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特集

全7編それぞれで、異能の小説家たちが顔を出す『小説家と夜の境界』山白朝子インタビュー【お化け友の会通信 from 怪と幽】

宮部みゆきから絶賛を受けた短編集『私の頭が正常であったなら』から、5年と少し。
怪談専門誌『怪と幽』で活躍する小説家・山白朝子が、待望の最新刊を発表した。
タイトルは、『小説家と夜の境界』。全7編それぞれで、異能の小説家たちが顔を出す。

取材・文:吉田大助 写真:首藤幹夫

『小説家と夜の境界』山白朝子インタビュー

 第1話「墓場の小説家」の書き出しの一文が象徴的だ。〈小説家には変人が多い。〉
 山白朝子の最新刊『小説家と夜の境界』は、小説家の〈私〉が出会った、小説家や出版関係者たちの〝常軌を逸した〞怪異譚を綴る短編集だ。
「前の本に収録されている『布団の中の宇宙』という短編が今回と同じように、小説家の主人公の語りで変わった小説家の生態を書いたものでした。それを書いた時に、面白かったし、書きやすいなと思ったんです。怪談を十数年発表してきてネタを見つけるのに苦労するようになっていたんですが、このスタイルだったら行けそうだぞ、と。そうしたら、いつの間にか一冊分溜まっていました」
 書きやすさ、のゆえんはどんなところにあるのだろうか。
「自分でも感じますし、知人の小説家たちと話していても同じなのかなと思ったんですが、小説を書くという行為は、〝こちら側の世界〞から〝あちら側の世界〞に憧れて、覗いてみるような感覚があるんです。そういう感覚を日常的に持っている人たちであれば、常識を踏み外してもおかしくない。小説家を登場人物に据えることで、自由な発想ができるんです」
 ポイントは、語り手である〈私〉の存在だ。〈私〉自身も小説家ではあるものの、他の小説家のような〝奇人変人〞ではないのだと残念そうにしている。〈私は、そういう者たち
を眺め、観察するのが格別に好きだ。趣味だとさえ言える。私は彼らに憧れているのだ。人生を踏み外してまでも、創作にのめりこむ姿勢に感銘を受ける〉。しかし、読み進めていけばすぐ分かる。〈私〉も十二分にヘンだ。
「自分でも途中から、語り手が一番やばいんじゃないか、と思うようになりました(笑)。常識から外れた者たちを愛でる、という人物が語り手だったからこそ、こういう話を集められたんじゃないかなと思います」

小説家は異能の持ち主「スタンド使い」かも!?

〈O氏の話は大変に興味深かった。私の好物と言えた。/「なるほど、なるほど。それでは、小説のために、自分でその腕を折ったというわけですね?」〉
 第1話「墓場の小説家」に登場するのは、学園ミステリを得意とする20代半ばの小説家・O氏だ。〈私〉は彼と出版社のパーティで出会い、その創作術に魅了される。例えば、小説の主人公が交通事故で骨折し、左腕にギプスをはめて生活するという展開があった。主人公の痛みを表現するために、イヤがる妻が運転する車に轢いてもらい、自分の左腕を折ったというのだ。〈私〉はその後もO氏との交流を続け、新たなエピソードを聞かせてもらう。編集者から恋愛小説の執筆依頼が届いた時、O氏が取った行動は……。
「小説のために自分でも実際に経験してみる、という書き方はよくあるかなと思うんですが、突き詰めてやっていったらどうなるか。掲載誌が『怪と幽』なので、ホラーやオカルトっぽいところに寄せなければいけないという縛りを意識して、とことん堕ちていく話を書いてみました」
 第2話「小説家、逃げた」に登場するYさんは、大学生の時にデビューし、なんと1カ月に1冊ペースで小説を刊行。〝筆が異様に速い〞という能力の持ち主だ。
「作家さんでTwitter をやっている人は結構多いんですが、それを見ていると世の中には本当にいろんなタイプの作家がいるなと感じるんです。人それぞれに能力が異なる、スタンド使いに見える時がある。そういった異能をフィーチャーする連作になったのかなと思います」
 異能は才能であるが、〝堕ちていく〞想像力を噛ませれば、呪いにもなる。実は、第2話のYさんは、小説が書きたくて書いているわけではなかった。息子の能力はカネになると踏んだ両親に鞭打たれ、無理やり書かされている状態だったのだ。
「小説家が出てくるホラーといえばスティーヴン・キングの『ミザリー』なので、それっぽいものをやってみました。小説を書いている人とそうではない人の間の、感覚のズレを描いてみたいという思いもあったんです。親戚と話していると、小説って書き終わったらすぐ本になる、それがお金になるラクチンな仕事だと思われているなぁと感じることがあって、ちょっと引っかかっていたんですよね」
 呪いを振り切ろうと勝負に出たYさんが、最後に書き上げた小説はどんなものだったか。その後の人生とは? 怪談とミステリーが五分と五分でぶつかり合う、その瞬間に切なさが爆ぜる——山白朝子の作家性が存分に発揮された一編だ。
「1話目と2話目に登場する作家は、自分に特別な才能があるとは思っていないんですよね。だからこそ、努力していいものを書きたいと思っている。でも、主人公から見れば二人とも、立派な才能を持った作家なんです。そこのギャップを書くのが楽しかったです」

