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口だけのダメ男と結婚したばかりに、借金を抱え、強迫神経症となって看護師の職も嘘の理由で辞めざるを得なかった主人公の奈緒、35歳。
そんな彼女がお金のために住み込みで、大豪邸での介護兼看護職に就く。激昂し易く気難しい病床老人・鬼沢の世話。影の薄い長男夫妻とその息子。強欲な長女とその娘達。独身画家の次女は秘密を抱え、認知された異母兄弟・恵太はお調子者で真意が読めない。三十年勤めている家政婦も絡み、綾子は徐々に血族の渦に巻き込まれていく。
方向性の違う強欲がぶつかり合い、状況が煮詰まっていく中、奈緒の真面目な看護ぶりと、鬼沢老人の不器用な人間らしさにホッとする。恵太の持ちかけた企みで物語は急転するが、登場人物全員に生きる懸命さが見えるためか、読後感は爽やかだ。
特に、ラストの“意外な面子による食事会”の様子がいい。気の抜けた炭酸のような日常こそ、愛しく大事なものだと実感できる。
>>松下 麻理緒『誤算』
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