menu
menu

レビュー

あなたが〈闇〉の側に落ちないために必要な物語――辻村深月『闇祓』レビュー

書評家・作家・専門家が新刊をご紹介! 
本選びにお役立てください。

闇祓
著者 辻村深月



▼『闇祓』特設サイト
https://kadobun.jp/special/yami-hara/
▼『闇祓』冒頭試し読み
https://kadobun.jp/trial/yamihara/dee5clscpf4s.html

辻村深月『闇祓』レビュー

評者 佳多山大地

 セクハラ、パワハラ、アカハラ、マタハラ、エトセトラ、エトセトラ……。正直、その類いの「何かハラ」が増えすぎたため、いったい何の略語でどういう嫌がらせハラスメントなのかわからないものもあるのが実情。
 なので、辻村つじむらづきの新刊『闇祓やみはら』の巻頭に記された語句説明――「ヤミ-ハラ【闇ハラ】闇ハラスメントの略」「ヤミ-ハラスメント【闇ハラスメント】精神・心が闇の状態にあることから生ずる、自分の事情や思いなどを一方的に相手に押しつけ、不快にさせる言動・行為」云々を読んで、「へえ。最近は困ったちゃんの振る舞いをそんなふうに言うのかあ」と勉強した気分だった。ところが、この書評を書く段になってようやくネット検索してみれば……まったく引っ掛かってこない。ああ、「闇ハラ」とは辻村一流の作家的感性が生み出した造語だったわけだ!

 当代指折りの人気作家に数えられる辻村深月の最新作『闇祓』は、季節外れの転校生がやって来る場面から幕を開ける。男女ともカーキ色のブレザーが制服の私立高校に、詰襟姿であらわれた一人の男子生徒――白石しらいしかなめ。自他ともに認める「優等生」のヒロイン、原野はらのみおは、転校生の白石が自分のことを不自然に見つめる視線にすぐに気づく。ひどく無口で、さっそくクラスで浮いた存在になった白石だが、なぜか澪に対してだけ異常に距離を詰めてくるのだ。不気味な転校生のストーカーめく行為は、次第にエスカレートしていくようで……。

 ところで、「闇祓」というタイトルから、J・K・ローリングの手になる世界的ベストセラーファンタジー〈ハリー・ポッター〉シリーズに出てきた「闇祓いオーラー」をすぐに連想した向きも少なくないのでは? 闇祓いは魔法省に所属し、闇の魔法使いを捜し出して逮捕する役割を担う。主人公のハリーは、二十六歳の若さで闇祓い局の局長になるのだ――。
 そんなタイトルからの連想がズバリ当たりだということまでは、ここで紹介してかまわないだろう。辻村が物したミステリ色も濃いホラー長篇『闇祓』には、闇ハラを仕掛けてくる〈闇〉の勢力を特殊能力で打ち負かす「闇を祓う者」が登場する。いったいどの人物がヒロインの澪を窮地から救い出してくれるのか? 〈光〉と〈闇〉の思いもよらない反転劇に目を剥いて絶句すること請け合いたい。
 そんな第一章「転校生」を承けて、いよいよ物語はファンタジー色が濃くなるのかと思いきや、そうでないところにまた驚かされた。もう話の内容には触れないけれど、有名なデザイナー夫婦が改装した団地が舞台となる第二章「隣人」や、中堅どころの食品会社に勤める若手男性社員が主役の第三章「同僚」は、じつに湿度の高いイヤミスと評するよりほかない。第二章、第三章で読者は、いったい誰が闇ハラの元凶なのかを見極める犯人探しフーダニットに似た興味も掻き立てられるはずである。小学五年のとあるクラスに、はじめから元凶だとわかる男の子が転校してくる第四章「班長」を経て、ついに〈闇〉の勢力とそれに対抗する〈光〉の側の者たちとの闘いは最終章「家族」でひとつの決着を見ることになる。

 ――ああ、それにしても。注目すべきは、〈闇〉の者どもの闇ハラのやり口だ。彼らが周囲の人々の〝心の闇〟を引き出して視野を狭くさせるのに使うのは、ただ「言葉と行動」のみ。そう、彼らは魔法などいっさい用いずに人を支配し、おかしくさせる。それは、はっきり人間業だと言わなくてはいけないだろう……。
 作者の辻村が『闇祓』で描いた世界には、「闇を祓う者」がいる。『闇祓』を読み終えてゾッとさせられるのは、この本の外側の世界にそんな護衛の役を果たしてくれる超常能力者はいないに決まっている事実。ファンタジックな英雄譚の要素を含むことにより余計に、すこぶる現実的・日常的な闇ハラの恐ろしさが読んだ者の胸に迫る。自分の生活圏に誰か一人でも「厄介だなあ」と感じる人のいるあなた、『闇祓』はそんなあなたが〈闇〉の側に落ちないため必要な物語だ。

作品紹介『闇祓』辻村深月



闇祓
著者 辻村 深月
定価: 1,870円(本体1,700円+税)
発売日:2021年10月29日

あいつらが来ると、人が死ぬ。 辻村深月、初の本格ホラーミステリ長編!
「うちのクラスの転校生は何かがおかしい――」
クラスになじめない転校生・要に、親切に接する委員長・澪。
しかし、そんな彼女に要は不審な態度で迫る。
唐突に「今日、家に行っていい?」と尋ねたり、家の周りに出没したり……。
ヤバい行動を繰り返す要に恐怖を覚えた澪は憧れの先輩・神原に助けを求めるが――。
身近にある名前を持たない悪意が増殖し、迫ってくる。一気読みエンタテインメント!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000675/
amazonページはこちら

▼『闇祓』特設サイト
https://kadobun.jp/special/yami-hara/

辻村深月『闇祓』冒頭試し読み



辻村深月、待望の新刊! 初の本格ホラーミステリ長編『闇祓』冒頭試し読み
https://kadobun.jp/trial/yamihara/dee5clscpf4s.html


紹介した書籍

新着コンテンツ

もっとみる

NEWS

もっとみる

PICK UP

  • 新刊『闇祓』特集ページバナー
  • カドブンブックコンシェルジュ ~編集部があなたにぴったりの本をご提案します~ 【編集部おすすめ小説記事まとめ】

MAGAZINES

小説 野性時代

最新号
2021年12月号

11月25日 発売

怪と幽

最新号
Vol.008

8月30日 発売

ランキング

書籍週間ランキング

1

闇祓

著者 辻村深月

2

黒牢城

著者 米澤穂信

3

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

著者 森岡毅

4

民王 シベリアの陰謀

著者 池井戸潤

5

テスカトリポカ

著者 佐藤究

6

六人の嘘つきな大学生

著者 浅倉秋成

2021年11月28日 - 12月5日 紀伊國屋書店調べ

もっとみる

レビューランキング

TOP