怪獣やヒーローものからホラーやSFまで、いまやエンターテインメントの中心となった「特撮」。現在発売中の『怪と幽』13号では、第一特集を「怪奇大特撮」と題して、“こわい特撮”に焦点を当てている。「目に見えないもの」を形にする「特撮」の魅力を、各界の著名人に協力いただいたアンケートやインタビューなど、様々な企画で紹介している。そしてなぜか、オリジナルヒーロー「カイトユウマン」が誕生した。彼は一体何者なのか? 誕生の裏側に迫る!
文:村上健司 写真:編集部
謎のヒーロー「カイトユウマン」誕生秘話!
なぜ特撮なのか?
『怪と幽』13号の特集のテーマは“特撮”。しかも表紙にデカデカとタイトルが書かれる第一特集なので、力の入れようが窺えるが、それにしてもどうして妖怪と怪談の専門誌が特撮をテーマに取り上げるのだろうか。
そもそも特撮という言葉は、映画やテレビドラマを作る際の特殊撮影の略語で、なぜか日本では特殊撮影を多用した映像作品、それも怪獣やヒーロー、SFを主題としたものを特撮ということが多い。
そして、エンターテインメントの側面からすれば、妖怪も怪談も特撮とは親和性があり、むしろ妖怪と怪談をテーマとした映像作品は特殊撮影を避けて通ることはできない。そのため特撮といった大きな括りには、妖怪や怪談というジャンルもある──。と、こんなまどろっこしい説明をせずとも、「怪奇大特撮」なる特集タイトルを見れば一目瞭然で、つまりは“こわい特撮”特集なのである。
“こわい特撮”は、なにも怪談や妖怪もの、あるいはホラーに限るわけではない。巻頭のアンケート企画「私のトラウマ特撮」では、作家やミュージシャンの方々が、『美少女仮面ポワトリン』『ウルトラQ』『アウター・リミッツ』といった内外の特撮作品を取り上げて、それぞれ恐ろしい思いをしたエピソードを添えている。恐怖や不安が駆り立てられる要素があれば、たとえSFやヒーローものであっても、それは“こわい特撮”になるのだ。
他にも、小説家の京極夏彦さんが恐怖と特撮の関係を語れば、幻想文学の専門家である東雅夫さんが怪人ホラーの系譜について綴り、Jホラー先駆者へのインタビュー、生物学から見た怪獣についての対談、日本の特撮作品に登場した妖怪たちを集めて俯瞰した論考など、特集では『怪と幽』的視点から特撮を論じた内容で埋め尽くされている。また、過去の特撮作品だけにこだわらず、昨今の特撮ヒーローものを中心に幅広く活躍する脚本家・小林靖子さんのインタビューでは、子供たちはどのような演出に恐怖を感じるのか──といった、現場の第一線に身を置く者ならではのエピソードを語っていて、特撮好きではなくても興味深く読めることだろう。
さらに今回の誌面には、特集の目玉として突拍子もない企画も組み込まれた。それが『怪と幽』のオリジナルヒーロー「カイトユウマン」のプロモーションビデオ(以下、PV)制作なのだった。
『怪と幽』のオリジナルヒーロー誕生
『怪と幽』がオリジナルヒーローのPVを作る……。編集長(以下、編集R)と長い付き合いの筆者でさえ、「特集の中で、カイトユウマンを作るんですよ」と編集Rから聞かされたとき、「なんで?」と思ったくらいだから、読者はなおさら首をひねるに違いない。
最初に書いてしまうと、これは一種のジョーク企画になる。
当初は特撮作品の作り方を関係者に聞く記事を考えていたが、そこから自分たちで特撮をやってみたらどうだろうという話になり、オリジナルヒーローのPV制作の流れになった──と編集Rはいう。PVが予想以上に盛り上がったら何かするかもしれないが、今のところ本編を作るとかイベントに登場させるとかいった活動は考えていないとも。要は架空の映画なり番組なりのPVだけを作るという遊びである。
特撮作品を鑑賞するだけでは飽き足らず、怪獣やヒーローが出てくる映像を作ってみたいと思う人は少なからずいる。行動力に溢れる人などは、まるまる一本の作品を作って、上映会やWEBで公開することもある。だが、どれだけ短くても特撮作品を作るのは容易ではない。機材の調達や協力者の調整はもちろん、小道具やらセットやらも用意しなくてはならず、たとえ現在のようにコンピューター・グラフィックスで大体のことはできるようになっても、大変さは変わらない。
そこで、“それでも何か作ってみたい! 特撮したい!”という創作意欲を爆発させた人が手をつけがちなのが、映画の特報とか予告編のようなPVなのだ。
映画の特報や予告編は、作品の見どころが短い時間にギュッと詰め込まれている。これならば自分が撮りたい・見せたいカットだけを撮ればいいし、設定を練っておけば作品の世界観を充分に表現できる。
こんなことをいう筆者もかつて爆発気味だったので、稚拙ながらも特撮を駆使した予告編を撮って遊んだ経験がある。これはこれで楽しいもので、企画の目的の一つである“自分たちで特撮をやってみる”にもうってつけだ。
それからもう一つ。PV制作には、自分たちのヒーローを作りたいという願望もあった。
ご当地ヒーローや企業のイメージキャラクターとしてのヒーローなど、特撮にこだわらずにヒーローを作って楽しむケースも最近は増えている。今回のPV制作は「ご当地ヒーローがあるなら、雑誌のヒーローがあってもいいじゃないか」という、ある意味編集者の願望が叶った企画ともいえよう。
こうして「カイトユウマン」は、“自分たちで特撮をやってみる”をメインに、“雑誌のイメージキャラクターとしてのヒーローを作る”ことを意識して誕生することになった。
撮影は無事終了……?
