知られざる大岡裁きに新風を吹き込んだ最新作は、ウソみたいに濃すぎる実在の人物たちが、
ウソみたいな史実のなかで大活躍する歴史小説です。
朝井まかて作品史上、圧倒的に〝面白い〟歴史エンタテインメントの幕が上がります!
画像

歌舞伎にもなった、江戸時代最大の贈収賄スキャンダル

──新作は、八代将軍・徳川吉宗の時代に、大坂の豪商・辰巳屋で実際に起きた相続争い「辰巳屋たつみや一件」を題材にされています。なぜ、この事件を選ばれたのでしょうか。

朝井:大坂の町家で起きた相続争いが、江戸であの大岡越前おおおかえちぜんが裁く大騒動にまで発展したのが面白く、以前から興味を持っていました。

──辰巳屋久佐衛門くざえもんが死んで、木津屋きづやに養子に入っていた弟の吉兵衛きちべえが戻ってきたところから物語は始まります。久佐衛門は、辰巳屋を上回る豪商、唐金屋の息子・乙之助おつのすけを養子にし、娘の伊波いわと結婚させていました。そこに乗り込んできた吉兵衛は、長くお家乗っ取りを目論む悪役とされてきましたが、朝井さんは今までとは違った見方をされていました。

朝井:舞台化された「女舞剣紅楓おんなまいつるぎのもみじ」も、吉兵衛の乗っ取りから辰巳屋を守った唐金屋側からの忠義の物語になっています。ただ、吉兵衛について残っている風聞を調べると、粋で趣味人で、お金の遣い方も後先を考えない、つまり典型的な上方のボンボンです。そんな鼻持ちならない二枚目がとことん追い込まれたらどんな真実を見せるのか、そこに興味があって、ワクワクしながら書きましたね(笑)。さらに大岡越前に目を転じてみたら、事件には政治や経済の問題が複雑に絡んでいたのではないかという想像が働きました。

──吉兵衛は、大坂の役人に賄賂を渡して裁判を有利にしたとされていますが、本書ではまったく違った解釈になっていました。

朝井:当時は儀礼社会ですから、賄賂と通常の交際の区別がつきにくいんです。しかも奉行所に訴えて出るのが無料だったので民事裁判の件数が多く、ひどく待たされます。手続きも煩雑ですから、裁判にかかわった町人は役人にうまく取り計らってもらうために包みを渡しました。ごく日常的な習慣ですね。吉兵衛の賄賂が問題になったのは、日頃の遊蕩ゆうとう奢侈しゃしも一因でしょう。江戸の役人にしたら、最も嫌いなタイプの大坂人ですから(笑)。

書籍

『悪玉伝』

朝井 まかて

定価 1728円(本体1600円+税)

発売日:2018年07月27日

ネット書店で購入する

    書籍

    「本の旅人」2018年8月号

    角川書店編集部

    定価 100円(本体93円+税)

    発売日:2018年07月27日

    ネット書店で購入する