文/雪代すみれ
笑いながらエンパワーされる作風の「ひょうきんフェミニスト」で、作家のアルテイシアさん。新刊『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』が刊行されました。今回は、友人でもある東京新聞記者の望月衣塑子さんと、ジェンダーをテーマに対談を行いました。お二人の「モヤモヤ」「あるある」のエピソードを聞きながら、みんなで膝パーカッションしませんか。
望月衣塑子×アルテイシア対談
【前編】ジェンダーの話になるとバグる夫の件
妻の出世を喜ばない夫
アルテイシア(以下、アル) 今日はお話しできるのを楽しみにしてました!
望月衣塑子(以下、望月) こうして対談するのは2021年以来だよね。
アル:そうそう。それ以来、飲み友だちでもあって(笑)。今日は「ジェンダーを学ぶと生きやすくなるよ」という話をしたいと思います。
まず話したいのが、パートナー間のジェンダー問題について。
たとえば、私の女友だちの夫は優しくてリベラルな人で、家事育児も公平に分担している。もともと妻の方が学歴も年収も上なんだけど、妻が出世して昇給した時に夫が喜んでくれなかったんだって。
夫の昇給を喜ばない妻はあんまりいないよね? 世帯収入が増えたら単純に助かるし。
それで彼女は「うちの夫も本音はコンプレックスがあるのかな、男の自分が上でありたいのかな」って嘆いてた。
望月:リベラルな夫でも、妻が自分より稼ぐのは複雑な気持ちになるのかな。
アル:医者の女友だちは、同業の夫に「俺より目立つな」とハッキリ言われたらしい。望月さんは夫さんも新聞記者だよね? 夫さんがライバル視してくることはないですか。
望月:それは全然ないですね。もともと他社の先輩記者だったこともあって、アドバイスをくれることはあるけど、嫉妬されることはないな。私はSNSで自分が伝えたいと思っているジェンダーや武器輸出、日本学術会議、入管、メディアの問題などを発信しているけど、そのことについても応援してくれます。「こういう書き方の方がいいよ」とかアドバイスしてくれたり。アルちゃんの夫もライバル視してこないタイプだよね?
アル:うん。結婚した当初、「私の方が学歴や年収が上なのを気にしたことあるか?」って聞いたら「そんなの気にする男がいるのか?」って逆に聞かれた。
「嫉妬する男もいるんだよ」って言ったら「もし君が吉田沙保里みたいなレスリング世界チャンピオンだったら多少は嫉妬するかもしれないけど、もし君が吉田沙保里だったら一緒に道場を開きたい」って(笑)。
望月:あはは(笑)。夫は格闘家なんだよね。
アル:そうそう。あと「君は妻が出世したら喜ぶか?」と聞いたら、「『おめでとう、がんばったな、すごいな』とは言うけど、本音は潜水日本一の方がすごいと思う」って言ってた。
望月:なんでそういう独特な人物に育ったんだろうね。
アル 彼は小さいころから昆虫や恐竜オタクで、幼稚園のアルバムに「お友だちと遊ばずにカマキリを探してます」って書かれてた。あと「大きくなったら恐竜になりたい」と夢を書いていて、それを読んでほっこりしてたら「今でもなりたい」とまっすぐな目で言われた。
そういう自分軸で生きている人だから、世間軸に流されないし、世間の評価に興味がない。だから「男は女より上であるべき」みたいな価値観もないんだと思う。
望月:なるほど。「男が上じゃないと恥ずかしい」みたいな歪んだプライドもないんだろうね。
アル:望月さんは夫さんと、家事や育児のことでけんかになったりすることは?
