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特集

『てのひら怪談 見てはいけない』対談 平山夢明×朝宮運河【お化け友の会通信 from 怪と幽】

かつて800字怪談のブームを巻き起こした「てのひら怪談」が、児童書となって再始動!
1月に発売された『てのひら怪談 見てはいけない』は、昨年夏に刊行され〝大人が読んでも怖い〟と話題を呼んだ『てのひら怪談 こっちへおいで』に続くシリーズ第2弾だ。
同書に参加した作家・平山夢明と、シリーズの編者を務めるライター・朝宮運河が、子どもと怪談について語り合う。

構成・文:朝宮運河 写真:有村 蓮

対談 作家・平山夢明×ライター・朝宮運河

――子どもには夢と同じくらい、恐怖を与えてあげないと(平山)
――平山さんは絶対児童書もいける、という確信がありました(朝宮)

平山:子ども向けにガチの怪談をやるっていう試みは、すごくいいと思うんだよね。そもそも朝宮君はなんでこれを始めようと思ったの?

朝宮:ポプラ社さんの方からオファーをいただいたんです。そもそも「てのひら怪談」はアンソロジストの東雅夫さんらが中心になって立ち上げられた企画なので、私なんかが編者をやっていいのかなという躊躇もあったんですが、小学生に向けた新たなシリーズにしたいというお話だったので、それならお手伝いできることがあるかなと。今、自分の子もちょうど小学生ですし。

平山:依頼をもらってびっくりしたけどね。ホントにおれでいいのかい、って(笑)。

朝宮:もちろんですよ(笑)。このシリーズはホラーや怪談の第一線で活躍されている作家さんと、児童書メインの作家さんの両方にご依頼しています。平山さんにお願いしたいという気持ちはシリーズ開始当初からありました。

平山:そりゃまたどうして。そりゃあ子どもは嫌いじゃないけどね。子どもって都会の中の大自然みたいなもんだから。見ていると楽しい。

朝宮:平山作品において〝子ども〟は重要なキーワードですし、ご自分のお子さんを思いっきり怖がらせたエピソードも以前聞いたことがあって。絶対児童書もいけるだろうという確信がありました。

平山:子どもは怖がらせてナンボだよね。子どもって世の中のことを知らないからさ、怖い話で警告してやる必要があるわけ。知らない人についてっちゃ大変なことになるよ、とか。変態が多いんだからさ(笑)。これはヤバいことに繋がっているのかも、っていうアンテナを育てないまま大人になると最悪死んでしまう。

朝宮:子どもにとって自分は世界の中心ですが、心底怖い話に触れることで、世界に間借りしているに過ぎないんだ、ってことが実感されますよね。ホラーや怪談は世界を眺める角度を増やしてくれるのだと思います。

平山:うまく世の中と自分をフィットさせないと、生きづらいだけになっちゃうからね。そのためにも子どもには夢と同じくらい、恐怖を与えてあげないと。おそらく物語の出発点は「こうなると大変な目に遭うぞ」っていう警告なんだと思う。

朝宮:生活の知恵としてホラーや怪談があるんだ、という平山さんのスタンスは一貫していますね。今回子ども向けの作品を書かれてみていかがでしたか?

平山:楽しかったよ。一般向けの作品を書くときは、どうしても読者と切り結ぶみたいな緊張感があるけど、子どもが相手だとそこまで気負わないで、自分が面白いと思うものを書ける。

朝宮:それは編者としても感じました。普段一般向けのホラーを書かれている方も、児童書になるとこれまで見せていなかった面が出てくる。ある意味、コアな部分を覗かせてくれたのかなと思います。

平山:それとこのシリーズは800字ってのがいいよね。読者にとっては負担なく読めるちょうどいい長さ。1200とか1600だと身構えちゃうんだけど、原稿用紙2枚だとさっと読み切れる。

