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特集

怪談実話と妖怪画がクロスオーバー 斬新な手法で2度美味しい! 『夜行奇談』東亮太インタビュー【お化け友の会通信 from 怪と幽】

作者が長年収集してきた、得体の知れない不気味な話。そこに敢えて妖怪という“得体”を添えてみたらどうなるか。東亮太さんの『夜行奇談』はそんな狙いで書かれた怪談集だ。
現代的な実話系怪談と鳥山石燕の妖怪画、そのクロスオーバーが新たな恐怖を生む!

取材・文:朝宮運河 写真:橋本龍二

『夜行奇談』東亮太インタビュー

ライトノベル作家の東亮太さんが初の実話系怪談集『夜行奇談』を発表した。小説投稿サイト・カクヨムに掲載した200あまりの掌編怪談から、51話分を書籍化したものだ。

「少し時間があったので、いつもと毛色の違う作品をカクヨムに書いてみようと思い立ったんです。ホラー系はもともと好きでしたし、ライトノベルの世界ではホラーの企画が通りにくいこともあって、いくつかのアイデアの中から『夜行』を連載することにしました」

登山者が山の頂で見かけた笑う老婆、白い大きな犬が引きずるもの、夜の合宿所を走り回る小さな男の子―。ふとした瞬間、日常に入り込んできた得体のしれないものたち。どの話にも不条理さと、奇妙な怖さが渦巻いている。

「なんだかよく分からない話が好み。誰それの幽霊ですと説明がつくより、最後までなぜそれが起こったのか分からない方が怖いと思います。それとホラーで大切なのが、自分にもそれが降りかかるかも、という距離感。自分にそれがうまくできたか分かりませんが、カクヨムの反応を見ている限り、怖い話として受け止めてもらえたようです」

実話系怪談を書くのはこれが初めてだったという東さん。“怪談実話らしい”スタイルを意識し、よりリアルな怖さを演出できるように工夫したそうだ。

「怪談の文章を考えるうえで参考になったのは、京極夏彦さんの『旧談』。江戸時代の随筆集『耳嚢』を、今の怪談のスタイルで書くという試みです。あれを読んで、怖さはネタよりもむしろ、人名や地名をイニシャルにして伏せたり、シンプルな文章を積み重ねたり、というスタイルの部分が醸し出している、ということを学んだんです。『夜行奇談』でも同じような技術を使って、小説よりむしろルポに近い感じを目指しました」

怪談集か? 妖怪本か?

しかし、である。『夜行奇談』は単によくできた実話系怪談集、というわけではない。たとえば冒頭の「切り株」は切り倒された松の木の祟りと、その切り株に座っている白い着物姿の老人にまつわるエピソードだ。しかも川の向こうに立つもう一本の松の木には、老婆が現れるという。このぞっとする怪談のすぐ後に掲載されているのが、江戸時代の絵師・鳥山石燕とりやませきえんが描いた妖怪・木魅の絵。このように51話すべての怪談に、石燕の妖怪画が付されているのだ。これは怪談集? それとも妖怪本?このユニークな試みについて、東さんはこう述べている。「世の中には時々、常識では説明がつかないような、得体の知れない不気味な話がある。(略)しかし今回はその一話一話に、敢えて『得体』を添えてみることにした」(「はじめに」)。

「得体の知れない話の『得体』の部分として、石燕の妖怪画が使えると気づいたのが作品の出発点です。怪談と妖怪をうまく繋げられたら、きっと面白いものになるとは思いましたが、石燕の描いた妖怪って200体以上いるんですよね(笑)。やるからには全部やらないと意味がないので、カクヨムでは時間をかけてすべて執筆しました。今回書籍にしたのはその中でも、石燕の代表作『画図百鬼夜行』に載っている51体分です」

怖い話を見たり聞いたりした際、現代人が妖怪の存在を思い浮かべることはあまりないだろう。しかしかつての日本人はそうではなかった。たとえば立ち入り禁止の沼に幼い子が招き寄せられるという怪談(「沼」)は、以前なら河童のしわざとされていたかもしれない。

「基本的に現代の怪談は、すべて幽霊の話に変換されてしまいます。別に幽霊が出てこない話であっても、語られていく過程で『それは何年前に死んだ人の霊で』という話にすり替わってしまう。その方が現代人には納得しやすいし、リアリティも感じられるんでしょうね。しかし怖いのが幽霊だけだと思ったら大間違い。妖怪だって見方によってはこんなに怖いんだよ、ということは妖怪好きとして書いておきたかった」

そう語る東さんは年季の入った妖怪ファン。妖怪を題材にしたライトノベルを執筆し、『ゲゲゲの鬼太郎』のノベライズも担当している。

「子ども向けの民話の本に載っているおばけの話と、水木しげるさんの妖怪図鑑が大好きで、そこから妖怪の道を進むことになりました。小学生の頃、世間は霊能者の宜保ぎぼ愛子あいこさんブームで、同級生はよく心霊番組を見ていましたが、僕は怖がりなのでそっちには行かずに(笑)。ただ大学生の頃に都市伝説というものの存在を知って、これは現代の妖怪だなと気がついたんです。口裂け女にしてもトイレの花子さんにしても、構造的には妖怪と変わらないんですよ。そのあたりから怪談の本も読むようになりました」