望月:うーん、それもないなぁ。家事や育児に関しては、うちは古典的な性別役割分業のイメージとは逆転していて、夫がメインで私がサブという感じ。
夫はもともと一通りの生活スキルを持ってたし、むしろ私以上に器用で、子どもたちへのケアも上手。料理しながら子どもの面倒を見て、片付けもして……みたいなことができる人なんです。
子どもに勉強を教えるのも、私はイライラしてしまうんだけど、夫は丁寧に教えてる。子どもたちからも「ママよりパパがいい!」って言われます(笑)。
アル:おお~~、私も望月さんちの子どもに生まれたい人生だった。
望月:でもママ友の話を聞いてると、うちがイレギュラーなのはわかる。コロナ禍で夫婦共にリモートワークしてるのに、家事や育児は妻に任せっぱなしで夫は仕事部屋から出てこない、それでストレス溜めてるって話を聞くことも多くて。
私より一回りくらい下の世代は、家事も育児も協力してという夫婦が多いけど、同世代だと男らしさ、女らしさの規範にまだまだ縛られている気がするな。50代を超えると、完全に妻に家事・育児を負担させている男性が圧倒的だと感じます。
だからジェンダー平等への理解が知識としてはあっても、どの程度、実生活の中で実践できているのか、やりとりをしていて疑問を感じる男性は多いな(笑)。周りに熟年離婚した夫婦もいるけど、以前から夫が妻を下に見るところが気になっていた夫婦だったりするから、やっぱりそこは大きいのかなと思う。
アル:「俺も家事育児は手伝ってるだろ!」みたいな。逆に妻が「私も手伝ってるよね」と言ったらどう思うのか。そういう当事者意識のない男性はいまだに多いよね。
普段は優しいのになぜ?
アル:男尊女卑のモラハラ野郎みたいな男性がいる一方で、普段は優しいのにジェンダーの話になるとバグる男性も多いよね。
たとえば妻が痴漢被害の話をすると「でも冤罪もあるよね」って返すとか。交通事故の被害者に向かって「でも当たり屋もいるよね」と返すのか? と聞きたい。
あとアニメで風呂覗きのシーンがあって、妻が子どもに「こういうのはダメなんだよ、犯罪なんだよ」って言うと、「そんな目くじら立てなくても」と夫が言ってくるとか。
望月:あるあるだよね。風呂覗きシーンを見て親も笑っていたら、子どもは「これはやってもいいんだ」と学んでしまうよね。
アル:子どもを加害者にも被害者にもしないことは、大人の責任だよね。夫がその責任を放棄していたら、そりゃ妻は離婚したくもなるよ。エロや下ネタがダメなんじゃなく、「性暴力をエロや下ネタとして扱うな」という話なんだよね。
望月:AVではレイプや痴漢、盗撮といった犯罪行為が描かれていて、ネットで簡単にアクセスできてしまう状況だよね。
AVを教科書にしてしまう
アル:西日本新聞に載ってたんだけど、強姦や強制わいせつの加害者に行った調査では、33.5%が「AVを見て自分も同じことをしてみたかった」と答えていて、少年だと5割近くに跳ね上がる。
もちろんAVを見た人が性犯罪をするわけじゃないけど、性犯罪をする人の中にはAVがトリガーになる人が現実に存在する。
(https://www.nishinippon.co.jp/item/n/207527/)
『おうち性教育はじめます』という本の中で、性教育の専門家の村瀬幸浩先生が「現実とフィクションの区別がつくのは10代後半から」と仰ってます。私自身、子どものころに『ガラスの仮面』を読んで土を食べていたからさ。
望月:土?!(笑)
アル:「こんなうめえもん食ったことねえジャリジャリ」って。私は自分のお腹を壊すだけですんだけど、性暴力は被害者がいるから。
日本はただでさえ性教育が遅れているよね。中学校で受精や妊娠について学ぶけど、「妊娠の経過は取り扱わない」という「はどめ規定」がある。つまり、性交については教えちゃいけないことになってる。妊娠について教えるのにセックスは教えちゃいけないって、どんなトンチだ。
望月:たしかに。教育現場の先生たちも委縮させられてるよね。
アル:最近よく中高生にジェンダーや性について授業するんだけど、「性的同意って言葉を初めて聞きました」「同意ってどうやって取るんですか?」って聞かれるよ。
望月:性交について教えず、性的同意を知らないまま、AVを教科書にしてしまうと、強引に性行為に持ち込んでも問題ないと考える子もいるだろうね。「嫌よ嫌よも好きのうち」を信じてしまったり。
アル:「女性は嫌がってるフリをするんですよね?」「女性は強引にされるのが好きなんですよね?」とか、信じてしまってる子も現実にいる。
