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特集

『おののけ! くわいだん部』2巻 押切蓮介×松原タニシ『恐い食べ物』対談【お化け友の会通信 from 怪と幽】

怪談界の”あるある”を詰め込んだ青春学園ホラー『おののけ! くわいだん部』を『怪と幽』で連載中の押切蓮介さんと、食を通して生と死を考える怪談集『恐い食べ物』を発表した松原タニシさん。怪談との距離感が似ている、というお二人が赤裸々トークをくり広げます!

取材・文:朝宮運河 写真:橋本龍二

『おののけ! くわいだん部』2巻 押切蓮介×松原タニシ『恐い食べ物』対談


見たいのに見れない

押切:いつも動画を見ている松原さんにお会いできて嬉しいです。松原さんの存在を初めて知ったのは、北野誠さんのトークイベントかな。松原さんが当時お住まいになっていた事故物件の定点カメラ映像が流れて、オーブがばんばん飛んで衝撃だった。

松原:『北野誠のおまえら行くな。』のイベントですね。あれは8〜9年前ですから、だいぶ早くから知っていただいていたんですね。押切さんがかなりの怪談好きということは、『おののけ! くわいだん部』を読ませてもらえば分かります。実在する心霊スポットもいくつか出てきますが、実際足を運ばれているんですか。

押切:多少は行っているんですけど、松原さんに比べるとお恥ずかしい回数です。行こうと思っているのに、なぜか直前で行けなくなる、ということも多いんですよね。

松原:そういう霊障なんでしょうか。押切さんは幽霊を見たいタイプですか?

押切:見たいですし、写真にも撮りたいです。でも以前霊能者の人に、あなたは幽霊が避けて通るタイプだから見れないよ、と言われたことがあるんです。確かにこれだけがっついている奴は、幽霊も避けようと思うでしょうけど(笑)。松原さんは全国の心霊スポットに行って、はっきり幽霊を見たことはありますか。

松原:一番怖かったのは台湾の火葬場ですね。後輩と歩いていたら二人同時にキーンと耳鳴りがして、後輩のスマホがおかしくなったと思ったら、誰もいない通路の奥からチリンチリン……と鈴の音が聞こえてきた。あれはモロに心霊現象という感じでしたね。日本ではそこまでの経験はないかなあ。

押切:あれだけ行かれてもないですか。

松原:夜中の心霊スポットで声はよく聞くんですけど、大抵は野生動物の鳴き声なんですよ。何度も行っていると、声の正体が分かってくる。

押切:
京都で狩猟をしている知人がいるんですが、夜中に罠を仕掛けに行くと森の奥から話し声が聞こえてくるらしいんですよ。明らかに人の声なんだけど、その人は慣れちゃって怖くもなんともないと言っていた。どういう作用か分からないけど、麓の話し声が届いているんだろうと。

松原:幽霊っぽいものを自然現象として捉えているんですね。その話は面白いですね。

押切:なんでも幽霊のせいにしたがる怪談師もいますけど、松原さんはそういうタイプじゃない。一歩引いて見ている気がして、そのスタンスには非常に共感します。


怪談師の悩みを描く

松原:『くわいだん部』1巻でも「怪談・心霊好きの体験談は信用するなかれ!!」って部長が言っていましたね。他にも白い服の女は出すなとか、現代怪談と古典怪談の対立だとか、怪談界のあるあるが全部描いてある(笑)。人気怪談師のライブに行って、がっかりする話には笑いました。


最強の怪談師を目指す彼らは、「怪談あるある」も容赦なく攻める。 (『おののけ! くわいだん部』1巻より)


押切:あれは僕の実体験ですよ。怪談ライブによく行っていたので、あの世界の悪い面もそれなりに見ているんです。客席の受けがイマイチだなと思ったら、途中で話を盛ったりする語り手もいますよね。僕はあの瞬間が好きで。「今、盛ったな」っていうのが分かるんですよね。

松原:うわ、すごい話題ですね(笑)。でも分かります。「実はこの話には後日談があって」と、客席の反応を見て後日談をつけ足す人がいるんですよ。『くわいだん部』の2巻ではいよいよ全国高校怪談選手権が開幕して、『キン肉マン』のようなバトルものになってきましたね。

押切:もともと怪談バトルものを描きたくて、1巻はそのための助走だったんです。怪談をまったく知らない人が読むとただのギャグマンガに見えるかもしれませんが、この手の怪談バトルは実際行われていますよね。

松原:ほぼ一緒です。今の怪談師はみんな大変だと思いますよ。大勢いる怪談師の中で抜きん出るために、より怖い話、エグい話を追い求めて、どんどん言動がエスカレートしている。語り手自身がある意味、怪談に近づいているというか。怪談やってる人は読んだ方がいい。悩んでいることが全部描いてありますから。


全国高校怪談選手権に集う、化け物クラスの怪談師たち。 (『おののけ! くわいだん部』2巻より)


押切:実は一時、すごく怪談が苦手になったことがあるんです。怪談ってある意味、人の不幸や死を娯楽として消費する行為じゃないですか。人の不幸をドヤ顔で語る怪談師もいるんですよね。そのことに嫌悪感を覚えてしまい、ある時期は完全な心霊否定派でした。

