文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
(解説:
よくあんなことを考えつくものだ。
よくあんなふうに書けるものだ。
と、私は二重に驚かされてきた。前者については、そんな頭脳を持っているからだ、と言うしかないとして、後者も
その分だけ読み解く面白さがあるわけだが、読者をよほど信じなくてはできない筆法だ。「読者は理解してくれるでしょう。謎を追うのに夢中で読み飛ばしたとしても、何か感じてもらえるはず」ということなのか。破格の作家ならではの創作姿勢だ。
そういう尖り方、前衛性をもって一部の
さて、本書『友達以上探偵未満』はというと──主人公は女子高生コンビで、筆致はいつもよりもライト。ボリューム的にもコンパクトだし、麻耶雄嵩への入門書としてふさわしいかもしれない。舞台となっている忍者と
筆致がライトといっても本格ミステリとしての中身はマニアも
いつもと少しばかり手触りが違うのは、本作の成り立ちが関係しているのだろう。
冒頭の「伊賀の里殺人事件」は、二〇一四年九月にNHK BSプレミアムで放送された推理番組『謎解きLIVE』第二弾のために書いた犯人当てドラマの原案「忍びの里殺人事件」を小説化したものだ。
はっきり言って、そんな番組のために犯人当てドラマの原案を提供するというのは、最高にハードルが高い。一斉に謎に挑んでくる恐ろしい数の視聴者を出し抜いた上、解決編で「ああ、そう考えたら解けるのか!」と感嘆させなくてはならないのだから、これはもう至難の上にも至難のミッションだ。スタジオには解答者として京都大学推理小説研究会の大先輩がいたわけだし、相当なプレッシャーがあったはずなのに──出来映えの見事さは、お読みになったとおり。
ちなみに、麻耶雄嵩×綾辻行人の勝負は出題者に軍配が上がったものの、解答者も善戦した──のだが、後日、綾辻さんは「やられた。あれはトラウマ作品だ」と筆者に語っていた。
そんな「忍びの里殺人事件」を小説化するにあたり、互いに補完し合う探偵・
互いに補完し合う探偵コンビのユニークさについて論じる紙幅がないので、以下は犯人当てというテーマに絞って書こう。
「この小説は犯人当てになっています。次へ進む前に、しばし立ち止まり誰が犯人かを考えてみてはいかがでしょうか? 一句詠むだけでも構いません」と作者は三回も私たちを誘ってくれている。本書は麻耶雄嵩からの挑戦状なのだから、お誘いに乗ってゲームに興じない手はない。
大多数の挑戦者をいっぺんに相手にした「伊賀の里殺人事件」に特に顕著なのだが、これは単に色々な要素が入っているから頭が混乱して解きにくい、という問題ではなく、突然の雨というハプニングや見立て殺人らしき状況に作者が持たせようとした意味を見抜かなくては解けない。「証言に噓が混じっていたから」「犯人しか知らない事実を知っていたから」という理由で
秀逸な問題であるのは「夢うつつ殺人事件」も
桃青コンビ誕生の瞬間に
三本勝負のうち一つでも取れた方は、名探偵の素養がある。いかがでしたか?
私は……正直に言うと、早く真相が読みたくて、あまり考えないままページをめくってしまったので、反省しながらちょっとネオ芭蕉風に一句だけ詠みます。
「夜なべして論理しみいる麻耶雄嵩」(夜なべ=秋の季語)
▼麻耶雄嵩『友達以上探偵未満』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000493/