朝宮:「てのひら怪談」はビーケーワン怪談大賞というウェブ上のコンテストがルーツ。その応募作の上限が800文字、原稿用紙2枚以内だったんですよね。この長さは意外と難しくて、長い文章を書くのとはまた違ったコツが要ります。平山さんは『瞬殺怪談』などで短い怪談をたくさんお書きになっているので、慣れていると思いますが。

平山:怪談が難しいのは、書いている自分が全然怖くないってことなんだよね。先の展開が分かっているわけだから。それでついだらだらと前置きが長くなる。でも800字だとそんな余裕がないから、スパッと山場に入るしかない。強いネタがあって、うまく長さにはまった時には強力だと思うよ。

朝宮:800字で綺麗に起承転結をつける方、ビジュアルイメージで引っ張る方、色んなタイプがあって面白い。今回の平山さんの5編は怖いだけでなく、貧困や家族との別れなど子どもたちにとって身近な問題を扱っていますね。

平山:子ども向けだからセーブしたわけじゃないけど、多少意識はしたね。役人の話を書いても分からないからさ。正義とか、弱さだとか、勇気だとかそういった大事な話を、教科書的にならないように書いているよ。

朝宮:残念なことに1作は表現の問題で掲載できず、差し替えになってしまったんですよね。素晴らしい作品だったんですが……。

平山:まあ仕方ないよね。子どもの本には独自のルールがあるからさ。

朝宮:もうちょっと大人になったら、ぜひ読んでもらいたいです! さすがだなと唸ったのは、小学生にとって重大テーマであるトイレ問題を扱っていることです。

平山:「ウン神」ね。昔っから子どもが好きなのは便所の話。だったら主人公の名前は〝ロータ〟しかないと思ったんだ。ロータっていうのは便所が好きな編集者で、今は『怪と幽』のエライ人になってるんだけど(笑)。

朝宮:すぐそこに座っています(笑)。「どろんこんこ」「こわい本」「イエアナ」、どれも凶悪な平山節ですが、この救いのなさに逆に救われる子もいるはずだと信じています。「お母さんの爪」は例外的に優しい怪談で、とても印象的でした。

平山:小学生の時、指先に梵字を書いてる子がいてさ、おばあちゃんのおまじないだって。そんなことがあったなと思い出しながら書きました。

朝宮:作家の皆さんに「遠慮せずに怖くしてください」とお伝えしています。このタイトルに反応する子なら怖いものを期待しているだろうし、だったら大人の本気を見せなくてはと(笑)。子どもの頃に震え上がった体験が、後々の怪談趣味の原点になったりもしますしね。

平山:おれが子どもの頃は、小学校の先生がよく怪談をしてくれたよね。合宿の夜、みんなが寝てる間に一人が墓場に抜け出して……、っていう定番の怪談だけどあれが原体験。

朝宮:私の先生もそうでしたね。「週刊誌に載ったのよ」って、小泉八雲の「怪談」を語ってくれました(笑)。ああいうワクワク感は忘れられないですね。

平山:その代わりとして「てのひら怪談」みたいな本があるのはいいよね。色んな作家が載ってるから、自分の好みも知ることができるし。

朝宮:人選については考えていたことがあって、ビーケーワン怪談大賞の出身作家にぜひ参加していただきたかったんです。それで1巻目は黒史郎さん、今回は田辺青蛙さんと朱雀門出さんに加わっていただきました。

平山:あのコンテストから今活躍している作家がたくさん出たよね。

朝宮:私もそうなんです。2000年代初頭、ビーケーワン怪談大賞は800字怪談のムーブメントを作りましたよね。あそこから世に出た若手が子を持つ世代になり、児童書を作る側に回るというのも面白いかなと思います。

平山:実はおれもいたずらして応募したんだよ。そしたら徹ちゃん(福澤徹三氏)が、「平山夢明っぽすぎる」って落としたの。おれが書いてるんだから、当たり前じゃん。ひどい話だよ!