性的同意について、私はNOと言われた場合の話もするのよ。「もし嫌だと言われても、あなたのことを嫌いとか、否定しているわけじゃないからね」「心の準備が整ってないとか、毛の処理をしてないとか、パンツとブラがバラバラで恥ずかしいとか、相手の事情で断ることも多いんだよ」って。
望月:すごく大事なことだよね。その認識をお互いに持ってないと、男性側が「断るなんて俺のこと嫌いなの?」って迫ったり、女性側が「嫌われないために、したくないけど受け入れなきゃ」って思ったり。結果的にどんどん心の溝が広がってしまう。
アル:ジェンダーや性教育に関する夫婦間のギャップに悩んでる話をよく聞くから、この本は男性にも読んでほしい。
読者の女性から「言っても伝わらないから夫のことは諦めてたけど、アルテイシアさんのコラムを読ませたら謝ってきた。今では夫は職場でジェンダー本の普及活動をしてます」って感想をもらって。最初から妻の話を聞けよ! とは思うけど(笑)。
望月:たしかに(笑)。でも自分で説明するのは難しかったり、けんかになったりもするので、身近な男性にこの本を渡すのはありだと思う。
(中編へ続く)
▼中編はこちら
https://kadobun.jp/feature/talks/entry-47871.html
プロフィール
アルテイシア
作家。神戸生まれ。オタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』でデビュー。現在はウェブ媒体などを中心に、女性が心地よく生きることをテーマに執筆している。ユーモアあふれるその文章には性別を問わずファンが多い。最新刊は『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』。ほか著書多数。
望月衣塑子(もちづき いそこ)
1975年、東京都生まれ。東京・中日新聞社会部記者。慶応義塾大学法学部卒業後、東京新聞に入社。各県警担当の後、司法担当として東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。現在は社会部遊軍記者。経済部などを経て社会部遊軍記者。2017年6月から菅官房長官の会見に出席。質問を重ねる姿が注目される。そのときのことを記した著書『新聞記者』(角川新書)は映画の原案となり、日本アカデミー賞の主要3部門を受賞した。著書多数。
作品紹介
自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ
著者 アルテイシア
定価: 1,430円(本体1,300円+税)
発売日:2022年12月27日
ジェンダーを知ると生きやすくなるよ――自由に自分らしく生きるヒント
(目次)
第一章 「繊細すぎる」という言葉に傷つくあなたへ
1 ジェンダーを学んで生きやすくなろう
2 ジェンダー感覚をアップデートさせる秘訣
3 心と体を傷つけられないための護身術
4 好きなおでんの具はなんですか--ハラスメントをなくすために
第二章 うっかり誰かを傷つけたくないあなたに
1 「○か月だったらもうしゃべるの?」--相手のつらさに寄り添うために
2 「そんなの普通だよ、大丈夫だよ」--苦しみを無視しないために
3 「〇〇なんて関係ないよ」--自分の特権に気づくために
4 「老後は沖縄に住みたいな」--無邪気に消費しないために
第三章 パートナーのジェンダー問題に悩むあなたへ
1 アサーティブな対話で夫婦円満ライフハック
2 「拙者のトリセツ」を作って夫婦円満ライフハック
3 ジェンダーの話になるとケンカになる問題
4 夫と子育てするのが無理ゲーすぎる問題
5 夫婦の家事問題を解決するライフハック
6 男性育休取得のためのライフハック
第四章 ヘルジャパンで傷ついた女子のお悩み相談室
1 恋愛経験ゼロだけど幸せな結婚がしたい
2 喪女歴が長すぎて婚活がうまくいかない
3 痴漢されてから婚活意欲が激減してしまいました
4 ジェンダーイコール男子はどこにいる?
5 発見! ジェンダーイコール男子はここにいた
特別対談 小島慶子さん×アルテイシア 「ジェンダーを知ればやさしくなれる!」
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322202001252/
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