話題の小説『コロナの夜明け』――長い長い夜にも似たコロナ下の日々を描く、ルポルタージュ的な物語でありつつ、とびきり臨場感あふれる「仕事小説」です。そして実は、孤独に奮闘する仕事人が心強い仲間と出会ってゆく話でもあったりします。
主人公の感染学研究者・生月碧はいかに戦い、苦悩し、どんな人たちと出会い、何を得たのか。彼女と仲間たちの3年間はそのまま、わたしたちの過ごした時間でもあります。
コロナの夜明けを呼び寄せる人々
Chapter1
戦いは、孤独に始まった
「私は何をしているのだろう--」
私立大学で感染学を教える教育者で、一介の研究者だったはずの生月碧は新型コロナ流行発生で厚労省時代からのパンデミック対策の実績を買われ、気がつけば連日テレビで発言することになってしまった。メインの出演番組である「ニューススタジオ」のMC・綾野大生は、碧にレベルの高い要求を突きつけ続ける。まったく定まらない国の方針や、ザル同然の感染対策に学者として真摯な警鐘 を鳴らす碧は、SNSや週刊誌の批判にさらされ、プライベートまでも侵害されてゆく。
一方でかつての上司・沢田からは、政治を動かして事態を打開しろとプレッシャーをかけられ、忙しいテレビ出演の合間を縫って碧は厚生労働大臣や閣僚経験者らに電話をかけ続ける羽目に。食欲も失せ、やせ細ってゆく彼女を心身ともに救ったのは、ディレクターの佐々木虹が「実家の米」で握ってきた塩むすびだった。
Chapter2
それぞれの立場で、苦闘する人々
「ああ、温かい。母さんがまだあったかい……」
碧の感染学研究所時代の同期・溝越健司は空港検疫所に勤務する、最前線の医者だ。コロナパンデミックについて碧と同等の知識と高い危機感を持つ溝越は、水際対策の徹底を上申するがことごとく上司に潰される。一方、呼吸器内科クリニック医師の石橋仁は、増え続ける患者を受け入れることができず、ベッドどころか酸素までも不足する中で怒りと悲しみに震える。保健所職員の鈴木は苦しむ患者の受け入れ先を見つけることができず、罪悪感で潰れかかっていた。弁護士の神崎はコロナに罹患し、社会から切り離された患者の実情を身をもって体験することになる。そんな中、高齢者をはじめとした死者が次々と――碧の大学の同僚、梅村教授は母を喪い、焼かれたばかりの熱い骨壺を抱いて落涙する。碧は殺人的な多忙とボロボロの体調をものともせず、啓発書の執筆に乗り出した。しかし、碧を心配する綾野大生は出版をやめさせようとするのだった。
Chapter3
困難が、わたしたちを結びつけてゆく
「ばーか、碧。おまえ、こんな本一冊で世の中、変わると思ったのか?」
突貫スケジュールのため半ば監禁状態になりながらも、碧は本を書き上げた。さらなるバッシングが碧を待ち受けるが、刊行は多くの人々に勇気を与えてゆくのだった。
石橋医師は私財を投じて入院施設を作り、大臣のポジションを外れても田川は政治家としてコロナの医療確保に立ち向かう。保健所職員の鈴木が碧に伝えた現場の悲痛な叫びは、田川へとリレーされてゆく。
碧が大学で顧問をしている野球部のメンバーたちは、コロナ下で練習の自由さえも制約されるなかで健闘し、エースの須崎選手はドラフト1位の指名を受けた。著作の印税をつぎ込んで差し入れをするなど、全力でサポートをしていた碧は彼らの姿に感動の涙を流す。
ロサンゼルス赴任となった佐々木虹も、日本のコロナ行政を見限って途上国の医療支援に旅立った溝越も、距離と時間を超えて碧と共闘する仲間だ。夜明けは遠いのかもしれない。しかし、この結びつきがいつか、夜明けを呼ぶことができるのかもしれない。
感涙のラストで、彼女はある「決断」をする――。
コロナの夜明け
著者 岡田 晴恵
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2022年12月28日
あの感染症禍を経験した、すべての読者の胸を揺さぶる「わたしたち」の物語
始まりは、感染症研究者の生月碧にかかってきた1本の電話だった。「中国・武漢で未知のウイルス感染症が発生」。その新型コロナウイルスは、世界全体を巻き込む未曾有のパンデミックを引き起こした。碧は連日メディアに出演し、正しい感染症対策を訴え続ける。しかし、政府の対応は後手後手に終始、やがて緊急事態宣言が発出されるも感染者数は爆発的に増えていく――。それでも諦めない碧は、志を同じくする医師の石橋や保健所の鈴木たちとともに、懸命に闘い続ける。この暗闇の先に、きっと「夜明け」があるはずだと信じて。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322208000301/
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