朝宮:実はそれもあって今回平山さんにお願いしたんです(笑)。最近は数分で読めるショートショートが子どもたちに大人気ですが、「てのひら怪談」はその元祖ともいえるシリーズ。800字怪談の可能性を私なりに伝えていきたいとも思っています。

平山:ちょっとした合間に読めるし、難しい漢字もないからさ、大人でも頭を使わずに楽しめる。全国のガソリンスタンドやラーメン屋に並ぶくらい広まってほしいよね。

朝宮:それはいいですね。『課長島耕作』の隣に「てのひら怪談」が。

平山:そうそう、怪談ってそのくらいの距離感で楽しむものなんだよ。

「ダ・ヴィンチ」2023年3月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

プロフィール


(写真左)ひらやま・ゆめあき●1961年、神奈川県生まれ。ホラーや怪談、犯罪小説などのジャンルで人気を博す。作品に映画化された『ダイナー』の他、『独白するユニバーサル横メルカトル』『他人事』『あむんぜん』『八月のくず』など。

(写真右)あさみや・うんが●1977年、北海道生まれ。ホラーや怪談が専門のライター・書評家として『怪と幽』などさまざまな媒体で執筆。『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』などホラーアンソロジーの編纂も手がけている。

書籍紹介

【最新刊】



『てのひら怪談 見てはいけない』
朝宮運河:編 黎:絵
蒼月海里、阿泉来堂、石川宏千花、織守きょうや、小林丸々、朱雀門 出、田辺青蛙、針とら、平山夢明、緑川聖司:作
ポプラキミノベル 748円(税込)

大好評を博した児童書版「てのひら怪談」シリーズの第2弾が早くも登場。ショッキングな幕切れの平山夢明「どろんこんこ」、不条理な味わいの朱雀門出「電柱人間の話」など、人気作家10名が贈るてのひらサイズの怪談50編。

【シリーズ既刊】



『てのひら怪談 こっちへおいで』
朝宮運河:編 黎:絵
黒川裕子、黒 史郎、最東対地、澤村伊智、地図十行路、内藤 了、にかいどう 青、藤白 圭、
松原秀行、吉田悠軌:作
ポプラキミノベル 748円(税込)

怪談・ホラー、児童書の名手が、800文字以内で紡いだ怖い話、不思議な話、奇妙な話の宝箱。子どもはもちろん大人の怪談ファンも夢中にさせた「てのひら怪談」の新シリーズ。

【平山さん新刊 20編の連作収録】



『俺が公園でペリカンにした話』
平山夢明
光文社 2640円(税込)

ヒッチハイカーの〈おれ〉が旅先で出会うのは、噓つきに犯罪者、変質者などろくでもない大人たちばかりだ。人間のどうしようもなさを極限まで見据えた、平山ワールドの真骨頂。

【朝宮さん編纂のアンソロジー】



『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』
朝宮運河:編 綾辻行人、井上雅彦、今邑 彩、岩井志麻子、小池真理子、澤村伊智、鈴木光司、福澤徹三:著
角川ホラー文庫 748円(税込)

国産ホラーシーンと併走してきたレーベル・角川ホラー文庫の収録作から、極上の恐怖譚8 編を厳選したアンソロジー。第2弾『恐怖』も発売中。

【怪と幽紹介】



怪異と幻想の壮大な集積場「鎌倉」を特集!
『怪と幽』vol.012 
KADOKAWA 1980円(税込)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000145/
公式Twitter @kwai_yoo

●特集1「鎌倉」
[対談] 澤田瞳子×米澤穂信
[寄稿] 赤澤春彦、荒俣 宏、千街晶之、武川 佑、中野晴行、東 雅夫、山田雄司、吉田悠軌

●特集2 濱地健三郎の事件簿
[対談] 有栖川有栖×山崎ハルタ
[寄稿] 一穂ミチ、今村昌弘、織守きょうや、佳多山大地、千街晶之、マギー

●小説 京極夏彦、小野不由美、有栖川有栖、山白朝子、恒川光太郎、澤村伊智、織守きょうや、新名 智

●漫画 諸星大二郎、高橋葉介、押切蓮介 ほか


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