・カイトユウマンはお化けの平和を守る現代のヒーロー。
・お化けを護衛できるほどの力はなく、必殺技も人間を驚かすくらい。
・父は赤い色をした妖怪で、母は青白い幽霊のため、体色は赤と青が基本。
・決めポーズも妖怪のかぎ爪と幽霊の手をイメージ――。
以上は制作関係者の話し合いで決まったカイトユウマンの設定だ。
これを活かしつつ、PVは昭和の特撮番組のオープニング風に撮ることが決定した。ということは歌と曲も必要で、歌詞をブレストでひねり出した後、なぜか筆者がその場で鼻歌のように歌ったものがOKとなり、音声データをもとに曲も作られた。
ちなみに歌詞は次の通り。
「カイトユウマンのテーマ」
怪! 怪! 怪!
幽! 幽! 幽!
お化けの平和を守るため
草葉の陰からやってきた
(丑三つタイムに変身!)
怪しきヒーロー
カイトユウマン
怪! 怪! 怪!
幽! 幽! 幽!
お化けの平和を乱すやつらに
必殺技を見せてやる
(人魂フラッシュ!)
幽かにヒーロー
カイトユウマン
カイトユウマン!
自画自賛になるが、短いながらも設定が上手く取り込まれ、ヒーロー番組っぽい曲に合わせるとなかなかカッコイイ。
肝心の撮影は、埼玉県所沢市のところざわサクラタウンで行われた。通りすがりの観光客が遠巻きに見守る中での強行撮影だったが、映画『妖怪大戦争』(二〇〇五年版)で使われたぬっぺっぽうの着ぐるみがいるだけで、特撮感がかなり増した気がする。着ぐるみはわざわざ借りてきたものである。
この日集まったスタッフ・出演者は、編集者と筆者の六人。ここに現地から応援で三人参加し、スーツアクターもモブシーンもすべてこのチーム内で済ませた。さらに夜の撮影には、動画編集を担当する京極さんが応援に駆けつけてくれて、なんとか一日で終わらせることができたのだった。
「カイトユウマン」PV制作は“自分たちで特撮をやる”ことが目的の一つではあるのだが、特殊な撮影は夜に人魂を撮ったくらいでほとんどない。それでもカメラワークは特撮ヒーローものを意識しており、そこに編集で特殊効果を加えれば、一気に特撮作品といえるような映像と化す。逆にいえば、特撮ヒーロー物は編集頼みの部分が多分にあり、本来小説家である京極さんに動画編集を依頼したのも、特撮作品への愛と理解度、そしてご自身も若いころからビデオ編集を趣味としており、映像の特殊効果を安心して任せられることが理由としてあげられる。
さらに別日には、特撮ヒーロー番組のロケ地として有名な“爆破の聖地”岩船山でのロケを敢行した。ヒーローものによくある「爆破シーン」をカイトユウマンでも再現しようという試みだ。一気に“特撮感”が増す。
ともあれ、このように特集にかこつけた遊びであり、身内周辺でできることをやってみた──というのが「カイトユウマン」PVなのである。
完成版は『怪と幽』のYouTube公式チャンネル「怪と幽Tube」にアップされているので、まずはそちらを見て欲しい。さらに楽しく視聴するのに、特集内の「カイトユウマン」ができるまでの記事もぜひご覧いただきたい。
「カイトユウマン」PVはコチラから。
https://www.youtube.com/watch?v=DEgSurcpS2c
※「ダ・ヴィンチ」2023年6月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載
書籍紹介
「怪と幽」Vol.013
特集1 怪奇大特撮
特集2 民俗写真家 芳賀日出男
小説 京極夏彦、有栖川有栖、山白朝子、恒川光太郎、澤村伊智、織守きょうや
マンガ 諸星大二郎、高橋葉介、押切蓮介
記事で紹介した第一特集「怪奇大特撮」のほかに、第二特集「民俗写真家 芳賀日出男」は、日本や世界を渡り歩いて各地の祭礼や芸能を写真に収めた芳賀日出男氏の追悼企画。本誌でしか読めない協力連載陣からお化け情報まで、余すところなくお楽しみあれ!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000342/