味では、怪奇現象とあまり変わらないかもしれない。突然の病気、突然の不景気、そして突然の災害。どんなに真面目に生きていても、逆境に立たされてしまうこともある。祭火小夜が抱える「後悔」も、かつて起こった悲劇と現在まで続く彼女の混乱が生み出したものだった。そうした未清算の過去に対して、彼女は逃避するのではなく、探求心を持って真相を突き止めようとする。そんな彼女をどうしても応援してしまうのは、小説のヒロインだからではなく、もはや自分の分身であるからだ。だからこそ、訳の分からない事態を何とか自分の頭で解釈して、人生を進んで行こうと奮闘する祭火の姿に勇気が湧いてくる。そして、過去と決別し仲間たちと共に一回り成長した彼女をますます好きになる。祭火小夜。「何度でも会いたい」と思わずにはいられない。
>>秋竹サラダ『祭火小夜の後悔』