『ダメじゃないんじゃないんじゃない』はらだ有彩さんトークイベントレポートを特別公開!
合言葉は「なんでダメか言うてみ?」
世の中で、なんとなく“ダメっぽい”ことになっている、不思議でときに腹立たしいルールの数々。そのルールは本当に必要なものなのか、ルールから逸脱してもっと生きやすくなってもいいのではないか?
そんな疑問を作家のはらだ有彩さんがイラストとテキストでつきつめる書籍『ダメじゃないんじゃないんじゃない』の刊行を記念し、トークイベント「なんでダメか言うてみ?」が開催されました。
書籍の目次に並ぶのは、《フレンチで女が「おあいそ」するのはダメじゃないんじゃない》《男の子がコスメと生きるのはダメじゃないんじゃない》《産休・育休で仕事に「穴を開ける」のはダメじゃないんじゃない》……これまでなんとなく「ダメ!」と言われてきた、もしかしたら他人に「ダメ!」と言ってきたかもしれないフレーズを疑う言葉たちです。
ここでは、参加できなかったみなさんにもトークの一部をご紹介! 2021年も年の瀬、今年出会ってしまった意味のない“ダメ”との戦いに終止符を打ち、息のしやすい2022年に向かいませんか。
『ダメじゃないんじゃないんじゃない』はらだ有彩さんトークイベントレポート
怒りながらふざけてみる
――今日のイベントタイトルは関西感満載、「なんでダメか言うてみ?」ですね。
はらだ:急遽つけたタイトルですね。(笑)
そもそもこの書籍は、深刻な問題をふざけながら考えるというコンセプトで執筆しました。同時に、 “ダメ”と思わされていることって、実は誰も「なぜ“ダメ”なのか」は知らないよねという発想も、執筆の原点にありました。これはその2つを合わせたタイトルですね。
世の中のルールに疑問を持つと、だいたいの場合、「まあまあ、そんなカッカせずに」とかって
――「ああ怖い怖い」とか言われますよね。
はらだ:こっちは「怒りたい」のではなく「怒らされている」のに、なんで理由も分からないルールを押し付けられて、ついでにユーモアもないことにされてんねん! と思ったんです。でもそれを真面目に言うと、また怒っていることにされてしまうので、こっちもふざけてみようと。ふざける権利まで奪われることはないですよね。
もちろん、笑いながら言ったことが他人を傷つけると本当に辛いことになるので、とても気を付けないといけないと思います。また、周囲にもふざけることを強要するというか、「柔らかく、笑いにまぶして主張しないとあなたの意見は聞いてもらえませんよ」と思わせてしまうのも絶対に避けなければと思います。
――笑いはいいこと、怒りは悪いことと思われがちですよね。
はらだ:怒って場の空気が悪くなると、正当な理由があって怒っているのに「自分が悪いのかな……」という気持ちになってきますよね。
しかも、怒るのって50mを全力疾走するみたいに疲れる。不当な思いをさせられて疲れさせられて、反論の気力もなくなってしまうので、寝ころがりながら50m分移動するような方法がとれないかなと思って、ふざけてみています。
――私は怒りが悪いものだという意識が強くて、30歳を過ぎてからようやく怒れるようになった気がします。
はらだ:とてもよくわかります。若いころになんとなく課せられていた、場の空気を盛り上げたり、にこにこ話を聞いて相槌を打ったりという“接待”の役割が求められなくなってきたというのもあると思います。でもそもそも、若いころからそんなことに苦しめられる必要はないんですよね。
笑ったり笑わせたりということは、周囲のためにとる行動ではないと確認するためにも、“ふざけ“を自分のものとして取り戻したいと思っています。
「今年ダメじゃなくなったもの選手権」
――このトークテーマは年末らしいくていいですね! 今年“ダメ”と言われなくなったもの、むしろおかしいと広く認識されたものということですね。
はらだ:最初に挙げたいのは、「女がいると会議が長くなると言われて反論するのはダメじゃないんじゃない」。これは、2021年2月、当時東京オリンピック(五輪)・パラリンピック大会組織委員会だった森喜朗さんが「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」と発言して、大きな非難を受けたことで表面化しました。
これまではそういった発言が許されてきたというか、「発言した人も悪い人じゃないから」と流されてきたと思うのですが、オリンピックの関連だったこともあって大きく注目されましたよね。もちろん発言の内容はひどいのですが、この件が