「得体」を想像する仕掛け

そんな東さんが手がけているだけに、妖怪の扱い方もなかなかにマニアックだ。飲食店のロッカーに貼られた顔写真シール(プリクラ)が何度捨てても戻ってくるという呪物怪談「シールの女」。この話を読んで、絡新婦(じょろうぐも)を連想した人がどれだけいるだろうか。

「1話目の『切り株』は妖怪好きが読めばひと目で、これは木魅こだまの話だなというのが分かると思うんですが、繋がりが分かりにくいものもあります。絡新婦は伊豆の浄蓮の滝の近くで男が休んでいたら、蜘蛛がくり返し足に糸をかけてきて、その糸を貼りつけた切り株が滝に呑みこまれていった、という伝説があるんです。怪談の得体を決める時には、石燕の絵だけでなく、こうした周辺情報もあわせてヒントにすることが多いですね。たとえば『子宝館』という話には、動物の剥製を逆さ吊りにした変な施設が出てくるんですが、これは石燕の黒塚よりも、むしろ同じ安達ヶ原の鬼婆を描いた幕末の浮世絵師・月岡芳年つきおかよしとしの絵と共通点があります。何の妖怪の話なのか、クイズに挑戦するような気持ちで考えてみるのも楽しいんじゃないでしょうか」


「木魅(こだま)」
(鳥山石燕『画図百鬼夜行』より)
樹木に宿った精霊、もしくは精霊が宿った樹木。
石燕は老夫婦の姿を描いている。
国立国会図書館所蔵

そのほか、石地蔵に相次いで異変が起こる「欠けていく」、障子のすき間から異形のものが覗く「寺に出るもの」など、妖しさと怖さに満ちた全51話。

「個人的に気に入っているのは『学ぶ男』。コンビニにおかしな客がやってくるという怪談ですが、絵を見た瞬間、そういうことかと納得してもらえると思います。カクヨム版は妖怪の説明を文章でしていたんですが、書籍版は石燕の絵を入れられたので、ひと目でぱっと得体が分かる作りになっています。書き下ろしも入っているので、ネットで読んだ方も書籍版を手に取っていただけると嬉しいです」



「獺(かわうそ)」
(鳥山石燕『画図百鬼夜行』より)
人に化けた獺は、人間なら「おらや」と言うところを「あらや」と答えるといわれる。
国立国会図書館所蔵

“おばけの話”という共通点はありながら、従来微妙に距離があった怪談と妖怪。『夜行奇談』はその二つを重ね合わせることで、奥行きのある恐怖を生み出した野心作だ。現代的な怪異の向こうに、怪しき百鬼夜行の世界が見えてくる。

「昔2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)の実話怪談スレッドに、これは明らかに河童の話だよな、という怪談を投稿している人がいたのを覚えています。一見ただの怪談なんですが、好きな人が読むと妖怪ネタだと分かるように書いてある。そういう話が好きな人なら『夜行奇談』もきっと楽しんでもらえると思います。『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメにも時々ホラー色の強い回がありますし、もともと妖怪と怖い話は親和性があるはずなんですよ。『妖怪ってこんなに怖かったんだ』と感じてもらえたら、この本を書いた甲斐があるというものです」

「ダ・ヴィンチ」2023年9月号の「お化け友の会通信 from 怪と幽」より転載

プロフィール



あずま・りょうた
東京都生まれ。第10 回スニーカー大賞“ 奨励賞” を受賞した『マキゾエホリック』で2006 年にデビュー。著書に「妄想少女」「異世界妖怪サモナー」各シリーズ等のラノベ作品の他、水木しげる原作/絵のノベライズ『ゲゲゲの鬼太郎おばけ塾 豆腐小僧の巻』等がある。

書籍紹介

『夜行奇談』



東 亮太
犬が引きずる白いモノ。沼に誘われる少年。頬かむりで踊る白い集団。ロッカーに貼られた女のシール。紅蓮のハト。屋根裏のドールハウス。欠けてゆく地蔵―。著者が何年もかけて蒐集した「得体の知れない話」と「得体」を収録。2度読み必至のシン・百鬼夜行!

『怪と幽』紹介

2023年8月31日発売予定
『怪と幽』vol.014
KADOKAWA
特集1 奇想天外 きのこの怪
特集2 幽霊と魔術の英国
小説:京極夏彦、小野不由美、有栖川有栖、澤村伊智
漫画: 諸星大二郎、高橋葉介、押切蓮介
エッセイ● 小松和彦、加門七海、東 雅夫
公式Twitter @kwai_yoo
https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000343/


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