松原:僕も同じようなことを思っていた時期があって、某怪談バトルであえて“怪談を楽しんでいる会場の皆さんが、一番怖いんじゃないですか“という話をやったんです。案の定、負けましたけど。

押切:ラーメン屋に行ったら寿司が出てきた、みたいなものですからね(笑)。みんなが求めてるのは結局、怖い話なんですよ。


死について考察する

松原:怪談を仕事にしている時点で僕も同罪なんですけど、誰かの死を下敷きにしている以上、なるべく慎重に扱わないといけないと思っています。

押切:松原さんがそこをすごく考えている方だというのは、これまでの本を読んでも分かります。事故物件に住んでいても心霊スポットに行っても、死について考察するじゃないですか。今回『恐い食べ物』で食べるという行為を書いたのは、どうしてなんですか。

松原:2022年に借りた事故物件で、亡くなった方のご遺体の一部が分解されて土になっているのを見て、人も死んだら他の動物に食べられるんやな、ということを実感したんです。そこからですね。その土はもらって帰って、野菜を育てるのに使いました。

押切:カイワレを育てて食べたんですよね。どんな気持ちがしました?

松原:亡くなった男性のことはまったく知らないんですけど、その人を取り込んでいるような。この世界は命がぐるぐると回ってできている、ということを実感できました。

押切:ガチの怪談も入っているんですけど、すごく哲学的な本ですよね。霊界と食物のはざまの哲学というか。松原さんがタニシを食べる話も面白かったです。あちこち探し歩いて、結局見つけたのが高田馬場の中華料理店だったという。味はどうでした?

松原:タニシ麺というのを食べたんですけど、めちゃくちゃ酸っぱいんです。タニシの泥臭さを消すために酸味を強くしてあって。

押切:お寺の断食道場にも行かれたんですよね。あの話ではタバコを吸うことが座禅に似ていると書かれていましたが、あれはよく分かる。僕もちょっと病んでいた時期に、スピリチュアルカウンセラーの人から「タバコを吸いなさい」と言われたんですよ。息を深く吸
って吐くということができないと、悪いものが体に溜まるからと。それからヘビースモーカーになっちゃいましたが。

松原:お寺の座禅でも呼吸の仕方を習うんです。ゆっくり鼻から吸って口から吐く。これってタバコ休憩と一緒やなと僕も思いました。しかしそのスピリチュアルカウンセラーの人はすごいですね。

押切:信じてないつもりでも、たまに当てられると楽しいですよね。ここ数年は一周してまた怪談が大好きになり、毎日YouTube を見まくっています。

松原:それは僕も同じです。悩める怪談思春期を経て、またスタート地点に戻ってきたような気がしていて。原点回帰じゃないですけど、心霊スポットを巡ろうかなと思っているんです。

押切:それご一緒したいです。車を出しますから、僕も連れていってください。

松原:それはぜひ。この二人で行っても、何も起こらない気がしますけどね(笑)。

※「ダ・ヴィンチ」2023年10月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

プロフィール

おしきり・れんすけ
1979 年、神奈川県生まれ。98 年『週刊ヤングマガジン』に掲載された「マサシ!! うしろだ!!」でデビュー。『ハイスコアガール』が2013 年「このマンガがすごい!」でオトコ編第2 位を獲得。著書に『でろでろ』『ゆうやみ特攻隊』『ミスミソウ』『ジーニアース』『ハイスコアガールDASH』などがある。

まつばら・たにし
1982 年、兵庫県生まれ。「事故物件住みます芸人」として各メディアで活躍中。2012 年から現在まで大阪、千葉、東京、沖縄、香川など17 軒の事故物件に住む。著書に『事故物件怪談 恐い間取り』『異界探訪記 恐い旅』『事故物件怪談恐い間取り 2』『死る旅』『事故物件怪談 恐い間取り 3』がある。

書籍紹介

『おののけ! くわいだん部』 2 巻



押切蓮介 KADOKAWA 
全国高校怪談選手権がついに開幕! 怪談に異様な情熱を燃やす第二南高校怪談部の部長・諸星マコトと古典怪談を愛する部員・熊野葉介は、並み居る強豪校に怪談バトルで勝利できるのか? 怪談ブームの光と闇を盛りこんだ、青春学園ホラーコミック。

『恐い食べ物』



松原タニシ 二見書房
人は何かを食べて生き、死んだら何かに食べられる。事故物件の土で育てたカイワレ。5 泊6 日の断食道場。眠っている間に食べているチョコレート。ついにめぐりあったタニシの味……。『事故物件怪談 恐い間取り』の松原タニシが、食をめぐる怪異に挑む。

怪と幽紹介



『怪と幽』vol.014
KADOKAWA
特集1 奇想天外 きのこの怪
特集2 幽霊と魔術の英国
小説:京極夏彦、小野不由美、有栖川有栖、澤村伊智
漫画: 諸星大二郎、高橋葉介、押切蓮介
エッセイ● 小松和彦、加門七海、東 雅夫
公式X(旧Twitter) @kwai_yoo
https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000343/


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