本書を読んで、つくづく考えた。よく聞く言葉だけど「モテる」ってどういう意味なのだろう。
「モテる」とは多分「持っている」ことだ。人を惹きつける魅力を持っているから、もてはやされ、厚遇される。ちやほやされる。
「モテない」とは、その逆。持っていないから冷遇される、ちやほやされず、相手にされない。こんな状態は精神衛生上よくない。
「スイングアウト・ブラザース」の主人公三人はまったく「モテない」わけじゃない。さして優秀でもない私立大を出て、それぞれに見合った就職をしたゲームメーカーのプログラマー・ヤノッチ、信用金庫の顧客係・コバ、清涼飲料水メーカーの営業・ホリブ。それぞれ恋人がいたがフラれてしまう、それも三人ほぼ同時に。大学時代からの腐れ縁で繋がっている三人は、フラれたショックも共鳴し、大きなダメージを受けていた。
そんな時、大学時代のあこがれの美紗子先輩に誘われて「モテる」為の講義を受け始める。「モテる」という目標を揚げているが、これまでの生き方を変えるためのレッスンでもある。さしずめこの国の未来に貢献できる男性の学校。そして本書は「モテる」理由を探る教科書。もしくは指南書か?
三人は受験と就活という「失敗できない」勝負をして、無事に乗り切ってきた。なのに目の前の仕事をせっせとこなしているうちに、結婚のタイミングも逃してしまう。三十三歳は十分若い、しかし加齢現象はすでにあらわれている。あぁ、失って初めて知る若さのありがたさ。そこで自分磨きを始めるのだ。
自分磨きに前向きなのは女性の方だ。思春期辺りからファッション、スキンケア、ヘアスタイルといった外見を気にしだす。一番顕著なのがメイクの習慣。そもそも周囲に合わせて「自分も」とあれこれ塗るようになるのだけど、メイクは社会での制服みたいになっている。着なくたって誰に文句を言われる筋合いもないのだが、着てないと本人が落ち着かない。できるだけ美しくありたい、その他若さや美貌に価値を見いだす層がいたり、社会の同調圧力的なものも感じたりして、多くの女性は挙って美を追求する。
一方、男性の場合はどうだろう。男性用化粧品もよく見かけるし、美意識の高い男性も増えてきたようだ。でも本書の三人のように無頓着な人も多い。見た目で自信喪失してしまっている人も多そうだ。
本書に記されている「ルックス、経済力、性格、教養」この四つの男性モテポイント。自分では(短期的に)どうにもならない三つは除き、残った教養をどう磨いていくのかが読みどころ。
三人が書店を訪ねる場面があるが、ひとり五千円で、好きな本を三冊買う、というのは興味深いアイデアだ。本は如実に選んだ人の趣味や内面をあらわす、背伸びも知ったかぶりも。とても実践的な教養の育て方だ。
ファッションも高い物じゃなくても、きちんとサイズの合った服を着ればいい、というのも意外と気づかないポイントかもしれない。性別関係なく、楽な服、締め付けない服に一度流れてしまうと、ジャストサイズが苦しく感じるもの。
奇しくも洋服のダメな選び方と重なるのが、人間のあきらめ方だ。人間は一旦楽な方へいくことで、精神的にも臆病になってしまう気がする。
「どうせ自分なんて」「所詮わたしは」と卑下するのは実は簡単だ。最初からあきらめてしまえば、挑戦してむやみに傷つくことはないのだから。でも年齢や年収などを自分を測る数値にして、あきらめるための理由にしてしまうなんて、自分で自分の可能性をつぶすのと同じだ。
その点、ヤノッチ、コバ、ホリブの三人は特別に「モテる」人じゃないけど、どこか楽天的で、あきらめを知らないのが良いところ。その上「モテたい」という向上心も失っていない。
いくつものハードルを越えた三人ははたして「モテる」男になれるか? 人の魅力は万人に通じなくてもいい。たったひとりの人に伝われば十分。そういう意味で三人は目的を果たしたと言えるだろう。
ここまで書いてみて「モテる」「モテない」という、どことなく軽薄な言葉のイメージが変わった。冒頭にも記したが「モテる」とは見た目も条件のひとつではあるが、中身が伴わなければ「モテる」状態は続かないし、すぐに飽きられてしまう。
「モテる」とは一過性ではなく、常に保たれてこそ本物。外からは見えないインナーマッスルを鍛えるようなものかもしれない。知性や教養は若さやルックスのように時とともに損なわれることなく、むしろ深みを増していくのだ。
「モテる」理由は、奥深い。
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