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特集

コロナだってなんだって、絶対に旅は諦めない。世界から旅が消えた今だからこそ読みたい、自宅にいながら旅へ連れ出してくれる、極上の紀行作品4選

 旅に出たい――。
 新型コロナウィルスの感染拡大により世界からとつぜん旅が奪われて、悶々鬱々と過ごしている人は多いのではないでしょうか。どうにかその気持ちをなだめようと、ある人はテレビで旅番組を観るかもしれません。またある人は、動画サイトで興味のある国を覗いてみたり。あるいは、地図アプリで脳内旅行、という方もいるかもしれません。
 どれもとても楽しい「旅」ですが、もしもそれらに飽きたら、旅の本を読んでみるというのはいかがでしょうか。
 紀行作品には、それ固有の良さがあります。
 まず、旅の時間を自分で決められること。数時間で一つの旅を終えてもいいですし、好きな時に少しだけ楽しむことにしたなら、数週間、数か月の長旅になることも。でもむしろ、忙しい毎日には決して許されない長旅ができて、どこか得した気分さえにしてくれるのが、旅の本の魅力のひとつです。
 さらに、優れた紀行作品は、移動手段や旅先の案内だけにとどまらず、「どうやったら旅を自分だけの面白いものにできるか」、その心構えまで教えてくれます。読み終わる頃には、その心構えを携えてまた必ず旅に出たくなること請け合いです。
 今回「カドブン」では、旅を愛する書評家・タカザワケンジさんに、梯久美子さんの最新作『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』を中心とした「今だからこそ読みたい旅の本」「読んだら旅に出たくなる紀行作品」4冊を厳選していただきました。
 世界が止まってしまった今だからこそ、ゆっくりゆっくり、本の旅を楽しみませんか?



『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』
梯 久美子:著
(KADOKAWA)
定価(本体1,700円+税)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321808000037/

 修学旅行などでやらされた「事前学習」が苦手だった。行けば目にするものをなぜわざわざ前もって調べる必要があるのかと反発を感じた覚えがある。
 しかし旅を(年齢を?)重ねるにつれ、事前学習の面白さがわかってきた。その場所の知識を持つことで、知らなかったら気づかなかったこと、見えなかったことに出会えると知ったからだ。
『サガレン』の面白さはまさにそこにある。著者の梯久美子はサハリン/樺太を旅するにあたり、資料を揃えて調べている。その知識を見聞に重ね、さらに疑問に思ったことを旅の後に調べるという徹底ぶりだ。
 本書は二部構成になっている。第一部では寝台列車の旅。中心となるのは林芙美子が1934(昭和9)年に樺太を旅し、残した紀行文(「樺太への旅」)を読み込んでいく部分。芙美子が樺太で食べたパンとパン屋について事実を発掘していくプロセスはスリリングだ。
 第二部では、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のモデルになったと言われる泊栄線を中心に、妹トシを失い精神的危機にあった賢治の旅に、新たな光を当てている。賢治が残した詩の一節と事実を照らし合わせることで、身体の移動とは別に、心の旅があったことが見えてくるのだ。
 紀行文といえば、一般には旅行で見聞した「いま」を書くものであろう。しかし、旅するとき、私たちはしばしば過去へ、歴史へと思いをはせる。旧跡が名所になるのはそのためだ。梯はノンフィクション作家という職業で培ってきた調査方法を用い、「いま」と「歴史」を重ね、漫然と旅しただけでは見えなかったものを見つけ、そこにあったドラマを掘り出す。
 このような旅ができたら、とうらやましく思う読者はたくさんいるだろう。私もその1人だ。



『十五の夏』 上・下
佐藤 優:著
(幻冬舎)
定価(本体各1,800円+税)

 著者が高校1年の夏に東欧とソ連を1人で旅した記録を、約40年後にまとめた長篇紀行。のちにロシアの専門家になった著者だけに、当時の見聞を手がかりに70年代半ばの社会主義体制下の人々の生活を冷静な目で分析している。社会体制が変わり、世界も変わったいま、ここに書かれているような場所はもうどこにもない。過去の旅を見つめることは、歴史を見つめることでもある。



『バンコクナイツ 潜行一千里』
空族(富田克也・相澤虎之助):著
(河出書房新社)
定価(本体1,600円+税)

 傑作映画『バンコクナイツ』の製作ドキュメントであり、タイ・ラオスの歴史をモーラムという彼の地の民謡を手がかりに探る紀行でもある。バンコクの夜の町、タニヤからそこで働く女性たちの故郷、東北タイ、そしてラオスへと足を延ばした彼らは、そこで近現代史の闇に触れることになる。映画(フィクション)と本(ノンフィクション)を行き来するダイナミズムに満ちた旅。



『マレー蘭印紀行』
金子光晴:著
(中公文庫)
定価(本体648円+税)

 古典的名著。夫人とともにマレーシア、シンガポール、インドネシアを、1926年に旅した詩人の紀行文。東南アジアの自然の生命力と、そこに生きる人々の姿が緩急自在の文章で綴られている。当時の言葉遣いはすらすらと読み進められるものではないが、『サガレン』で梯久美子がしたように、旅をしながら一文一文丁寧に読み込んでいけたらどんなに贅沢だろう。それを実現しているのが、金子光晴の足跡を追って旅した写真家、横山良一。横山の『金子光晴の旅 かへらないことが最善だよ。』(コロナ・ブックス) は『マレー蘭印紀行』を難解に感じた人にもおすすめできる。ここにも過去と現在が二重写しになった旅がある。


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