――このニュースを聞いたとき、以前会社で行った学生インターンの様子を思い出しました。優秀な学生さんがたくさん来てくださってグループワークをしたのですが、過半数のグループが、なんとなく男性に議長の役割を任せるんですね。その日の参加者=書類通過者は女性が多くて、手元の資料を見る限り、意見やアイディアがしっかりある方ばかりにもかかわらずです。未だ社会になんとなく漂っている、「会議を仕切るのは男性」という雰囲気が若い方たちにも伝わって、委縮させてしまっているのだと思うととてもショックでした。
はらだ:その現象に、私は名前を付けたんですよ。「喪主、なんとなく弟問題」です。お葬式を例にとって不謹慎かもしれませんが、長子が女性でも、喪主という役割は男性が担いがちという、これも突き詰めていけば“ダメ”の理由がよくわからないルールだと思います。
――今年ダメじゃなくなったもの、ほかには「困っているときに保障を求めるのはダメじゃないんじゃない」が挙がっています。
はらだ:「絶対にダメじゃないことばかり挙げている」と思われてしまうかも。(笑)
でも、これまでなんとなく、経済的に苦しい時に助けを求めるのは「図々しい」という風潮があったような気がするんですね。コロナ禍で、かつてなく多くの人が同じタイミングで苦しむ状況になったときにその状況が変わって、SNSでは「自粛と補償はセット」というフレーズが繰り返されました。
もちろんコロナウイルスの蔓延はなにかの試練ではないですし、なにかの“ため”に起きたことではありませんが、これも森さんの発言の件と同じで、「
――「要職についている人が育休を取るのはダメじゃないんじゃないんじゃない」というものもあります。
はらだ:先月のニュースになったのですが、経団連が2022年の春闘で会員企業に対して「女性社員の仕事と家庭の両立を支援しよう」と呼びかけることがわかり、批判が殺到したということがありました。女性が育児や介護で職を離れたあと、復帰するのを支援しようという意図ですが、そもそも育児や介護要員としてなぜ女性だけが想定されているのだろうという疑問がわきますよね。
そのすぐあとに広島県が発表した『働く女性応援よくばりハンドブック』という冊子には、「家庭と仕事、両方よくばっちゃおう」というテーマで制作されているのですが、「家庭と職場を両立させることがなぜ“よくばり”なのか?」という疑問が寄せられました。
私が最初の著作『日本のヤバい女の子』の刊行準備していた2017、8年ごろには、「女性が不均衡な構造によって搾取されている」と主張しても信じてもらえないのではと自分自身が恐れていた記憶があります。この3、4年で、問題があるのだということが広く認知されてきたと感じます。
――それぞれひどい出来事ではありますが、
はらだ:昨年から今年にかけては、コロナ禍で一気にテレワークが広まったこともあって、「仕事は会社でするものと決まっている」「家で働いてはいけない」という“ダメ”も急速に崩れました。
『日本のヤバい女の子 覚醒編』『日本のヤバい女の子 抵抗編』で昔話や神話に登場する女性たちのストーリーを追いながらも考えていたのですが、“ダメ”の基準は水物で、時代によって変わっていくものなんですよね。
一度“ダメ”じゃないことに気づいてしまうと、昔の意識に戻るのはほとんど不可能です。「もう”ダメ”じゃないと知ってしまった」という人を増やして、不当なことが流されないようにするこの戦法をこまめに使っていけたらと思いますね。
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当日はイベントの感想を #何でダメか言うてみ というハッシュタグ付きでtwitterに投稿いただき、視聴者のみなさんと盛り上がりました!
はらださんと編集部が検索させていただきますので、記事の感想をつぶやく際はぜひこちらのハッシュタグをご利用ください。
作品紹介
ダメじゃないんじゃないんじゃない
著者・イラスト はらだ 有彩
定価: 1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2021年10月29日
それって本当に「ダメ」なこと? 生きやすくなるための思考実験エッセイ!
この社会で「別にダメじゃないのに、なんかダメっぽいことになっている」アレコレ。
ちょっと立ち止まって、一緒に考えてみませんか?
『日本のヤバい女の子』著者による、「ダメ」の呪いを解いて明日が生きやすくなる思考実験エッセイ集!
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