頭の中のイメージを外に出せないことは地獄

 第3話「キ」は、高校時代に猟奇的なホラー作品でデビューしたKが、いかにして無害なファンタジー作品を書くようになったかという、もしかしたら本書随一のおぞましき物語。第4話「小説の怪人」は、レジェンド作家・北方謙三御代を思わせるⅩ先生に秘められた、本書随一のミステリアスな物語だ。
 第5話「脳内アクター」は、頭の中に5人の劇団員を住まわせている小説家・Rのお話だ。作品ごとに別のキャラクターを演じさせ、自由にアドリブ(即興演技)をさせて、出てきたセリフを文章に書き起こす。その執筆法が、ある時窮地に陥ってしまう。
「スタンド名をつけるとしたら、『スターシステム』です(笑)。これも、憧れが出ていますね。自分はキャラクターというものをなかなか作れなくて、いつも苦しいんです。頭の中に劇団があったらラクだろうし、キャラクターが自由に動くという感覚にもなりやすいんだろうなと思ったんですよね。ただ、もしも頭の中の劇団に、人気のあるキャラと人気のないキャラができていったらどうなるんだろう、と。作家と作品、作家とキャラクターとの繋がりについても、第3話の時とはまた違ったアプローチから考えてみました」
 第6話「ある編集者の偏執的な恋」は、異形のラブストーリーだ。
「作家の話が続いたので、視点を変えて編集者の話にしてみました。編集者にもヘンな人が多いと思うんです(笑)。Twitter で見かけた〝担当編集ガチャ〞という言葉に刺激を受けた部分もあります。特に、デビュー間もないような時期は、編集者によって作家の運命が変わることはあるんじゃないかと思いますね」
 最終第7話「精神感応小説家」は、ベトナム人青年・N君を軸に進む物語だ。技能実習生として日本へやってきたN君は、ある時「触れた相手の考えていることがわかる」能力に目覚める。その能力の存在を知った編集者がN君に依頼した仕事は、事故で意識はあるものの一切の意思表示ができない状態に陥った、文豪J先生の頭の中にある新作原稿を「書く」ことだった——。
「頭の中に溢れているイメージを外に出せない、小説が書きたいのに書けない。その状態って、作家にとっては地獄かもしれないなと思ったんです。代わりに自分の中にあるものを取り出してくれる人が現れたら、救世主みたいに感じるだろうな、と。相棒は誰にしようかなと考えていったところで、小説とは無縁で生きてきた、日本語も不得手な外国の人はどうかな、と。正反対の文化や考えを持った二人が、同じ目的に向かって手を組まざるを得なくなる話って、バディものの定番ですよね」
 確かに定番といえば定番だが、こんな二人の組み合わせを思いつき、関係性のドラマを深めていった人はかつていなかった。ましてや後半のストーリーの二転三転、どんでん返しは、長編並みの濃密さだ。
「振り返ってみるとどの短編にも、何かが乗り移ったみたいに情熱のまま書いて、ものすごい作品を生み出すタイプの作家さんへの憧れが出ていると思います。自分はどうしてもアクセルをベタ踏みできず、これ以上行くと危ない、と思うとすぐブレーキをかけてしまうんです」
 いやいやいや! まるで第1話、2話の主人公のような無自覚っぷり。他の作家からすれば本書収録作はみな、〝ベタ踏み〞以外の何物でもないはずだ。

「ダ・ヴィンチ」2023年8月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

プロフィール

山白朝子(やましろ・あさこ)
怪談専門誌『幽』掲載の「長い旅のはじまり」で2004年にデビュー。著書に『死者のための音楽』『私の頭が正常であったなら』など、共著に〈幻夢コレクション〉の『メアリー・スーを殺して』『沈みかけの船より、愛をこめて』などがある。趣味は焚き火。

書籍紹介

『小説家と夜の境界』



山白朝子
KADOKAWA
私の職業は小説家である。出版業界に長年関わっていると、様々な小説家に出会う。彼らは奇人変人であることが多く、トラブルに巻き込まれる者も多い。私は幸福な作家というものに出会ったことがない──。そんな〈私〉が告発する、世にも不思議な小説家の世界。
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