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特集

コロナ禍を体験した「わたしたち」の物語 『コロナの夜明け』 岡田晴恵インタビュー

あの感染症禍を経験した、すべての読者の胸を揺さぶる「わたしたち」の物語。最新作『コロナの夜明け』著者・岡田晴恵インタビュー

2022年12月28日、 岡田晴恵さんの新作小説『コロナの夜明け』(角川書店)が発売された。昨年には自身の新型コロナウイルス感染症との闘いを書き下ろした『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』を新潮社より刊行し、話題となった。本書を執筆するにあたり岡田さんはあえて小説という形式を選んだという。その理由や作品について詳しくお話を伺った。感染免疫学、公衆衛生学の専門家として、新型コロナウイルスを始めとする感染症対策に関する情報を発信する作家ならではの視点をお楽しみいただきたい。



パンデミックに立ち会った人間として、書き残したかった


――なぜ今回はあえて「小説」という形式を選ばれたのでしょうか?

 私はこれまでにも、専門書や解説書だけではなく、小中学生にも読めるファンタジー小説や絵本、一般向けの小説も書いてきました。それらに共通するテーマは「感染症」です。人は実際に経験しないと本当のことはわからない。ところが、感染症を経験すれば大変つらい思いをします。ですから小説で疑似体験していただくことによって、感染症の予防や対策について理解していただきたいという思いを持ってきました。
 宮尾登美子先生の『櫂』には、結核に苦しむ息子さんの看病が描かれます。大正時代の新型インフルエンザだった「スペイン風邪」も出てきます。この作品は当時の感染症を極めて正確に描いているため、まるで時代の生き証人のように、人々の苦しみを今に伝えてくれます。私もこの時代のパンデミックに立ち会った人間として書き残したかったし、残すべきだと思いました。


――作中のエピソードは実際の出来事を参考にして書かれたものが多いとうかがっていますが、最も印象深いものを教えてください。

 作中の報道の場面では、いっしょに番組を担当してくださった十数人のキャスターの方を「綾野大生」という一人のキャラクターにまとめました。また、数十人いらしたディレクターの方は「佐々木虹」という女性一人に、複数の番組を「ニューススタジオ」という架空の番組にまとめました。『コロナの夜明け』を執筆している間は、多くの方々に助けられながらなんとかやり遂げようとしていた当時のことを思い出していました。
 虹が碧に「先生、これ食べて」と塩むすびを渡すシーンは、本当に思い出深いです。実際に、塩むすびを用意してくださったディレクターがいたのです。優しい思いやりのある温かな人で、いい番組を作っておられました。いっしょにケーキを食べた思い出もありますが、ひとりで食べるより何十倍も美味しかった。あの時は助けられました。

小説はより“本当のこと”を描く


――2021年に刊行された『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』(新潮社)との違いはどこだとお考えでしょうか?

『秘闘』はノンフィクションですので、事実を正確に書き残すことに徹しました。つらく厳しい作業でしたが、どうしても通らなければならない道でした。その役目をこなしたからこそ、フィクションに行けたのだと思います。
 小説は作りごとですが、真実を描きます。創作であっても、より“本当のこと”を描く。『コロナの夜明け』にはコロナ禍で闘う人、翻弄される人、さまざまな人間が登場します。検疫官、報道人、臨床医、感染して療養ホテルで苦しむ弁護士、どうにか対策を打とうと奔走する政治家、保健所職員、進んで看取りを引き受ける看護師、孤立する高齢者福祉介護施設の施設長、リモート講義で悩む大学生、試合に勝ちたいと願う野球部員や彼らを支えるコーチと監督。コロナ禍でほとんどの仕事を失った舞台芸人の方も出てきます。
『コロナの夜明け』は、こうした方たちに取材し、ともに歩んだ私自身の経験と思いをなぞりながら書いた群像小説です。ていねいに人々を描くこと、その思いを残すことに心を込めました。そこが、『秘闘』との大きな違いです。

感染症に対処するため必要なことは?


――2020年以来たびたび感染拡大に見舞われ、2022年末の現在は「第8波」といわれる状況にありますが、コロナ政策において最も大事なことは何であるとお考えでしょうか?

 医療の確保です。発熱した人に自宅療養をと言っても、コロナ、インフルエンザ以外の感染症や病気の可能性もあります。実際に受診して確定診断が出たら、薬をいただいて自宅で療養。入院が必要な人は医療機関へ。患者さんが医療機関から溢れるような事態を阻止しなければいけません。「最小から最大の効果を生む」という発想のもと、限られたマンパワーで多くの患者さんを救うために、大規模集約医療施設の設置が必要です。『コロナの夜明け』では、作中のキャラクター、厚労大臣の「田川先生」も熱弁を振るって奔走しておられました。


――新型コロナウイルス感染症に限らず、感染症に対処するため、人間にとって最も必要なことはなんでしょうか?

 思いやりです。振り返って他の方々を見て、助けが必要なら手を差し伸べることです。京都の永観堂には、お顔が左を向いた「みかえり阿弥陀」があります。その姿には、人は助け合って生きていくものという慈愛の心が溢れています。感染症でなくとも、大きな困難に直面したときに必要なのは、優しさと温かさをもって共に生きていくという気持ちであろうと思います。

著者プロフィール



岡田晴恵(おかだ はるえ)
白鴎大学教育学部教授。共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士号を取得。国立感染症研究所、ドイツ・マールブルク大学医学部ウイルス学研究所、経団連21世紀政策研究所などを経て、現職。専門は感染免疫学、公衆衛生学。テレビやラジオへの出演、専門書から児童書、小説まで幅広い執筆、講演活動などを通して、新型コロナウイルスを始めとする感染症対策に関する情報を発信している。2021年に自身の新型コロナウイルス感染症との闘いを書き下ろした『秘闘 私の「コロナ戦争」全記録』を新潮社より刊行し、大きく話題となる。

作品紹介



コロナの夜明け
著者 岡田 晴恵
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2022年12月28日

あの感染症禍を経験した、すべての読者の胸を揺さぶる「わたしたち」の物語
始まりは、感染症研究者の生月碧にかかってきた1本の電話だった。「中国・武漢で未知のウイルス感染症が発生」。その新型コロナウイルスは、世界全体を巻き込む未曾有のパンデミックを引き起こした。碧は連日メディアに出演し、正しい感染症対策を訴え続ける。しかし、政府の対応は後手後手に終始、やがて緊急事態宣言が発出されるも感染者数は爆発的に増えていく――。それでも諦めない碧は、志を同じくする医師の石橋や保健所の鈴木たちとともに、懸命に闘い続ける。この暗闇の先に、きっと「夜明け」があるはずだと信じて。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322208000301/
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