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レビュー

坂木司が贈る、悩める人々と“鶏肉”を巡る人生の物語。美味しそうで、勇気がもらえる5篇『鶏小説集』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(解説:いけざわ はる / 声優、エッセイスト)

 お肉を食べるって、イメージ的に明るくて、前向きで、エネルギッシュで、ワイルドで、とことんポジティブなものだと思ってました。仲良しで集まって大きな塊肉をわいわい切り分けて食べる、心と体のエネルギー回復のために炭火でジュウジュウ焼く、クリスマスに丸ごとのチキンをド~ンと焼いてパーティする、厳しいワークアウトの後にニヒルにささみバーをかじる、どれも〝リア充〟のお肉。

 でも、この本に出てくるのは、非リアなお肉ばかり。食べる人たちはみんな、疲れていたり、行き詰まっていたり、うつくつしていたり。そんな人たちが、食べるのはチキン・コルドン・ブルーでも、ハイナンジーフアンでも、アヒ・デ・ガジーナでもなく、コンビニのあげチキ、炭火焼風・もも焼き、ローストチキン、鶏手羽の照り煮に鶏ハム。つまり、普通の人たちが食べる、普通のとりにく

 でも、なんだか、とても美味おいしそうなのです。

 物語はゆるくつながっていて、一話目でチラリと出てきた人物が次のお話で主役になり、また次のお話では思いがけない人にスポットライトが当たったり。前作『肉小説集』のハム君もちょっとだけ出てくる。

 小学生から40代までの、様々な年代、境遇の男性たちが現状をぼやきながら、なんとなく口にする鶏肉。でも、そのなんとなくが、ちゃんと心のエネルギー源になっていく。疲れていても、行き詰まっていても、鬱屈していても、前に進まざるを得ない。日常を少しずつ良い方に向かわせるために。そういう時に人が口にするのは、特別な牛肉でも、ガツンとした豚肉でもなくて、安くて食べやすい、日常的な鶏肉なのかも。

 さかさんは一人称のリアリティや、なんてことない会話のあるある感がものすごく上手うまい。きれい事や建前を取っ払った心の声が読んでる方にも刺さること。もしかしたら読む自分の立場が変わるごとに、共感する相手も変わってくるのかも。わたしは「トリとチキン」のハルのモヤモヤはわかっても、まだ「地鶏のひよこ」のお父さんの心情はわからなかった。でも、実際は親子もまた愛と憎のグラデーションで、家庭ごと、夫婦間でそのバランスは違う。親は子どもを無条件に愛するものだ、という建前があるからこそ、必要以上にゆがんでしまうのかもしれない(それでも最後の二行にはちょっと泣きそうになりました。かつとうも、距離感も、あきらめも全部ひっくるめて、〝お父さん〟なんだと思う)。

「丸ごとコンビニエント」ならタカナくんの空っぽさに、「羽のある肉」ならさきちゃんのもうちょっとで目覚める、でも直前で足踏みしちゃうリリカルさに共感する。だけどいつか貧乏神テンチョーや、バキくんの気持ちもわかるようになるのかもしれない。だって食べ物だって、年代や体調とともに好き嫌いだって変わるのだから。

 肯定するわけでも否定するわけでもない。誰もがきっと持っている普通の感情が、普通の生活の中でつづられていく。その感情には、やっぱり一番鶏肉がしっくりくるのかも。

 それに、鶏肉は実はすごいのだ。チキン、には腰抜けって意味もあるけれど、鶏だって戦う時は戦う。闘鶏だってある。鶏口となるも牛後となるなかれ。ブレーメンの音楽隊でだってちゃんと活躍した。子どもの頃よく行っていたミクロネシアの島では、立派に空を飛んでいた。世界中ほぼ全ての国で鶏は食べられている。豚肉よりも牛肉よりも生産量が多い。

 当たり前だけど、実は凄い。一番身近にいて、なんてことなくて、でもいざという時に頼りになる、鶏肉みたいな人って、実は素敵じゃないですか?



 で。

 実は。

 ここまで書いてきて、ものすごく今さらなのですが……わたし、この世で最も苦手な食べ物の一つが、鶏皮なのです。ぷよぷよした食感が苦手。密集ものに弱いので、あの見た目も駄目。鶏肌見て鳥肌立っちゃう。

 このままでは駄目だ、とある日一念発起して、食べられる鶏皮を探しました。そして見つけたのが、カウンターのみ、定員数名の小さな焼き鳥屋さん。ここ、予約はほぼ無理、常連さんが顔パスで入るようなお店。なので、いちげんさんにはものすご~~~~~く敷居が高い。

 一計を案じました。

 できるだけ空いてそうな時間帯を見計らい、のれんを潜り、ニコッと笑って「ごしてます~。急に来ちゃったけど、席空いてる?」と。大将、しばしわたしの顔を見る。やばいやばい、ばれた? たたき出される? と震え上がった次の瞬間、

「おう、しばらく顔見せないからどうしてるかと思ったよ。そこ空いてるよ」

 と。作戦成功!!(倫理的には問題ありですが)「じゃあお任せで~。あ、でも鶏皮入れてね」とこれまた常連っぽい感じで。

 念願の鶏皮は、カリカリムチムチ。今までわたしが苦手としていた鶏皮の嫌なところが、そのまま全て長所になってる……ナニコレ? 鶏皮に鳥肌を立てながら夢中でもぐもぐしていると、大将とお客さんの会話が。

「うちはブロイラーだよ、そこらへんの。大事なのは焼き方!!」

 ほえええ、そうなんだ。良い材料使えばそのまま美味おいしくなるわけじゃないんですねぇ。つまり、素材を選んでも、わたしの腕では美味しく食べられるようになるわけではない、と。

 ということで残念ながら、大将の神業によって焼き上げられた鶏皮以外はその後も苦手なまま。相変わらずのスキンレスチキンを齧りながら、世の中にはわたしの食べられる鶏皮もあったことを思い出しています。それってちょっとだけ、勇気づけられて、希望があって、わくわくしません?

坂木司『鶏小説集』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000331/


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